日常の防災の向こうに「気候変動」を考える

「気候変動」(または、気候危機)は今、世界になにをもたらしているのでしょうか。災害への備え、日常の防災と結びつけて気候変動を考えてみましょう。

洪水の起きた街


「気候変動」といっても、「温暖化すると、1℃気温が上昇する?」といった漠然としたイメージでは、危機感が湧きづらいでしょう。実は、日常の「防災」の延長に、気候変動の問題も考えられます。

今、気候変動は、待ったなしの課題だと世界的に受け止められています。温暖効果ガス、とくにCO2(二酸化炭素)を出さないようにするため、欧米は政府も企業も対策をしてきました。中国も、2020年に「排出ゼロ」を目指すと宣言しました。

では、具体的にどんな問題が起こっているのでしょうか?


気候変動によって、住む場所がなくなる

まず、ひとの住む場所がなくなっていくことです。

地球の気温の上昇によって、南極の氷が溶け出し、海面が上昇します。これにより、水没する沿岸部でひとが住めなくなります。また、気候の変動は、異常気象を引き起こします。ハリケーンでたくさんの家が倒壊することもあれば、アフリカで湖や川が砂漠化することもあります。

そうした場所からは避難民がほかの地域へ移ろうとし、国境で問題が起きることもあります。トランプ大統領が「メキシコとの国境に壁を作る」と訴えたのも、中南米(メキシコ、ホンジュラス、ニカラグアなど)からの移民をシャットアウトしたかったからでした。中南米からは、気候変動をはじめとする環境の変化により、土地に住めなくなった人々がアメリカを目指して来ます。

中南米の地図
緑の部分が中南米と呼ばれる


アフリカでは、気候変動により水や食料の確保がむずかしくなった地域で、紛争が起こり、人が殺されたり、避難したり、大きな混乱が起きています。

このように、「住む場所がなくなる」ことは、紛争や民族間の争い、難民の発生へとつながっています。


日本の豪雨と水害はとても危険である

「それなら、日本はどうなの?」と思われたかもしれません。

日本は島国ですから、徒歩で国境を越えて来る難民がたくさんいる、という風景はありません。
では、大丈夫なのでしょうか?


実は、日本は気候変動の影響を一番大きく受ける国ともいえます。

世界に支社を持つ保険会社の試算によると、2019年の自然災害による世界の保険損害額(520億ドル)のうち、3割弱が日本の損害でした。実際、2019年に一番、被害額が大きかったのは台風19号(80億ドル)です。

*スイス再保険(スイス・リー)の発表

2018年には西日本豪雨もありました。

ここ30年ほど日本では、大規模な洪水被害はあまりなかったのですが、2018,19年は続きました。さらに、2020年には熊本の球磨川(くまがわ)の氾濫も、大変な被害を起こしています。こうした豪雨や洪水という災害は、気候変動の影響を強く受けている、と見られています。

大雨の水


都心も無関係ではありません。

「ハザードマップ」は近年、よく聞かれる言葉になりました。たとえば、水害の際、どこのエリアが危険で、どこに逃げればよいのか、自治体はハザードマップ(災害時の地図)を作り、公開して、注意を喚起しています。

東京都の江戸川区は、海抜ゼロメートル地帯が7割を占めます。もし、超大型の台風が来れば、区のほぼ全域が浸水して、水道や電気、ガスが2週間以上、止まる地域もあると「ハザードマップ」作成の過程でわかりました。

同じように、墨田区、江東区など周辺の自治体4つもほとんどの地域が浸水することが考えられます。合計で、人口の9割以上を避難させるケースも想定されており、250万人が家を離れるかもしれないのです。


日常の防災の向こうに、未来を考える

日本では、毎年、台風や豪雨による被害が起こりますし、また地震の多い国でもあるため、日本人は「防災」の意識が高いといわれます。いざという時に自分の身を守る、ということです。

しかし、豪雨や洪水の根本的な原因が気候変動にあり、それが刻一刻と進んでいるのであれば、それに無関心なまま、いつ来るかわからない激甚災害(げきじんさいがい)に自分一人、または家族とおびえる、というのは心もとないでしょう。

その点、日本は気候変動への意識も対策も遅れている、と言われます。

2019年に大ヒットした、映画「天気の子」の新海誠 監督は、インタビューで聞かれることが、世界のメディアと日本のメディアでちがう、といいます。「天気の子」には、東京が水没するシーンがあるため、海外メディアは必ず気候変動について質問するのですが、日本メディアからはぜんぜん聞かれなかったそうです。

快晴の空


いざという時のため、「避難所はここ」「災害時に持ち出せるリュックを用意しておこう」といった防災の意識をもつ延長に、気候変動にどう向き合うかを長期的に、大局的に考えることは、子供世代をふくめ、未来や命を考えることだといえるでしょう。


*参考:朝日新聞GLOBE 2021年4月4日発行


文:木村洋平


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