ケーススタディ:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とサステナビリティ
2019年末以来の未曽有の危機、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行。この危機をサステナビリティの観点から考えてみましょう。
まず、「環境」「経済」「社会」の三側面についてです。環境面では、世界的なロックダウンや経済活動の停滞により、CO2排出量が二割ほど削減されたという調査結果があります。
また、大気汚染やプラスチック汚染の減少なども報告されており、環境面にとってはプラスの方向であるといえるでしょう。論点となるのは、いかに経済面と社会面のバランスをとるかという点です。
ロックダウンにより経済活動を停止すれば、経済面では国民の収入減や解雇、政府のGDP(国内総生産)や国家歳入の低下につながります。
「経済」と「社会」のバランスの見極め
社会面では、外出制限や人々の行動ルートの追跡などにより、民主主義が最も重要とする人々の移動の「自由」や「人権」を妨げることになりかねません。
一方、ロックダウンをしなければ、人の接触が減らず、ウイルスが猛スピードで蔓延し、死亡者の増加など、より深刻な影響が出ます。つまり、ロックダウンするか否かという決断には、経済と社会のバランスの見極めが重要なのです。
このとき、トレードオフではなく win-win に近い解決手段として、経済活動を停滞させずに人との接触を減らすことができる在宅勤務、ロボットやAIによる無人化などが挙げられます。
「短期的利益」「長期的利益」の天秤
また、サステナビリティの現在世代(短期)と未来世代(長期)の視点を思い出してみましょう。
短期的に見れば、ロックダウンは経済活動の停止や外出制限など、人々の利益を減らします。
しかし長期的に見れば、早い段階で人々の行動を制限し、感染を抑え込むことができ、最終的には感染者数の低減につながる可能性があります。
また、ワクチンや治療薬の開発には多大なコストや時間がかかりますが、開発が成功すれば、長期的にはそのリターンは十分得られる可能性があります。
ここでも短期的利益と長期的利益を天秤にかけることになります。
貧困地域への早期な対応が鍵
最後に、先進国(富裕層)と発展途上国(貧困層)の観点でも考えてみましょう。
発展途上国やスラムなど、貧困地域は人口密度が高く、医療設備も不足しているため、感染の温床になりやすいといわれています。しかし、ウイルスは地域や国境の壁を越え、世界中に蔓延していきます。
そう考えると、感染の温床となっている貧困地域を封鎖するのではなく、
それらの地域にいち早く医療機器や医薬品を届け、医師を派遣することで、結果として社会のウイルスの封じ込めが早期に成功する可能性も考えられます。
様々な角度で見た時の最善のバランス=サステナビリティ
このように、各国首脳は今、COVID-19 への対応にあたり、「経済」と「社会」の視点、
「短期」と「長期」の視点など、様々な角度で見た時の最善のバランス(=サステナビリティ)を選択すべく、検討を重ねている状況だといえます。
まとめ
サステナビリティを追求するということは、
過去と未来という世代間の時空、先進国と発展途上国、環境・経済・社会という空間的な広がりを超え、人々の富や幸せを公平に分配するバランスを見つける旅である、と筆者は考えます。
我々一人ひとりが、最終的にはどのような地球社会で生きていきたいのかを自らに問い、価値観や文化、国を超えて多くの人々と対話をすることが、大切なのではないでしょうか。
結局、我々は皆、地球というたった一つの小さな星の住人なのです。
最後に、地球の有限性を宇宙船に例えた「宇宙船地球号(Spaceship EARTH)」という概念を提唱した、米国の工学者・思想家のバックミンスター・フラーの言葉をご紹介します。
私たちは宇宙船地球号を統合的にデザインされた機械とは見てこなかったわけだが、これが調子よく動き続けてくれるためには、全体を理解し、総合的に保守点検をしていかねばならない。
『宇宙船地球号操縦マニュアル』バックミンスター・フラー, 芹沢高志訳, 筑摩書房, 2000年
文:Masumi