ESGによって産業構造が変わる

ESG経営・投資の流れを受けて、産業構造は大きく変化しています。今回は自動車、石油化学、エネルギー、食品業界について見てみます。

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ESG(環境・社会・ガバナンス)の大きな流れにより、各業界の産業構造は大きく変化しています。今回は自動車、石油化学、エネルギー、食品業界について一つずつ見てみましょう。


企業にとって避けては通れない「ESG経営」

今、企業経営の常識となりつつあるのが「ESG経営」です。

「ESG」とは Environment(環境)、Social(社会)そして Governance(ガバナンス)の頭文字を取った言葉で、サステナビリティをとくに経済や投資から考える概念です。

いまや企業が持続可能な経営を行うためには、ESG経営が必要不可欠だというのがグローバルスタンダードになっています。日本企業も今後よりいっそうのESG経営が求められます。


同時に「ESG投資」も世界の主流となりつつあります。投資家はESGの中でも、特に「気候変動」を重視しています。


ESGは産業構造に大きな変化をもらたらす

ESGに向かう流れは、すでに多くの産業構造にドラスティックな変化をもたらしています。

以下、自動車、石油化学、エネルギー、食品業界について具体的に見てみます。


自動車産業】電気自動車(EV)が主流となる

自動車産業では、電気自動車(EV)や燃料電池自動車(ECV)が主流となると考えられます。トヨタ自動車もEV技術の強化に本腰を入れることを発表しましたね。

電気自動車の給電

現在、エコカー(ハイブリッド車)やプラグインハイブリッド車(PHV)も環境に良いとされていますが、CO2の排出はゼロではありません。

*「プラグインハイブリッド車」とは電気とガソリンの両方で走行可能な車のこと。

日本政府は2050年までに、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。

2050年にカーボンニュートラルが実現すると、2050年のガソリン車・ディーゼル車の割合は4%になると予測されており、自動車のEV化は避けて通れません。

自動車だけでなく、トラックでもEV化が進められています。また、EVスクーターは主要国だけでなく東南アジア諸国連合(ASEAN)やインドなどでも中心に街中で利用できるようになっており、自動車や自転車に代わる新たな移動手段として注目されています。


【石油化学工業】ケミカルリサイクルが促進する

私たちはプラスチックに囲まれて生活しています。スーパーや薬局でもプラスチックは大量に使われており、もはや生活に必要不可欠な存在です。

そのプラスチックを製造する石油化学工業にも変化がみられます。

これまでもプラスチックのリサイクルは必要とされていましたが、リサイクル時の膨大なエネルギー消費が問題となっていました。そのためプラスチックからプラスチックを作り直すのではなく、プラスチックを焼却した熱で発電する「サーマルリサイクル」の方が資源効率が良いとされていました。

しかし近年、プラスチックのリサイクル時にかかるエネルギーを大幅に削減できる技術が開発されています。そのため、今まで燃やしていたプラスチックをリサイクルする流れが、広まりつつあります。

今のところ、日本では焼却熱によってエネルギーを回収する「サーマルリサイクル」が主流ですが、将来的にはプラスチックのリサイクルが主流になるでしょう。

世界では他にも、回収した二酸化炭素からプラスチック原料を生産したり、バイオプラスチックの開発研究も進められています。


【エネルギー産業】スマートグリッドで再生可能エネルギーの安定的な供給を実現

スマートグリッドによって、無駄のない安定的な電源供給が可能になります。

「スマートグリッド」とは、電力の流れを供給側と需要側の両方から制御する送電網のこと。「次世代送電網」とも呼ばれます。

日本は通信システムが管理されているため、今は従来の送電網でも安定的な供給が行なえています。しかし、2050年のカーボンニュートラルを実現するためには再生可能エネルギーの導入が必要です。

そこで、再生可能エネルギーの大量導入ができる「スマートグリッド」が注目されるようになりました。

従来の方法では、電力会社から家やオフィスに、一方的に電気が送られてきます。電力の調整をせずに送っているので、使わない分の無駄な電気まで送っていました。

他方、スマートグリッドでは、電気の需要量と供給量を細かく把握し、常に必要な分のエネルギーだけを調整して供給します。

スマートグリッドが実現されると、再生可能エネルギーが利用しやすくなります。なぜなら、風力、バイオマスなどの再エネは供給量が安定しにくいため、スマートグリッドで調整することで送電や発電効率がよくなるからです。

アメリカをはじめ世界中で、スマートグリッドの導入が始まっています。


【食品産業】新しい増産の方法と代替肉など

食品産業でもESGによる変化がみられます。

現在、地球の人口は75億人ですが、2050年には100億人にまで増えると予測されます。人口の増加とともに、今以上に多くの食料の生産が必要になります。

増産のためには農地を拡大するのも一つの手ですが、ESGの「環境」を守るためには森林伐採は行えません。また、農業では化学肥料が大量に使われていますが、放置すると一酸化二窒素(温室効果ガスの一種)に変わる化学肥料の使用も減らす必要があります。

農地を拡大せず、化学肥料を使わず、生産量を増やすために、現代の農業は多くの課題に立ち向かっています。

食料問題を解決するためには生産技術の開発だけでなく、食品の需要量を減らす必要があります。食品ロス削減とあわせて、今まで食べられていなかった部分も有効活用できる仕組み作りが重要です。

また、食肉産業にも影響があります。動物性の肉から植物性の肉(代替肉)への移行です。代替肉は大豆から作る大豆ミートが有名ですが、家畜の細胞だけを培養する「培養肉」の研究も進められています。


まとめ

緑の木々の樹冠

このように、ESGは各産業に大きな変化をもたらしています。そしてこの変化は、日本だけではなく世界中で起きています。

今回紹介した産業の変化はごく一部。技術革新と産業構造の変化は加速度的に速くなってゆくでしょう。

サステナブルな企業経営やさらなる事業拡大のためには、ESGによる産業構造の変化にアンテナを張り、この大変化のタイミングを飛躍のチャンスに変えることが大切です。


参考:『超入門カーボンニュートラル』夫馬賢治著、講談社、2021


文:古賀瞳


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