ヤングケアラーという言葉を広める友田さんが、子どもにとって大切だと思うこと──自然や世界、生命への信頼を育む(友田智佳恵さん)

10代のはじめから家族のお世話をする「ヤングケアラー」を経験し、その後、子育てや祖母の介護もしてきた友田さんは、子どもたちにとって一番大切なことは、自然や世界、生命への信頼を育むことだといいます。

公園の緑の中の友田さん

「ヤングケアラー」という言葉がやっと知られてきました。今回はヤングケアラー、若者ケアラーを経験してきた友田智佳恵(ともだ ちかえ)さんにお話をうかがいました。この記事ではヤングケアラーについての解説の後、友田さんの世界観についてのインタビューをまとめています。


ヤングケアラー、若者ケアラーって?

ヤングケアラーとは本来、大人がになうと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どものことです。「ケア」の対象者や内容は、親や祖父母の介護(かいご)、介助(かいじょ)、家事、感情面のサポートやきょうだいの見守りなど、さまざまです。

また、成人したあとに、家庭内でケアの役割をになう若い人を「若者ケアラー」と呼びます。

ヤングケアラーは勉強や遊び、部活や友だちづきあいをする時間が少なくなりがちです。また、自分の苦労や日々の生活について、だれかに話せないでいることもよくあります。ヤングケアラーについてはまだ世の中であまり知られていないため、こども同士でも、また相手が大人でも理解や共感をされづらい状況があるからです。

そのため、ヤングケアラーやさまざまなケアの実際について、もっと多くのひとが知ることができるよう情報発信がはじまっています。新聞、テレビ、ラジオ、SNSやインターネットを通して啓発(けいはつ)は進みつつあります。


スピーカー活動をする友田さん

今回、お話を聞いた友田智佳恵(ともだ ちかえ)さんは、小学生のときからヤングケアラーを経験してきました。成人したあともケアは続き、今は母親と子どもふたり、家のなかで3人のお世話をする立場です。

* 友田さんのお母さんは、友田さんが小学生のとき、くも膜下出血でたおれ、それから後遺症がのこっています。子どもふたりは元気ですが、まだ小さく、家事や見守りが必要です。

友田さんは、2021年からヤングケアラーの「スピーカー(語り手)」活動をしています。講演会や集まりを開いて、ヤングケアラーについてお話をして広める仕事です。

友田さんが子どものころから体験してきたことやスピーカーとして活動するなかで深めた思いについては、こちらの記事にまとめられています。

ヤングケアラーのためのウェブメディア ROLES
友田さんへのインタビュー記事(全3回)
#1 ケアの始まり
#2 “生き様”を言葉に。
#3 灯火を胸に。

今回、エシカルSTORYのインタビューでは、この世界や自然、子どもらしさについて友田さんが育んできた「友田さんの世界観」を聞きました。

くらしや日常の大切さ

──友田さんは、ヤングケアラーについてスピーカー活動をするなかで、子どもについてどんな思いをもっていますか。

友田さん「どんな境遇や環境の中いたとしても、子どもたちが子どもらしくいられることが大切だと考えています。ひと口に「子どもらしく」といっても色々あると思いますが、私は子どもにとって一番大切なことは、生きていく力や生命力だと思うんです。

それは「食べたい」でも「遊びたい」でも、まず欲求をもつこと。そして、いつでも好奇心や探求心を原動力に、身の回りのものや自然にかかわること。そういう姿勢は、社会の目を気にして大人に合わせて生活することの反対で、もっとピュア(純粋)な感性に根ざしています。

日常や暮らしの中で、わき上がる好奇心や探求心をもとに行動し、行動する中で感じたことを表現しながら、身の回りのものや人たちとかかわれれば、自分がどんなことが好きで、どんなことが嫌いなのか、どんなことが嬉しく楽しいのか、どんなことに悲しみや怒りがわくのかが見えてくると思うんです。

その感覚こそが、自分らしさにつながると思います。子どもの時に、自分が大切にしたいものと出逢う。この経験がとても大切です。そうやって子ども時代に子どもらしく過ごすことで、自分らしさがみえてくる。その自分らしさは、自分の内側としっかりつながり合っている感覚です。これが人間が生きていく力の土台だと感じています。」


──特別な体験をすることよりも、くらしや日常のあり方が大切だと考えているのですね。

「はい。ヤングケアラーやケアについて、福祉や教育の観点から語られることが多いですが、それは社会制度やシステムで支えるという前提での話です。もちろん、どんな境遇や環境に生まれおちたとしても、すべてのこどもたちが子どもらしく過ごすためには、社会の理解が進むことや、支援の制度が整うことも必要です。ですが、それと同時に、さっき言ったような仕方で子どもたちの「生きる力」も育んでいくことも同じくらい大切だと考えています。」


──制度やシステムとはべつの観点から、「生きる力」についても考えようということですね。その「生きる力」はどのようなものでしょうか。

「「生きる力」とは、信頼をもてることだと思うんです。信頼は、子ども時代に子どもらしく過ごせることで育まれていくと思います。この世界への信頼、自分自身への信頼、そして、社会や他者への信頼がある子は強いと思います。

それにはまず自然とふれあうこと、それから自然さを感じられるひととかかわり合う機会をもつことだと思います。

たとえば、道ばたに花が咲いていることに気がついたり、木々の色がうつり変わる姿や、太陽の暖かさ、冬の寒さにふるえたり、そんな日常の中でのささやかな体験が、自分らしさにつながる入口だと考えています。

そういう時、「あの花がきれいだね」だったり、「あっちの雑木林にも行ってみたい」だったり、親や周りのひとと話せたらもっとよいですね。屋内にいるなら、絵本を読む、ただおしゃべりをして笑う、といった時間も貴重だと思います。

良いことも、悪いことも、どんなことが起ころうとも、しっかりと自分自身の気持ちや他者との関係性という現実に向き合うことができる。そして自分の指針(ししん)にしたがって進んでいける。そういう風に、「生きる力」がしっかり育まれていると自分の人生を自分の足で歩んでいけるんじゃないかな、と思います。」

子どもに呼びかける友田さん


センス・オブ・ワンダー(不思議におどろく感性)をもつ

──レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』という本がお好きだとうかがいました。

「そうなんです。自然を愛する著者が、甥っ子(おいっこ)とふたりで野原や海を楽しむエッセイです。

少しさかのぼりますが、私はヤングケアラー支援にたずさわる前、保育士をしていました。子どもの成長を日々感じることができるすばらしい仕事です。保育士として子どもの成長をサポートしたり見守ったりすることには喜びを感じましたが、いろいろな違和感(いわかん)や葛藤(かっとう)もありました。

仕事では、「子どもらしく」という言葉がよく掲げられましたが、それは大人や社会にとって都合のいい解釈にねじ曲がっている気がしていました。子どもたちにとって、子どもらしく在るとはどういうことだろう。子どもと大人のちがいは何だろう。そもそも「子どもらしく」ってなんだろう。そんなことを模索している中で出逢ったのが、『センス・オブ・ワンダー』という本です。

(ちょうどエシカルSTORYでその本について書いた記事がありました)


『センス・オブ・ワンダー』を読んだとき、「ずっと探していた探し物にめぐり合えた!」と感じました。とくに、私の心に深く響いたのが「『知る』ことは『感じる』ことの半分も重要ではない。」という一節です。

私たち大人は「子どもたちが大人になった時に困らないように」「社会に出たときに苦労しないように」と考えるあまり、先回りして知識や情報を教えてしまいがちです。それよりも、子どもたちが自然との触れ合いや、他者との関係性の中で、ありのままに感じること。そういう体験をもつ機会を大切にしていこうよ、と思います。そういう体験こそが知恵として子どもたちの中に刻まれていくように思うからです。」


──友田さんが子どもの頃も、自然のなかで過ごされたのですか。

「私の子ども時代というと、本当にわんぱくな女の子でした。近所に住んでいる子どもたちと日が暮れるまで、どろんこになって遊びました。その時は一日がいつもあっという間で、明日が来るのが待ち遠しくて、楽しい日々でした。

こうした子ども時代に感じたことは、身体や感覚が覚えているんです。大人になり、社会の中で生きていて、ふと息苦しくなった時、子ども時代に育まれた感覚が「あなたらしいのは、こっちだよ」と導いてくれます。こうした唯一無二の感覚。これが “センス” だと思っています。」


まとめ:ヤングケアラーやケアワークにかかわる人へ

──ヤングケアラーや若者ケアラー、またケアワークにかかわる人たちみんなに伝えたいのはどんなことでしょうか。

「子どもでも、大人になってからも、自分自身ではどうにも出来ないような出来事が起こることがあると思うんです。私がヤングケアラーになったのも、なりたくてなったわけじゃないし、母も倒れたくて倒れたわけじゃない。

また、私だけがケアをしていたわけではなく、家族のみんながケアラーでした。「どうしてこんなことになってしまったのだろう」という思いは、家族みんなが感じていたと思います。こうした自分でもどうにも出来ないような出来事を乗り越えるためには、「生きる力」が必要です。

そうした境遇にしっかり向き合い、自分はどうしたいのかをしっかり感じること。自分の想いと周りの想いとのバランスをとること。そして、自分が体現したい現実を創造するために、周りに頼ること。また、こうした境遇を “深刻に捉えるのではなく、真剣に向き合う” こと。そもそも人は一人では生きていけません。この前提を子ども時代に感覚として体にしみこませておく。こんなことが大切なんじゃないかと思っています。」

友田智佳恵 Instagram : @ur_lifestory

参考サイト
こども家庭庁 ヤングケアラーについて
一般社団法人 日本ケアラー連盟
一般社団法人 ケアラーワークス

* 『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン著、上遠恵子訳、新潮文庫、2021


取材・文・写真:木村洋平
執筆協力:友田智佳恵