「自走するシステム」を立ち上げる。フランスの農家での体験が現在に活きる。(三井物産 浜志門さん、田中里央菜さん 後編)

三井物産で森林事業を担当する二人に、仕事に対する思いと個人史を伺いました。

三井物産の社員ふたり
田中さん左と浜さん右

三井物産では森林資源の活用とそのための保全・育成を事業としており、気候変動(地球温暖化)問題の解決に貢献しています。

前編では、浜志門さんと田中里央菜さんに森林事業の内容についてお話を伺いました。後編では、お二人の思いや個人史を伺います。(以下、敬称略)


──インタビュアー(木村):今のお仕事に対する思いについて伺えますか。

浜:世の中によいインパクトを与えられる、と信じられるプロジェクトをビジネスベースで推進できる、まれな職場だと感じています。

木は植えられますし、育てられます。森林事業は、地球上にあるリソース(資源)を使い切ってしまうのではなく、新たにリソースを生み出していける点でサステナブルです。

田中:日々、「地球によいことをしている」という実感を持ちながら、仕事をできることが本当に幸せだと感じています。

以前から、「世界がよりよい場所になるために、私には何ができるのだろうか?」という漠然とした問を持っていました。今は、その答えの一つに取り組めていると思います。


──お二人は、以前からエシカルやサステナブルと呼ばれる領域に興味があったのですか。

浜:世の中によいことをしたい、という漠然とした気持ちは10代の頃からありました。ただ、世の中の見方は10代とは大きく変わった点もあります。

私は中学生のころからバンド活動をしていました。その90年代を思い出すと、あの頃は音楽でもゲームやアニメでも、「正義の味方が悪を倒す」という物語がまだ影響力を持っていました。

そういう中で、「世の中によいことをしたい」という思いがあった私は、この時点では「正義の味方」になりたいというスタンスでした。

しかし、大学に入って社会学を学ぶうちに変化がありました。

正義とか悪とか、誰が正しいとか正しくないとか、ものごとはそんな二元論的に単純化出来るわけではなく、世の中の人はみんなそれぞれ頑張っているのだ、ということを改めて実感したのです。

そして、そのみんなの頑張りをよい結果につなげていけるようなシステムを作りたいと考えるようになり、官庁を経て三井物産の扉を叩きました。

税金というリソースを消費しながら解決すべき社会課題も多くありますが、現在の自分はビジネスを通じて、収益を生みながら世の中によいことを実現できる、「自走するシステム」を作りたいと考えています。

田中:私は子供の頃から、世の中の不条理にもやっとした感覚を持つことが多かったと思います。9.11のテロや児童労働についてのドキュメンタリーを見て、漠然と「将来は国連で働く!」と考えたりもしていました。

もう少し意識が明確になったのは、高校生の時でした。

国語の授業で、どんなトピックでも当時気になることを徹底的に調べて発表をする機会がありました。その時、先生からは「ものごとを根源的に問う」という発想が大事だと学び、自分なりの軸と問題意識を持って生きていこうと思うようになりました。

田中さん
田中さん

もう一つ、私にとって転機になった出来事があります。大学時代、フランス留学をしていたのですが、その際にフランス南部のシャレーという田舎町で、農家に住み込んで働く経験をしました。本当に山奥で電波も届かないような場所なんですよ。

水や食べ物を、ほぼ自給自足している家庭でした。私が住んでいた家族は、野菜や鶏を自家菜園や軒下で育て、小麦畑を耕して自家製パンを作り、マルシェで売って生活しているんです。「ここまでエシカルな生活を徹底するのか」と驚きました。

私は当時ゴミの分別も十分にできず、また水やプラスチックを使いすぎだとよく怒られていました。そういった経験を通じ、自分が如何に環境に無頓着に生きてきたかを痛感すると同時に、「こういう生き方がいいな」と思えるようになっていきました。

いつかはシャレーの町のような、一人ひとりが環境問題を自分事化できるコミュニティを作る活動をしたいと空想することもあります。

一方で、より効果的に社会に大きなインパクトをもたらすのはビジネスだと思っており、今は三井物産という大きなプラットフォームで、浜さんやそれぞれの想いを持ったチームメンバーとともに様々な事柄に挑戦し、環境問題解決に少しでも貢献していければと考えています。

前編はこちら


取材/文:木村洋平
撮影:佐藤淳

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