人と地球に優しい「ゆるサステナ旅」を、旅の新しいカタチに

観光業において今注目されている「サステナブルツーリズム」。その概念を取り入れつつ、もっと手軽な「ゆるサステナ旅」を紹介します。「ゆるサステナ旅」では、自然に沿った選択をして心地よい気分で旅することを大切にします。あなたらしくサステナブルに旅するためのアイデアをお伝えします。

南の島のビーチ

今、観光業では「サステナブルツーリズム」が注目されています。そこでは、エコツアーやエコフレンドリーなホテルなど、特別にお金や時間をかけた体験ができます。

一方、筆者がこの記事で提案したいのはもっと手軽な「ゆるサステナ旅」です。ゆるサステナ旅の考え方では、旅のなかで、日常のなかで一つひとつの選択をできるだけ自然に沿っておこない、心地よい気分で旅することを大切にしています。それは肩ひじを張ったり、背伸びせずにあなたらしくサステナブルに旅することです。


「飛び恥」やオーバーツーリズム

スウェーデンでは、飛行機の旅が「飛び恥」と呼ばれているのをご存じですか。気候変動を引き起こすCO2(二酸化炭素)を大量に排出しながら旅することを指して、「それは恥だ」と表現しているのです。北欧をはじめとして、ヨーロッパの国々では飛行機の利用をひかえようとする環境運動がさかんです。

観光業をめぐる課題は、飛行機にかぎりません。観光客が一ヶ所に押し寄せるオーバーツーリズム(過剰な観光旅行)など、旅にまつわる環境へのネガティブな影響は年々深刻になっています。

こうした課題を解消、緩和するために生まれた新しい旅のカタチに「サステナブルツーリズム」があります。まずは「サステナブルツーリズム」について、かんたんにご紹介します。


サステナブルツーリズムとは

国連世界観光機関(UNWTO)」はサステナブルツーリズム(持続可能な観光)を、「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」と定義しています。

つまり、その地域の自然環境、文化、伝統、暮らしを保ちながら観光することです。サステナブルツーリズムは、観光客の側も、観光客を受け入れる現地の側も協力してつくっていくものです。観光客とその土地のどちらにもメリットのある循環型の旅行スタイルともいえます。


サステナブルツーリズムはなぜ今必要か

今、観光業は世界的にサステナブルツーリズムにかじを切っています。それは、やはり現状の旅行スタイルが環境に与える影響が大きすぎて、地球環境を保つのが限界に近いからではないでしょうか。

たとえば、オーバーツーリズムが深刻化しているバリ島を、著者はたずねました。バリ島はインドネシアの小さな島にもかかわらず、その魅力で世界中の人々を集めています。

しかし、その結果、旅行者を受け入れるためのホテルやカフェ、レストランの増設工事が日夜続き、そのために自然が破壊されつづけています。数年前はなにもなかった場所に新しく道やリゾートホテルができ、短い期間に風景も目まぐるしく変化しています。また人が密集することで、大気汚染や海洋汚染などもおこります。

バリ島のなかでも、とくに外国人が長期にわたり滞在する人気エリア チャングーでは渋滞は日常茶飯事です。

実際に、著者は2023年の12月から年始にかけて一か月をチャングーですごしました。その際、チャングーは「もともと小さな田園が広がる村だった」と地元の人が教えてくれました。今でも田園風景はみられますが、ホテルやカフェに押されてすみに追いやられるようにどんどん小さくなっています…。

また、明らかに、観光客がおとずれる前と今では、現地の人たちの暮らしも変化しています。もちろん雇用が生まれ、豊かになった人もいるでしょうが、それは一部。多くの人がちょっとした外出でも渋滞に巻き込まれ、不便な暮らしを強いられているように見えました。


地球へポジティブな影響をもたらす観光とは

観光地の人々の暮らしや自然環境を守りつつ、旅行者にとっても有意義な観光であるサステナブルツーリズムのためにできることはなんでしょうか。よく取り上げられる例に、「宿泊先にエシカルな取り組みを導入しているホテルを選ぶ」「大自然を満喫するアウトドアアクティビティや陶芸や織物などの文化体験に参加する」があります。

それらの経験自体が観光地や住民を守るだけでなく、その土地を通して経済的豊かさを循環させることにもつながるからです。


人と地球に優しい旅をもっと手軽に

とはいえ、「サステナブルツーリズム」と言うと、環境問題や社会問題などの大きな話ととらえてしまう人も多いでしょう。そのため「私ひとりが実践しても変わらない」とあきらめてしまう人も少なくないように思います。

さらに価格的にも、オーガニックのアメニティを使い、自家発電のエネルギーを採用し、コンポストを活用し、ごみを最小限に抑えるといったエコフレンドリーなホテルは、従来のシティホテルと比べると高額になりやすいものです…。それだけで旅のハードルが上がります。

もし、経済的にゆとりがあり、サステナブルな旅に関心が高い場合は、サステナブルツーリズムをぜひ選択肢に入れてほしいです。ですが、旅行をする際の優先順位は人それぞれです。「環境を守るために」という義務感や正義感からそういった選択を続けると、旅行を楽しむことがむずかしくなり本末転倒ということも…。


誰でもはじめられる「ゆるサステナ旅」

そこでおすすめしたいのが、「ゆるサステナ旅」です。これは著者が10年以上、旅をつづけるなかでたどり着いた旅のスタイルです。

ゆるサステナ旅とは、ゆるーくサステナブルに旅をすること。

さきほども触れましたが、どうしても社会問題の切り口から考えると正義感がはたらいて「〇〇すべき」という思考になりがちです。それだとせっかくの旅行も楽しくありませんよね。とくに旅は日常からの息抜き、リフレッシュ、豊かな経験…などのためにおこなうもの。「正しく旅する」などと気負わなくても大丈夫なのです。

ゆるサステナ旅のために、まず意識したいのは「自分にとって心地いい選択」です。

食事、宿泊先、移動手段など日々くり返す、旅のすべての要素を「心地よさ」を基準にするのです。著者はとくにコーヒーが好きなので、できるだけ現地産やフェアトレードの豆を扱うカフェを選ぶようにしています。

ほかにも、たとえば「地元産のオーガニック食材を使う食堂に通う」「旅先でスキンケアが必要になれば、その国で採れた有機植物を抽出した精油をベースにしたものを選ぶ」といったこともできます。旅人としても現地のエッセンスに触れられるのは魅力ですし、地元の生産者さんの応援にもなります。

結局のところ、世界をよりよくするには、観光業にかかわる企業やはたらく人たちがなにかを変えるだけでは足りないのです。今ある資源を大切にし、観光地の人々の暮らしや伝統を守るためには、旅行者一人ひとりの小さな取り組みが力になります。

「ゆるサステナ旅」は、とくに中・長期で世界をじっくり見たい人に適しています。というのも、筆者自身が10年以上にわたって長旅もふくめ海外生活や旅をしてきたからです。一度切りではなく、続けられる(持続可能な)ように、ハードルをゆるく、低くしています。ひとりが完璧にするより、より多くの人ができることからはじめてほしい。そんな思いを込めています。


日常でもつづけられる「ゆるサステナ旅」のスタイル

実はゆるサステナ旅でできることは、日常生活でも実践できます。毎日使う調味料の原料&製法や、衣類の素材など、そういった自分の暮らしの選択一つひとつをより人と自然と調和のとれたものにすること。体と心にポジティブな影響を与え、使う私たちだけでなく作る人たちにもしっかりと豊かさがめぐるものを選ぶ、また選ぼうとする姿勢が大切です。

そういうものは往々にして美味しくて、肌触りがよくて、香りが豊かで…心地いいと感じるものなのです。

そんな風に自分の「ゆるサステナ軸」ができてくると、そのあり方で旅するだけで周りと調和したサステナブルな旅につながるのは自然なことです。

その結果として、旅先ではなるべく現地で採れる(また獲れる)食材を提供する店を選ぶ、現地産のオーガニック植物を使った美容品を購入する、地元の人の手仕事を購入することになり、間接的に地元の人たちの暮らしを応援することになるのです。

旅先での食事や必要なものを買う際に、「ゆるサステナ軸」を活かした消費活動をするだけなら、それほどむずかしいことではないはず。まずはそこからはじめてみませんか。

もっと具体的なアクションや考え方は、著書「ひとりでできる!ホントに初心者のための『ゆるサステナ旅』」で紹介しています。ご興味のある方はぜひご一読くださいね。

無理なく楽しく、心地のいいあなたなりの「ゆるサステナ旅」を…!


mia

呼吸をするように旅をする、自然派ライター。

旅行雑誌の制作ディレクター業務でクリエイティブの世界の面白さに目覚め、求人広告コピーライターをへて、広告代理店勤務の専属ライターに。関西の情報雑誌の取材執筆、そして進行管理を兼任する日々をおくる。

2018年より京都を拠点にフリーランスとして活動スタート。現在は、自然に沿った暮らしを探求&実践しながらさまざまな媒体にて発信をおこなっている。

世界一周から放浪、海外移住と計10年以上を海外で過ごした経験、さらに2023年のほとんどをかけた海外ノマドの経験から、サステナブルな旅を推奨する初の著書「ゆるサステナ旅」を出版。また2024年春分の日に旅のマインドセットを紹介する「ゆるスピ(ソロ)旅」も出版した。著書はこちらより。


文:mia