カーボンニュートラルが、とくに世界の金融業界で大きな話題になっています。気候変動について考えながら、カーボンニュートラルとはなにかを解説します。
カーボンニュートラルとは
まず、カーボンニュートラルの定義ですが、「温室効果ガスの排出量・吸収量を差し引きゼロにすること」と言えます。
自然界では、森林や緑が二酸化炭素を吸収しています。一方、人間の経済活動は二酸化炭素を排出します。これらが、差し引きゼロ(プラスマイナスゼロ)になることがカーボンニュートラルです。
しかし、現在、二酸化炭素はもちろん排出量の方が多く、地球全体で年間50Gt(ギガトン)排出が超過しています。これが気候変動を引き起こしています。
これを「カーボンニュートラル」に持っていくには、現在の二酸化炭素の排出量を減らすほか、植林や海藻や海草を増やすなど、二酸化炭素を吸収する対策も積極的におこなう必要があります。
*海藻や海草など、海の植物による二酸化炭素吸収量は、地球全体の55%を占めると言われます。
世界の金融と企業活動が止まるほどの危機
さて、カーボンニュートラルが達成できないと、どのような問題が起こるのでしょうか。
気候変動が進むと、異常気象による自然災害が起こります。ハリケーン、洪水、豪雨、山火事、熱波などです。これは局所的に企業や住民にダメージがある、という事態にとどまりません。
たとえば、世界の災害保険額を見ていくと、1990年頃から明らかな上昇傾向にあります。
1990年前後(約30億ドル)
2000年前後(約50億ドル)
2010年前後(約80億ドル)
2020年頃(80-90億ドル)
これらの災害保険額の大半を気候関連の災害が占めています。世界のあちこちで予測が難しい大きな自然災害が増えているということです。
このまま行くと、災害リスクが大きすぎて保険業界は保険をかけられなくなり、それに伴い、企業の活動が止まるといった経済崩壊シナリオも考えられます。
*気候変動のもたらす危険については、こちらの記事にもまとめています。
そこで、今すぐに手を打って努力すれば可能な目標として「2050年カーボンニュートラル」が掲げられました。2050年には、現在の年間の排出量50Gtを0(ゼロ)にする、というプランです。
国際社会はこれを目指すことでまとまりつつあります。日本の政府も、2020年9月に菅首相がかなり唐突に「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。世界の波に乗り遅れられない、という危機感がにじみました。
金融業界が危機感を覚える
では、その「国際社会」とは具体的にはなんでしょうか。日本に住む一人ひとりの実感としては、「今すぐカーボンニュートラルに進まないと」と誰もが思っているわけではないでしょう。
とくに強い危機感を示しているのは、世界の金融業界です。
たとえば、アメリカの中央銀行(銀行にお金を貸す銀行)であるFRBは、2020年11月に「銀行が気候変動のリスクを考慮して活動をしないとならない。それほど、気候変動がもたらす金融システムへの負の影響は大きい」というレポートを出しています。
また、世界の中央銀行を束ねる銀行である「国際決済銀行」も、2020年1月に「銀行界だけでは、もうお手上げ」と言うに近いレポートを出しました。気候変動が、予測できないリスクを増やし、金融システムが脆弱になっていくのを止められないのではないか、という危機感を示しています。
*通称「グリーン・スワン」報告書。国際決済銀行が、気候変動による金融危機を予想した。
このように気候変動は、各地域の平均気温上昇や海水面の上昇などを通じて、世界的な金融危機を引き起こすものだと認識されています。
投資を通じてアクションを起こす
そこで、対応策も矢継ぎ早に打たれています。金融業界では、機関投資家たちが早くから気候変動に対する動きを進めていました。たとえば「クライメート・アクション100+」というイニシアティブ(発案)があります。
これは、世界の主要な年金基金、保険会社、運用会社など、巨額の投資資金を動かせる団体が集まって意思を統一し、温室効果ガスの排出量が多い企業に対して、排出量を減らすよう圧力をかけるものです。
*「クライメート・アクション100+」は2017年12月に発足。
また、金融業界が主導して作った「気候関連財務情報開示タスクフォース」という提言には、「気候変動に対策を打とう」という企業・団体・行政機関が世界的に賛同しています。
ちなみに、日本で賛同している企業・団体一覧はこちらです。
注目が集まるESG投資
このように「投資」や「金融」を中心に据えたサステナビリティの考え方を「ESG」と言います。ESGは、E(環境)、S(社会)、G(企業統治)の頭文字に由来します。
この「ESG投資」は今、世界的に注目を集めており、評価基準や指標が作られていますし、機関投資家もESGの投資額を増やそうとしています。
まとめ
このように、金融業界をはじめとして、企業や政府が一体となって気候変動への対策は急速に進んでいます。
もう少し身近なところで言えば、エシカルやサステナビリティに配慮しない企業は、投資家や銀行から厳しく指導されたり、投資や融資の引き上げを検討されたりするでしょう。
私たち個人にできることにはかぎりがありますが、気候変動がどれほど緊急性の高い課題か、ということを勉強することは意味のあることだと思います。
世界のメガトレンドを視野に収めながら、一人ひとりのエシカルな生活やキャリアを考えていくのがよいのではないでしょうか。
*参考:『超入門カーボンニュートラル』夫馬賢治、講談社+α新書、2021
『ESG思考』夫馬賢治、講談社+α新書、2020
文:木村洋平
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