サステナビリティ(持続可能性)に基づく経営は、新しい挑戦と試みを続け、新しい価値を生み出し続ける「経営の王道」です。
サステナビリティ(持続可能性)というと、環境や社会に配慮する点で、事業に「制約」を与えるイメージがあるかもしれません。
しかし、サステナビリティは、常に世の中に新しい価値を提供し続けること、すなわち事業のアップデートによって事業を継続させていくという点で、むしろ経営の王道なのです。
サステナビリティは事業を制約する?
「カーボンニュートラルのために、二酸化炭素を排出しないようにしよう」
(=気候変動、地球温暖化を緩和する)
「サプライチェーンをフェアトレードにしていこう」
(=途上国の生産者・労働者に適正な対価を払う)
エシカルやサステナビリティの文脈でこう言われると、「それでは経営が成り立たない!」と返したくなる場面もあるかもしれません。
つまり、エシカル、サステナビリティは「事業を制約するもの」という見方があるかと思います。
そのため、まだ「SDGsやCSRで環境に配慮するのは、コストがかかるが、せめて企業イメージはよくなるだろう」といった認識も残っているようです。
このように、日本ではいまだに「サステナビリティが事業を安定させ、加速させる。そして企業の生存戦略になる」という見方が定着していないところがあるでしょう。
サステナビリティが事業を安定させる
しかし、欧米では大きな企業や機関投資家を中心に、サステナビリティは「当たり前」のことになっています。
なぜでしょうか。
たとえば、スターバックスでは、99%以上の珈琲豆をフェアトレード(適正な対価を払う)によって調達しています。これを「エシカルな調達(倫理的な調達)」と呼んでいます。
しかし、スターバックスは儲かっているから慈善事業でそうしているわけではありません。
珈琲豆の産地は、主に中南米やアフリカ、インドネシアなどの熱帯地域です。しかし、こうした地域で貧困や自然災害、生産者の健康被害などが増えれば、スターバックスは安定的に珈琲豆を調達できなくなります。
そこで、カフェ事業本体の強靭性(レジリエンス)を上げるために、フェアトレードを通じて生産者と連携します。そうすれば、突発的な災害や気候変動にも適切に対応しながら、珈琲豆の安定供給を確保できるということなのです。
もし、これが生産者を搾取するやり方だと、異常気象による大雨や干ばつ、地域での病気の流行などによって珈琲豆の生産はストップするかもしれません。そして事業本体が脆弱になります。
これがサステナビリティ(持続可能性)経営の考え方です。
サステナビリティは経営の王道を示す
今、世界のメガトレンドに気候変動をはじめとする環境や社会の問題が多く上がるようになってきました。SDGsに上げられているような課題です。
これらに意識して対応しなければ、企業活動も日常の生活も「このまま長くは続けられない」(=持続可能ではない)状況です。
これは、たとえて言えば、カラーテレビが出たらラジオだけ売るわけには行かないし、スマホが出たらケータイだけ売っているわけには行かないのと同じ理由で、SDGsが上げているような課題に対応した事業をしないと仕方がない、という状況です。
そういう意味では、「サステナビリティ経営をしよう」と言うことは、常に新しい挑戦と試みを続けて、それにより新しい価値を生み出し続けることで、事業を長く継続しようという表明です。
それはいつの時代も変わらない、経営の王道ではないでしょうか。
新しい価値を生み出すから報酬も生まれる
他方で、打ち上げ花火のような企画で一儲けする、弱い立場の人を搾取できる間はする、お金の流れの上流で中抜きビジネスをやる、といった経営は、「常に新しい価値を生み出し続け」ていないので、事業として脆弱さがあるでしょう。あるいは、詐欺的なやり方に近いとも言えます。
また、働く側にとっても日本では、「我慢して働いているから、給与が入るべき」という考え方が、だいぶ強いように感じられます。
それはサラリーマン社会が長く続いて昭和の時代に成功を収めたことの後遺症だと思うのですが、どんなに我慢しても労働しても、事業本体がその時代と人に合った価値を生み出していなければ、本来、一円も報酬は生まれません。
今の時代の課題に応えて、人を喜ばせられるような「新しい価値」を生み出すから、それに対して企業は対価を得て、それが働く人への報酬になるわけです。
こうして考えると、サステナビリティの考え方は、経営についてもビジネスについても「王道」を確認するものだと言えます。けっしてビジネスを善意やボランタリティで飾り立てたり、まったく馴染みのないことを言い出したりするものではありません。
中小企業の事例について
さて、これまでの話が「正論」に感じられても、
「それは大きな企業だからやっとできる話ではないの?」
と思われるかもしれません。
そこで中小企業がサステナビリティ経営をして、成功した事例をまとめた本を紹介します。
『武器としてのカーボンニュートラル経営〜中堅・中小企業のサバイバル戦略〜』(夫馬賢治、ビジネス社、2022)
この本は、ESGコンサルタントとして日本のサステナビリティ・ESGを牽引する夫馬賢治さんの新刊です。
ユニークなのは、夫馬さんが8人の経営者にインタビューをして、経営者の生の声を引き出しているところです。経営者自身が、事業をサステナブルにしてきた過程を率直に語っており、内容は経営の厳しさや創意工夫にあふれています。
どの経営者も「社会をこうしたい」というエシカルなヴィジョンを持ち、逆境にあっても信念を貫いています。それでいて、その時々の経営課題やチャンスに柔軟に対応し、ピボット(事業の転換)していく実例は、とても充実しています。
事例も、熊本での農業、金沢での豆腐作り、結婚式場を建てる、愛知県の建設業界など幅広く、領域横断的なサステナビリティを学ぶのにふさわしい一冊です。
私たち一人ひとりが始められる「サステナビリティ×仕事」が見えてくるかもしれません。
下記のエシカルSTORYおすすめ記事もあわせてご覧いただけると幸いです。
文:木村洋平
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