足を使う泥臭いコンサルが協創のエコシステムを立ち上げる

コンサルティングの仕事は、「分析してレポートを提出する」から「自ら足を使い、泥臭い実務をこなしてみんなが協力できる体制づくりをする」に変化する兆しがあります。エシカルな協創が求められています。

デロイト増井さん

世界最大級のコンサルティング会社であるデロイトトーマツコンサルティング合同会社で働く増井慶太(ますい けいた)さんに、コンサルティングの新しい形を伺いました。

「コンサル」は、企業の戦略アドバイザーであり、就活でも人気がある職種として知られています。「コンサルタントはブレイン(頭脳)役である」──そんなイメージもありますが、今回は「足を使い、泥臭い実務をこなす」というあり方がテーマです。


──インタビュアー(木村):今日は新しい時代のコンサルティングについてお話を伺いたいと思います。

増井慶太さん:はい。私は仮に「コンサル3.0」と呼んでいます。おおまかな流れを説明させてください。

21世紀初頭まで日本のコンサルティングは、戦略アドバイスの決まった枠組みをもとに、分析レポートを提出するというやり方が主流でした。

枠組みを「フレームワーク」と言いますが、いわば「型にはめる」ようにして、うまい考え方を教える仕事がメインでした。「ロジック」に重きを置く時代だったのだろうと思います。これを「コンサル1.0」と呼んでもよいと思います。

その後、業界の分析をして、提供すべきサービスを考えるやり方に変化していきます。より具体的に踏み込んだとも言えます。

その時、「数字」や「事実」を重視したレポートを出します。「ファクト(事実)」重視の手法として知られます。これが「コンサル2.0」です。

さて、ここまではクライアントである企業に提出する「レポート」が、コンサルティングの成果物でした。

そして、近年生まれている新しい形がコンサルタントによる「エコシステムの協創」です。これが「コンサル3.0」です。

これはなにをやるのかと言いますと、解決すべき課題に対して、関係する企業や法人、個人をひとつの場に集めて、力を合わせられる環境(=エコシステム)を作る仕事です。

そこで、関係者の方々が知恵や情報を交換し、新しい動きを始めることもできます。そのためのお手伝いとして、黒子のように裏方をやるのですね。


──その「コンサル3.0」は、「2.0」までとずいぶんイメージがちがいますね。

そうです。コンサルタントというと、知識や考える力を持っているから、それをクライアント企業に「与える」という印象もあるかと思います。

しかし、これからの時代に必要とされるコンサルティングは、自分で足を使い、ステークホルダー(関係者)と対話をして、それぞれが動きやすい環境づくりを考える。さらに、そのために裏方で実務もこなす、地道で現場に近い仕事ではないかと思うのです。


──例を挙げていただけますか。

たとえば、希少疾患のための一般社団法人を立ち上げの御支援をしている例が、弊グループにあります。

*「遺伝性血管性浮腫診断コンソーシアム (DISCOVERY)」という一般社団法人の例です。

「遺伝性血管性浮腫」というまれな病気があります。現在、日本では450人ほどの患者さんが診断されています。この病気は、遺伝子の変異を原因として発症し、腫れやむくみが出るという症状をくり返します。

ところが、現状では、医師による診断が遅れることがありますし、かかった人もこの病気を知らないために、原因不明のまま、発症から診断までに10年以上かかることもあります。

そこで、この希少疾患の啓発と、早期診断を下すために、一般社団法人が立ち上がりました。

複数の製薬会社や患者団体、大学教授、医療界のオピニオンリーダー、テクノロジー企業が牽引します。弊グループがつなぎ役として、知恵を集め、情報発信をしています。また、社団法人立ち上げにかかわる規約作成、理事会の運営などを引き受けました。


──なるほど。それが「エコシステムの協創」なのですね。その場合、資金はどう調達するのでしょうか。

ケースによるのですが、単社ではなく、産官学民で想いを同じくする複数の団体が資金を出資することがあります。

みんなが集まって、利害や関心を調整しながら、協力してビジョンに向かって行動していきます。その中で、メリットや共感が生まれれば、出資する企業や法人も増えてきます。


──「コンサル3.0」と、エシカルやサステナビリティの関係についてはいかがでしょう。

今のまま手を打たなかった場合、遅くとも2030年代の後半には、日本の人口構成は危機的な状況になります。働ける世代の人口は減り続け、逆に高齢者は増えて、抱える疾患も多様になることが予測されています。

* 参考:国土交通省による人口動態の予測

私はヘルスケア領域を専門としています。医療、生命科学、健康にかかわる分野です。ヘルスケアの観点から、これから10年〜20年後の日本をどう下支えするか、日々考えています。

今、ヘルスケア領域もこれまでの専門領域や業界の枠を超えて、多くの産業と協創することで、新しい発想やサービスが生まれています。

たとえば、製薬会社が自動車業界、食品産業、通信産業やメディア産業といっしょに仕事をすることを考えます。そういう知や技術の掛け算を実現するために、コンサルタントが橋渡しをすることを考えるわけです。それが「エコシステムの協創」です。

命や健康や幸せは、人生の根幹だと思います。WHOの言葉で言えば、ウェルビーイングですよね。

* WHO(世界保健機構)は、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」と述べています(こちらを参照)。
この「すべてが満たされた状態」が英語の原文で Well-being であり、そのまま日本語でも「ウェルビーイング」と言われます。

私どもコンサルタントの根幹も、従来のやり方にとらわれず、持続可能(サステナブル)な社会を作るために試行錯誤と泥臭い努力を続けていくことにあるのではないかと、常々考えています。


取材/写真/文:木村洋平


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