サステナビリティの基礎を紹介する──「バランス」をとること

2.「先進国」、「発展途上国」のバランス

さて、先ほど将来世代と現在世代の「世代間公平」がポイントであるとお伝えしましたが、将来世代の豊かさが主張されるのであれば、現代世代のすべての人々の豊かさが保障されるべきです。

そこでサステナビリティには、現代世代の中での「世代内公平」も重要な考え方になります。その代表的なものが、「先進国」と「発展途上国」の公平です。


SDGsの前身「国連MDGs(Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標)」

じつはSDGsの前身として、国連MDGs (Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標) が存在していました。

2000年から2015年までの期間の、貧困撲滅、乳児死亡率低減、初等教育拡充などの目標です。これらは従来の先進国による発展途上国への援助という性質が強いものでした。

しかし、社会やビジネスがグローバル化した世界で、もはや先進国が変わることなく、発展途上国だけで問題を解決することできません。

この反省を活かし、SDGsは発展途上国だけでなく、先進国も対象となっています。


SDGs=持続可能な「発展」と「成長」

ちなみに、Sustainable Development は 「持続可能な開発」というのが国連や政府の定訳です。

しかし、この「開発」という語は、先進国が発展途上国を支援・開発するという、従来の一方的目線の言葉にも捉えられます。

SDGsの訳は、持続可能な「発展」や「成長」の方がふさわしいと筆者は考えます。


世界人口増加の未来予測

ところで、日本では少子高齢化が叫ばれていますが、世界的に見れば人口はかつてないペースで急増しています。1850年に10億人だった人口は、1950年に25億人を突破し、2050年には100億人近くになると予測されます。

人類の数百万年の歴史の中で、直近の100年あまりで人口爆発が起こっているのです。そして、人々の貧富の差はますます拡大しています。

2019年には、世界の超富裕層26人が、世界人口の下位半分と同量の資産を保有しているという調査結果が出ました。現在、世界人口の1/3が貧困状況にあるといわれます。

この悲劇は、1972年に国際有識者グループが発表した『成長の限界』ですでに予測されていました。

人口増加はいずれ限界点に到達し、貧富の差を容赦なく拡大し、人々の生活水準を低下させるということと、それを防ぐために我々は経済活動を抑制しなければならない、という内容です。

この主張は当時ラディカルであると批判も受けましたが、一面では真実をついていたともいえるでしょう。

新しい成長の方向性の模索

発展途上国の人々が経済的に豊かになればよいのかといえば、それだけでは問題は解決しません。

有限の地球でより多くの人間が生きていくということは、食糧、水、資源、土地などの奪い合いが発生します。これらが紛争の引き金にもなります。

また、大気汚染や土壌汚染による健康被害、森林枯渇や二酸化炭素(CO2)排出量増加による地球温暖化や異常気象なども深刻化します。

もはや、先進国か発展途上国かは関係ありません。我々は、新しい成長の方向性を模索する必要があるのです。


3.「環境」「経済」「社会」のバランス

サステナビリティとは「環境」「経済」「社会」の三側面のバランスをとること──これは現在、サステナビリティの定義として最も普及している考え方の一つです。

この考え方は1990年代、英国のサステナビリティ社を創設したジョン・エルキントンが提唱した「トリプルボトムライン」という概念に由来します。ボトムラインとは、企業の財務諸表の損益計算書の最終行のこと。

企業は、金銭的な利益、すなわち経済面だけでなく、環境汚染やCO2排出量などの環境面、人権や労働環境などの社会面におよぼすインパクトも管理する必要がある、という考え方です。

これは今では多くの組織のマネジメントに取り入れられています。

サステナビリティの三側面

三側面のバランスを保つ重要性

反対に、この三側面のバランスがとれていない状態とはどのようなものでしょうか。例えば、環境保全を第一に考え、CO2排出量の多い企業を操業停止にするとします。

その場合、我々はそれらの企業が提供する製品やサービスを利用することができなくなります。

(ちなみにCO2排出量の最も多い業種は電力、鉄鋼、海運業などであり、我々の暮らしを支えるインフラそのものであることが多い)

それらの企業が操業停止になれば、そこで働く社員やその家族の日々の糧を得るための収入源もなくなります。つまり、環境面だけを優先すると、経済面(利益や収入)や社会面(便利さや豊かさ)が損なわれるのです。

そのため、「環境」「経済」「社会」の三側面のバランスをとることがサステナビリティであるといわれるのです。


win-win の視点がサステナビリティの達成へとつながる

なお、この三側面は様々な言葉で表現され、海外では3P(People:人、Planet:地球、Prosperity:繁栄)や、3E (Environment:環境、Economics:経済、Social Equity:社会的公正)と表現されることもあります。

これらの側面のバランスをとるためには、まずは問題の全体像や相互関係を明らかにすることが重要です。

そして、どれか一面を追求することで別の側面を犠牲にするというトレードオフ

(* 複数の条件を同時に満たすことができない関係)ではなく、どの面も同時に達成できる方法を探る win-win の視点が、サステナビリティの達成には不可欠です。