不況と格差の原因である消費税を見直そう

消費税は、平成30年間の経済の停滞をもたらした構造的な原因になっていると言えます。消費税を廃止すれば、不況対策のみならず、格差拡大や税制の「ごまかし」を変えることもできるでしょう。

日本では1989年に導入された「消費税(しょうひぜい)」について見直そうと提案する記事です。

消費税について誤解がある?

ふだん私たちが買い物をする時に払っている消費税は、事業者が消費者から預かって納税している「預り金」の税であり、「間接税」だと思っている方が多いと思います(間接税とは、負担する人と納税者が別の税金です)。しかし、実際には消費税は預り金でも間接税でもありません。

このような消費税にまつわる誤解は、消費税のいくつもの欠点を隠すために役立ってしまいます。その誤解を解きたいと思います。


消費税の正しい理解

まず、消費税は「預り金(あずかりきん)」ではないという点を説明します。

預り金として有名なのは、入湯税です。温泉に入る時に取られる地方税ですが、これは消費者に支払い義務があり、事業者はそれをいったん預かってあとで納税します。

ですから、事業者が支払わないと横領になりますし、消費者が支払わなければ事業者が請求できる権利を法律で保証しています。

しかし、消費税はそうではありません。2023年1月の現在、年間の売上が1000万円以下の事業者は免税になっていますし、仮に消費者が消費税を支払わなくても事業者は納税しなければいけません。これを「預り金」や「間接税」と言うのは無理があります。


「消費税」は「付加価値税」と呼ぶ方が正しい

税制として見ると、消費税は消費者が義務として支払っているというより、事業者の粗利(利益+人件費)に対して10%を課する「付加価値税」です。「消費者に転嫁する税」という言い方は、国民に受け入れやすいようにあとから付け加えられたと言えます。

消費税は、もともとは法人税を払っていない事業者からも税金を取るのが目的で考えられた税制でした。というのも、法人税は利益に対して課される税ですので、ぎりぎり赤字にして法人税を払っていない企業が多かったし、今も多いのです。そこで、付加価値税として導入が検討されたのが消費税の始まりでした。

しかし、消費税を消費者に転嫁できない事業者も多いので、その場合は納税する事業者が消費税を負担して納めることになります。これでは「間接税」や「預り金」とは呼べません。

さらにもう一つ、間接税や預り金と言えない理由を説明します。消費税には「仕入れ税額控除」という仕組みがあります。

下図のように、消費税は取引の各段階で課税されるので、売上の消費税分から仕入れた時に支払った消費税分を引いて納税する仕組みが取り入れられています。これを仕入れ税額控除と言います。これを見ても私たちが支払った消費税が、そのまま納税されているわけではないことがわかります。

この仕組みがあるため、10%の消費税で徴収される額は結局、売上から仕入れ額を引いた粗利の10%と同じになります。

また、下図のように、粗利はおおまかに人件費と利益で構成されています(この粗利が付加価値であり、消費税はここに課される税金です)。ですから、消費税は当初に計画された「付加価値税」と実質、同じものになっています。


消費税導入の歴史

このようになった歴史を見ていきます。

日本の消費税の元となった付加価値税は、フランスが1954年に世界で最初に導入しました。その目的は、EC(今のEU)内で輸出する時にフランス企業を応援するためでした。

EUでは補助金で企業を支援することは禁じられていたので、付加価値税の輸出戻し税という制度によって支援しようとしたのです。「輸出戻し税」とは、国内の取引等で支払った消費税が海外に輸出する時に還付される制度です。海外取引では、付加価値税は課されないというのが国際ルールになっているので、こういう制度が作られています。

つまり、輸出企業は付加価値税を免税されているのと同じ意味になります。輸出では取引相手から付加価値税を取れないので仕方ないのでしょうが、それがフェアなのかは疑問です。ちなみに日本の輸出企業も大手企業では、年間数千億円の還付がされています。


売上税と消費税の「ごまかし」

日本では、中曽根政権が1987年に「売上税」という名前で付加価値税を導入しようとしました。ただそのやり方がよくなかったのです。中曽根首相は「増税はしない」と言っておきながら、売上税の法案を持ってきたので国民から大きな反発をくらって廃案になりました。

しかし、その後の竹下政権が「消費税」と名前を変えて再び導入を試みます。この時は、所得税と法人税を減税するという条件がつけられて、法案提出され可決されました。

すでに説明した通り、実質は付加価値税ですが、政府と財務省は「消費税」という名前を使い、増税分を「消費者に転嫁をすることを推奨する」という行政指導を行いました。それにより、企業からの反発を抑えたかったのでしょう。当時は、まだバブル経済の最中だったので、3%の消費税でしたら受け入れやすい土壌がありました。

このように、消費税は事業者への税金を導入するための「ごまかし」を当初から含んだ税制だったのです。


消費税の5つの問題

では、消費税というこの税制の何が問題なのでしょうか。5点、挙げてみます。

  1. 中小・零細事業者は損をしやすい

政府は、消費税は消費者や取引先に負担を転嫁できるとしていますが、実際の取引では転嫁できないことも多いのです。

たとえば、大手企業と取引している下請け会社では、ただでさえ交渉力がないのに消費税が上がったからといって値上げ交渉ができません。政府はGメンで監視すると言ってますが、世の中にはとても多くの取引があります。立場の弱い中小・零細企業は消費税を取引先に転嫁できないことも多々あるでしょう。弱いものが泣きを見る制度は、欠陥があると言わざるをえません。

  1. 不公平な逆進性のある税制

収入の低い人は、収入の大半を消費に回します。一方、裕福な人は収入を貯蓄や投資に回せるので、収入に対して消費税がかかる買い物の占める割合は少なくなります。つまり、消費税は貧しい人に厳しい税制となっています。税制一般の目的は、一つには貧富の格差を是正することですので、貧しい人をさらに貧しくする税制はどこかがまちがっています。

  1. 賃金が上がらない大きな原因になっている

さきほど消費税の実態は、事業者にかかる付加価値税だと書きました。その付加価値は、利益と人件費で構成されていました。

ということは、人件費が上がれば消費税も上がります。そうすると企業は節税のために、社員の給料を下げて、極力外注しようというインセンティブが働きます。これにより、働く人の賃金が上がらないシステムが固定されやすくなりました。平成を丸ごと含む30年以上の間、日本の賃金が上がらなかったのは、システムになんらかの問題があると考えるのが妥当です。そして、消費税はその大きな原因の一つと考えられます。

  1. 誤解を招くわかりにくい制度

「消費税」という名称が正しく制度を表していないのも、この税制のよくない点です。消費税は取引の各段階で課税されているので、本来は取引税もしくは売上税と呼ぶべきで、もともとはそのように命名されていました。

しかし、その名称だと企業からの反対が強かったので、「一般消費者に課される」イメージの強い名称に変えたのでしょう。大きな企業や経済団体に気を使って、実態から離れた名前をつけたのではないでしょうか。しかし、今の政府も財務省も「消費税は消費者に課している」という前提で話をします。これはやはり「ごまかし」を含んだ説明と言えます。

中国の古典である『論語』には、「よい政治は名を正すべき」と書いてあります。つまり、政治においては正しい言葉を使うべきだと説かれていますので、誤解を呼びやすい言葉と説明を積極的に使うとすれば、今の政治は危機的な状況です。

  1. インボイス制という大きな問題

インボイス制とは、すべての請求書に、税務署から発行された適格請求事業者の登録番号をつけて請求するように決めた制度です(取引で「仕入税額控除」を受けるためには、ということ)。しかし、この番号をもらうためには課税事業者になる必要があります。そうして登録番号を取得しないと請求書を受け取った企業が、さきほど説明した「仕入税額控除」を受けられないことになります。

したがって、今まで免税だった事業者も、課税事業者になって消費税を払わなければいけなくなります。免税事業者は売上1000万円以下の零細事業者ですが、そういう規模の小さな事業者に、増税を課すインボイス制は大きな問題のある制度です。


税制を見直す。持続可能な社会へ

日本は30年以上デフレが続いていますが、その大きな原因の一つが消費税にあることはまちがいないでしょう。今見たように、消費税は格差を広げやすく、賃金上昇も抑制する働きがあるからです。

政府と財務省は「消費税は社会保障の財源である」と言っていますが、消費税の導入と引き換えに所得税と法人税を減税してしまっているので、実際には、その減税分を相殺した形になっています。

そもそも税には貧富の格差を是正する機能があり、消費税導入前の日本の社会は中間層が分厚い社会でした。そういう社会に日本を戻すためにも、消費税は廃止すべきだと私は考えます。

こういう話をすると、「財源はどうするのか」と反論する人が必ずいますが、実は税は財源のすべてではありません。今回はそこまで説明できませんでしたが、またの機会に書きたいと思っています。


文:細原豪


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