この2,3年、大きなトレンドとなっている「ステークホルダー資本主義」は、持続可能な社会・経済を目指す新しい資本主義の形です。
今、新しい資本主義の形として「ステークホルダー資本主義」が注目されています。
ステークホルダー資本主義とは
「ステークホルダー(利害関係者)」とは、事業に関係するすべての人や組織を指します。株主、従業員、地域社会、取引先、サプライヤー(調達先)などです。
そして、「ステークホルダー資本主義」とは、ステークホルダーとしっかり対話した上で、多くのステークホルダーの関心を満たせるように経営することを言います。
これはリーマンショック(2008年)頃まで主流だった「株主資本主義」(株主の、とくに短期的な利益を重視した企業経営を求める)に対比させられています。
ステークホルダー資本主義は、株主にかぎらず、より広い関係者のニーズを満たせる企業経営と企業統治を大切にする点で、よりサステナブル(持続可能)な資本主義と言えます。
ブラックロックのレター
世界最大の資産運用会社であるブラックロックは、2022年の企業へのレター(メッセージを込めた手紙)で「ステークホルダー資本主義」をテーマにして経営者に語りかけました。
ブラックロックは、年金機構や保険会社から預かった資産を運用する会社であり、世界最大の規模を持ちます。2021年の運用資産は総額10兆ドル(1140兆円)を突破しました。
そのトップ(ラリー・フィンクCEO)が今、「企業の目的(パーパス)を明らかにして、さまざまな利害関係者と対話をして、かかわる人や組織の全体がよりよい状況を創れるように経営しよう」と述べています。
ブラックロックは、他者の資産を預かる立場として、安全で効率的な運用を大切にしています。そのためには、投資先の企業が目先の数字にあまり惑わされず、ブレない経営を心がけ、中長期的な成長をすることが大事であると考えています。
ですから、「ステークホルダー資本主義」が浸透することは、ブラックロックにとっても事業の本体にかかわる重要なことなのです。
このように、「世界最大の株主」とも言える会社の方から、株主の短期利益を至上とする資本主義ではなく、ステークホルダー全体に目配りした資本主義への転換を促しているのが、国際社会の現状です。
具体的に企業にメリットはあるのか
では、企業に「ステークホルダー資本主義」に切り替えるメリットはあるのでしょうか?
たしかにステークホルダー資本主義によって、ステークホルダー(利害関係者)の関心は満たされるとしても、そのために企業は「損」をして、経営があやうくなりはしないのでしょうか。
そこで、具体的な例として、スターバックス社の動きを見てみましょう。スターバックスはゼロ年代からすでにサステナブルな経営を心がけていました。そして、今に至るまで一貫して大切にしているのがコーヒー豆の「エシカルな調達」です。
それは、「途上国の生産者を搾取して、少しでも安くコーヒー豆を買い付ける」ことの反対です。スターバックスは、コーヒー豆の生産者の生活が守られ、その地域社会が活気を得られるように工夫し、環境にも配慮しています。
こうして、エシカル(倫理的)な生産・流通体制を築くことで、みずからの事業本体(カフェ事業)を守り、より強固にしています。
ほかにも、店舗(スターバックスのカフェ)が「イベントを開く」「ダイバーシティ(多様性)のある雇用を実現する」といった方法で、地域社会に貢献もしています。これも、お店が地域の人々に愛され、長く続けられるようにという経営方針から来ています。
このように、ステークホルダーを大切にする経営は、かかわる人や組織と長期的な信頼関係を築くことで、企業にとっても事業の基盤を確かにする意味があります。
対話による信頼構築
ステークホルダー資本主義は、それぞれのステークホルダーの関心を対話によって知り、できるかぎり大事にする道を探ります。
たとえば、産休・育休が重要だと思う従業員もいれば、リモートワークを早く確立したい従業員や取引先もあるでしょう。あるいは、地域の暮らしの安定を求める顧客もいるはずです。
こうしたニーズの調整を、対話によっておこない、長期的な信頼を構築していくことが、事業をサステナブル(持続可能)にし、企業の基盤を固めることにつながります。これが資本主義の新しい形として今、強く求められています。
文:木村洋平
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