さがみこベリーガーデン──地域と未来をつなぐソーラーシェアリング農園

地域資源を活用し、耕作放棄地の再生をはかる「さがみこベリーガーデン」は、ソーラーシェアリングを通じて食とエネルギーのテーマパークを構築し、地域活性化と新たな交流の場作りをめざしています。

取材日:2025年1月16日

今回は、ソーラーシェアリングによって耕作放棄地を再生させ、地域コミュニティを再興する農園、「さがみこベリーガーデン」の山川勇一郎さんを取材しました。持続可能な農業と食・水・エネルギーの循環、コミュニティの活性化を通して、地域の未来を切り拓くエシカルな取り組みです。

代表の山川さんがこの事業を始めるきっかけとなったのは、東日本大震災でした。この出来事を通じて、「コンセントの向こう側」にあるエネルギーの仕組みに関心を持つようになり、原子力に頼らず、クリーンエネルギーを地域で生み出し、地域で使う仕組みが重要だと考えるようになったそうです。

一方で、再生エネルギーである太陽光発電にも、ときには無秩序な山林開発による自然破壊が起こるという課題があります。そこで山川さんは農地、特に耕作放棄地を活用することで新しい可能性が広がるのではないかと考え、ソーラーシェアリング事業の展開を決意しました。

「ソーラーシェアリング」農業とは、農地で作物を栽培しながら支柱を立て、その上に太陽光パネルを設置して発電する取り組みです。農地を二重に利用することで、農業収入と発電収入の両方を得ることができ、環境保全や地域活性化にもつながります。この仕組みを導入することで、耕作放棄地を有効活用しつつ、地域に持続可能なエネルギーを供給するという山川さんの思いがかたちになりました。

ソーラーシェアリングの例
ソーラーシェアリングのイメージ画像

「農地が放棄され、地域が過疎化していく現実をどうにかしたい」という声はさまざまな地域にあります。地域と共生しながら食とエネルギーを生み出したいという思いからスタートした「さがみこベリーガーデン」は、神奈川県相模原市の青野原前戸地区で、地域資源を活用した新しい挑戦を続けています。


放棄された農地を再生させる

青野原前戸地区は、神奈川県の水源地である道志川沿いに広がる山間部。都市部への人口流出や過疎化、高齢化が進む中、農林業の維持が困難になり、多くの農地が放棄されていました。その大きな原因は、「地域で収入を得られる仕事が少ない」という現実です。

この課題を解決するため、「さがみこベリーガーデン」ではソーラーシェアリングを活用しました。太陽光発電設備を農地の上に設置し、その下でブルーベリーを栽培することで収益基盤を確保します。さらに、地域のポテンシャルを引き出し、食・水・エネルギーを地域内で生産・循環させ、小さな農地から最大限の利益を生み出す新たなモデルを築きました。

さらに、農業とエネルギー事業に真摯に取り組む一方で、地域との共生も重視しています。山川さん自身が初心者として始めた農業は、地域の小中学校の職場体験や探究授業の受け入れを通じて、今では教育の場としても機能しています。また、大規模災害時には非常時の電源ステーションとして自治会に無償で電力を供給する仕組みを整え、地域の安全と持続可能な発展に寄与しています。


ブルーベリー体験農園─地域住民と観光客をつなぐ場

ブルーベリー

「さがみこベリーガーデン」では、36種類、1,100本以上のブルーベリーが栽培されています。2022年6月のグランドオープン以降、夏のシーズンには1,000人以上が訪れ、摘み取り体験を楽しんでいます。農園は観光客だけでなく、地域住民との交流の場としても活用されています。

一番気持ちが良い季節は6月で、ユーリカという品種は500円玉サイズになるそうです。

現在、約400名の個人会員と11社の法人会員が登録し、農園の活動を支えています。会員は四季折々の美しい景色を楽しみながら、新鮮なブルーベリーの摘み取りや農業体験を通じて、自然とのふれあいを満喫しています。

さらに、農園は教育の場としても活用されています。地域の子どもたちが自然環境について学ぶ機会を提供し、未来の世代が地域資源の大切さを理解するきっかけを作っています。「ただの農園ではなく、人と人、そして地域をつなぐ場所でありたい」と語る山川さん。

その思いは、訪れるすべての人々に伝わっています。


クラウドファンディングへの挑戦——「食とエネルギーのテーマパーク」をめざして

現在、さがみこベリーガーデンでは、新たな挑戦としてクラウドファンディングを実施中です。このプロジェクトでは、隣接する耕作放棄地を活用し、現在と同規模の300kWのソーラーシェアリング設備を設置します。その下でブドウやイチジク、レモンを栽培し、多様な地域の組織、個人と協力しながら、地域全体を「食とエネルギーのテーマパーク」として一体的に運営することをめざしています。

これにより、耕作放棄地を新たな生産拠点として再生しつつ、人々が集い、交流できる場を作り出します。また、地域を支える次世代の担い手を育成する教育の場にもなる予定です。

ますます地域の内外から人々が訪れるようになり、つながりを生み出す循環の仕組みを構築することで、地域活性化を実現していこうとしています。

【クラウドファンディングはこちら】
https://for-good.net/project/1001111


まとめ

「さがみこベリーガーデン」は、ソーラーシェアリングを活用した持続可能な取り組みを通じて、地域と未来をつなぐ新しいモデルを築いています。地域の資源を活用しながら、耕作放棄地の再生や交流拠点の創出を目指すこの挑戦はエシカルで、地域社会に希望をもたらすものです。次の春、ミツバチが飛ぶ頃、ぜひ一度足を運んでみてください。


取材・文:秋山彩百(成瀬のなるちゃん)
画像提供:さがみこベリーガーデン


さがみこベリーガーデン
住所:神奈川県相模原市緑区青野原329
開園時間:10:30~15:30
電話:050-3578-3356(9:00~17:00)


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