株式会社ニューロマジックはサステナビリティに力を入れ、DEI(多様性、公平、包括)の取り組みを強化しました。具体的にはハラスメント防止宣言や対話を重視した研修、異性婚を前提としない福利厚生の制度を作るなどです。

取材日:2024年 12月9日
株式会社ニューロマジックの永井さん、ベッティーナ(Bettina)さんにエシカルやサステナビリティの方針と取り組みをうかがいました。2022年の8月以来、エシカルSTORYとして約2年ぶりの取材です。
株式会社ニューロマジックは、デザインとユーザー・エクスペリエンス(Webやサービスを受け取る人の体験)を専門に手がけて2024年に創業30年を迎えました。近年はサステナビリティに力を入れ、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション:企業のサステナビリティを高める)を事業領域に組み入れました。2024年には TOKYO PRO MarketとFukuoka PRO Marketに上場し、社内でもサステナブルな取り組みを制度化し続けています。
今回は社内で「DEI」(多様性、公平、包括)の取り組みを深化させている永井さんにお話を聞きました。DEIを進めることは、コミュニケーションの取りやすさにつながります。差別をなくし、格差を減らす工夫があることでコミュニケーションがよくなり、業績や社員のモチベーションが上がりやすくなると考えられます。
また、取材の最後にはニューロマジックの東京本社およびオランダ支社でサステナビリティの最高責任者を務めるベッティーナ(Bettina)さんにお話をうかがっています。
DEIと自分らしさ
──エシカルSTORYの読者の方には「DEI」という言葉を聞き慣れない人も多いと思います。永井さんはふだんどう説明されていますか。
永井菜月さん(以下、敬称略):「企業で働くときにいろんな個性をもった社員が自分らしく働くことができる環境づくりをすること」それがDEI(多様性、公平、包括)だと伝えています。
もっとくわしく伝えたい時には、Eの「エクイティ(Equity)」つまり「公平」の大切さについてとくに説明をします。今、「ダイバーシティ推進」や「D&I」(ダイバーシティ&インクルージョン。多様性と包括)という表現がありますが、ここにはE(公平)が欠けています。ダイバーシティや包括を進めていくための前提として、「公平」を実現したいと考えています。
結果としての公平
永井:この図を見てください。
3人が野球を観戦しています。3人とも背の高さがちがいます。
左の図では、みんなに同じ高さの台が一つずつ与えられています。そのため、もともと背の高い人はゆとりを持って観戦できますが、背の小さい子どもはそもそも観戦できていません。
一方、右の図では背の高い人には台はありません。しかし、十分に観戦できています。背の低い子どもにはふたつの台が与えられ、結果として3人とも同じように観戦できています。
左の図のやり方では、一人に一つずつの台が与えられているので、全員に平等な補助が提供されているのですが、「背の高さ」というそもそもの前提が異なる人々に同じ台を与えても問題の解決にはなっていません。右の図のやり方では、結果的にみんなが同じように観戦を楽しめています。私は右の図のような状態を作ることが重要だと考え、Equity=公平性を意識して日々社内の課題解決に取り組んでいます。
──永井さんは社内でDEIの取り組みをどのように始めましたか。
永井:大きく2つあります。1つ目は全社へのアンケート調査です。「社員のみなさんがどのような制度・施策を求めているか?」をまとめ、議論して具体的な企画を立てました。
アンケート結果には、たとえば「自分がハラスメントを気づかないうちにやっているかもしれない。だから、それを知るための研修がほしい」といった声がいくつもありました。こういった学びに対し意欲的な声が出たことがとても嬉しかったです。
2つ目は、これまで制度化・明文化されてこなかったことを制度として整え、また言葉にしてはっきり示すことです。弊社にはDEIの風土は以前からあります。たとえば、女性管理職の比率が高く、外国籍の社員もおり、ゆるやかに多様性を大切にしようという価値観が共有されて来ました。
しかし、「社内の風土や空気がよいから、これでよい」と甘んじることなく、具体的な差別防止策や子育て支援制度を作っていく。そうやって形にして、言語化することを始めました。
──制度設計や明文化の事例についてお聞かせください。
永井:3つの事例を挙げます。
1. ハラスメント防止宣言
2.DEI 研修
3.慶弔にまつわる社内制度を作る
ハラスメント防止宣言
永井:「ハラスメント防止宣言」を作り、社内に共有しました。
この宣言は一般的な「就業規則」とは別に作りました。就業規則だけですと、多様なケースの差別や場面がハラスメントという大きなくくりの言葉に集約されており、具体例や方策がわからないケースがあるからです。そこをよりわかりやすく、具体的に伝えるのが「ハラスメント防止宣言」でした。
これを作る時にとても参考になったのはD&I AWARD(ディー・アンド・アイ・アワード)で表彰されていた企業様の事例でした。このイベントで知った内容や、この時できた横のつながりにさまざまな形で助けられています。
DEI 研修
永井:今年、社内でDEIの研修を実施しました。私はどのような研修にするか時間をかけて選び、「対話」を大切にした研修を選びました。そこで Culmony様に研修をお願いしました。
弊社だけでなく、私と同じようなポジションでDEIを進める方、人事やサステナビリティ担当の方々は、みんな研修の探し方に苦労しているのではないかと思いました。
たとえば、セクハラやパワハラについての研修で「やってはいけないことリスト」を配る、また学習用の動画を見るといったやり方もあります。それもよいと思いますが、明らかなNG事例を学ぶだけだったり、一方的なインプットだけでは研修を受けた方も不安が残るかもしれません。
さまざまなマイノリティ(少数者)への配慮やハラスメントについては、考え方・感じ方のちがいもあります。それは個人によっても、お互いの関係性によっても変わるので、一概に言えないところがあります。
ですから、「コミュニケーションって難しいよね」ということに向き合えるマインドセット(心構え)が大事になると考えました。「問い続けられる好奇心を持つ」「相談したい時、誰かに聞ける」「仲間や同僚と対話する仕方」などをじっくり学んでいくことが役に立つのではないかと。それで「対話」メインの研修をおこないました。
家族の範囲にかかわる制度を変える
永井:最近、弊社では慶弔見舞金・休暇制度を同性婚・事実婚にも適用しました。
それまで「結婚お祝い金」「忌引き休暇」などの制度は、提出書類などを含む申請方法の内容から、異性婚が前提となってしまっていました。新しい制度では同性婚・事実婚の方も届け出をすれば、制度を使えます。国家レベルではなかなか同性婚の法制化が進みませんが、職場では安心して福利厚生を使ってもらいたいと考え、「家族」の定義を変えていくための制度化・明文化をしました。
参考:プレスリリース「ニューロマジック、慶弔見舞金・休暇制度を同性婚・事実婚にも適用「Business for Marriage Equality(BME)にも賛同」(PR TIMES)
Business for Marriage Equality:「Business for Marriage Equality」は、日本で活動する3つの非営利団体による、婚姻の平等(同性婚の法制化)に賛同する企業を可視化するためのキャンペーンです。
なお、予備知識としてこちらの記事もおすすめです。「SOGI(ソジ)とは・意味」(IDEAS FOR GOOD)
企業の外に向かって発信すること
──これからやりたいと思っていることと永井さんの今の思いを聞かせてください。
永井: 就任してから2年が経ち、先ほど述べたような施策がある程度整ってきたので、もう一度、アンケートとヒアリングをして「従業員の方々がなにを求めているか」「どんな制度が必要か」を確認したいと思っています。
2024年、弊社はTOKYO PRO Market とFukuoka PRO Marketに上場しました。そのことで社会的なインパクト(影響力)が大きくなり、DEIの重要性も増しています。これまでDEI担当として主に企業の中のことをしてきましたが、企業は社会と地続きです。従業員が企業の外に出てもやはり安心して生活できるように、企業の外に向かっての発信も強化したいと考えています。
B Corpの取得
──ニューロマジックにおけるこれからのサステナビリティとはなんですか。また、具体的な方針や施策についてお聞かせください。
ベッティーナ:今の日本で実現されているよりも高い水準を社内で作ろうとしています。私はオランダ法人で最高経営責任者(CEO)を務めていますが、アムステルダムの法規制は先進的です。そこに追いつこうと努めています。
具体的な施策としてB Corp(ビー・コープ)の取得に向けて動いています。B Corpは企業のサステナビリティを評価・認証する制度です。透明性が高く、その認証を取得することで世界中のさまざまなステークホルダーと協力しやすくなります。まずはアムステルダム支社でB Corpを取得し、次は東京の本社でと考えています。
参考:B Corp(B Corporation)とは? 取得方法とメリット・認証を受けた企業(ELEMINIST)
「B Corp(Bコープ)」とは、「B Corporation(Bコーポレーション)」を略したもので、社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対する国際的な認証制度のこと。
──サステナビリティの中で、ニューロマジックが特に重要だと考えている課題(マテリアリティ)はなんですか。
ベッティーナ:マテリアリティについてはまだ診断・調査・策定中ですが、私が今、重要だと考えているのはジェンダーギャップ(男女格差や性差別)の解消、メンタルヘルスの向上、労働環境をよくすることです。
まとめ
永井様、ベッティーナ様、ありがとうございました。DEI(多様性、公平、包括)の取り組みは社会や文化が多様になり、さまざまな背景を持つ人がいっしょに働き、活動する時に必要になります。正解や答えのあるテーマではないですが、具体的な話はイメージがわき、参考になります。
また、B Corpは世界で注目されているエシカル、サステナブルな認証です。認証を取得できれば、企業が「社会的な意義が高い」と評価され、投資家や取引先、顧客へのPRにもつながります。
株式会社ニューロマジックは2024年で30周年を迎えました。創業以来、社長を務める黒井基晴様、みなさま、おめでとうございます。
取材・文:木村洋平
画像提供:株式会社ニューロマジック
プロフィール
永井菜月(ながい なつき)
取締役兼執行役員
上智大学院グローバルスタディーズ研究科卒業。学生時代から多様性やEquity(公平性)について関心を持ち、修士課程では米国のマイノリティコミュニティを研究。2018年当社入社。 2020年よりチームリーダーとして育成や事業づくりにも携わる。2022年よりDEI担当執行役員。2024年5月より現職。
ベッティーナ・メレンデス Bettina Meléndez
取締役CSO (Chief Sustainability Officer)
10代の頃からのNGOでの社会貢献活動やヨーロッパでの豊富なビジネス経験を通し、サステナビリティに関する幅広い知見を身につけている。2021年、ニューロマジックに参画。2024年5月、Neuromagic Amsterdam B.V. CEO就任。同月より当社取締役を兼任。オランダ・アムステルダム在住。