コロナ下の飲食業はどのように戦っているか?【後編】──「明るく、元気で、やさしい」現場づくり

こちらの【前編】に続き、コロナ下で戦略を練る飲食業の状況を取材しました。今回は現場の声をお届けします。株式会社キープ・ウィルダイニングの店舗を3つ回り、小売/臨時のマーケット/カフェレストランで働く3人のスタッフさんにインタビューをしています。

女性のスタッフがマルシェで袋を渡す
カツオマーケットで働く社員の岸田さん


1. キープウィルマルシェ鶴川で働く細越佳奈(ほそごえ かな)さん──地域にマルシェがあることの意味を考える

キープウィルマルシェ鶴川
マルシェで働く細越佳奈さん


■「キープウィルマルシェ鶴川」はコロナ下の2020年7月にオープンした小売店。小田急線 鶴川駅の改札前にあり、自社ブランドの惣菜や弁当、お菓子を中心に販売しています。

キープウィルマルシェ外観
お店の外観


インタビュアー(木村):今の(2回目の緊急事態宣言の)状況でどう動いていらっしゃいますか。

細越さん:もともとこの「キープウィルマルシェ鶴川」は「レストランを食卓へ」というコンセプトを掲げているので、お店に行かなくてもレストランの味をご自宅で楽しんでいただけるような、食事の時間が楽しみになるような、そんな打ち出しがもっとできるとよいのかもしれません。一つ一つの商品はこだわりがあって置いているので、その意味を伝えたいですね。

マルシェの理念が書いてある
キープウィルマルシェの想い


──商品のバラエティがとても豊かですよね。お弁当、惣菜からお菓子まで。

弊社の食の魅力を詰め込んで作ったお店です。

お客様もキープ・ウィルダイニングを知っていてお越しくださる方が多く、ありがたいです。弊社が武相エリアの地場の食材を使っていること、また今までは二駅向こうの町田まで出ないと買えなかった「こがさかベイク」のケーキやクッキーが買えることを喜んでいただけると、うれしいですね。

こがさかベイクのコーナー
こがさかベイクのクッキーやパウンドケーキ


──どんな商品がよく売れますか。

12月はこがさかベイクがよく売れました。年末でしたし、ケーキを中心にスイーツは多く求められました。STRIの惣菜は安定して人気があります。レストランだからこそ出せる味を出来合いで買えるのがよいのだと思います。


──お店の今後について、どういう風に思い描いていますか。

最近では、鶴川のお客様に受け入れられている感じを覚えられて、嬉しいですね。「お店がここにある意味」を働く側も感じられます。

コロナ下ではありますが、これからはむしろ「チャンス」だと感じます。商品開発や通販に力を入れるなど、まだまだお客様や地域の方に喜んでいただけることが色々ありますから。


──細越さんご自身について伺ってもよいでしょうか。なぜ飲食業に就きたいと思ったのですか。

学生の頃、長野でお酒を飲む機会がありました。赤ちょうちんのお店で地酒を出してもらい、お店のおじいちゃんたちが商品へのこだわりや愛を語ってくれたんですよ。その姿に惹かれて「飲食業にしよう」と決め、新卒でキープ・ウィルダイニングに入社しました。


──キープ・ウィルダイニングさんで働きたいと思ったきっかけは何ですか。

就活の時に聞いた説明会やお店をみた時に純粋に「楽しそう!」という印象を受けて働きたいと思いました。どこのお店に行ってもウェルカム感がすごく、働いているひとが魅力的に感じられました。

面接でも社長や幹部クラスのひとが、こちらの目を見て話してくれて、「一人のひととして見てもらえている」と思えたのも入社の決め手となりました。


──飲食業に就いて、どんなやり甲斐を感じていらっしゃいますか。

私は就職してからずっと現場にいたのですが、「楽しい!」のひと言でした。和食や居酒屋の店舗に配属されてきて、ほとんどホールでお客様へサービスをしてきました。

* 今は現場に立ちながら、本部の仕事にもかかわっていらっしゃいます。


飲食を通して「目の前のひとが喜んでくれる」というのがやり甲斐です。就職して3年目くらいからは後輩の教育も始まり、右も左も分からなかった子がお客様に褒められるのもうれしかったですね。

本当に近い距離でお客様と接する、という感覚が常にあります。そのなかで、どれだけ喜びや楽しみを感じていただけるか、そこが飲食業の醍醐味だと感じています。



2.レストランBONITO(ボニート)とカツオマーケットで働く岸田侑子(きしだ ゆうこ)さん──近所の方とのコミュニケーションを大事にする

女性のスタッフがマルシェで袋を渡す
カツオマーケットで働く岸田さん


■ 岸田さんの働く「カツオマーケット」はコロナ下が始まってから、2回の緊急事態宣言の際、カフェカツオの店舗前に臨時で出店した。


──コロナ禍が始まってから、このカツオマーケットが店舗(BONITOおよびカフェカツオの入っているビル)の前で開かれるようになったのですよね。

岸田さん:きっかけは、1回目の緊急事態宣言(2020年4,5月)です。あの時は、街からひとが消えてしまったかのようでした。弊社のカフェやレストランもお客様がぐっと減りました。その時、卸業者さんは野菜やお肉、お魚の行き場がなくなってしまったんです。

それで、弊社ではお惣菜を作り、地元のお野菜を売る市を立てようと考え、「カツオマーケット」を臨時で出店しました。不要不急の外出ができずに不安に包まれている街の方々に、少しでもお家で美味しいご飯を食べて元気になってほしかった。今の自分たちができることを考えて動き出したマーケットでした。

カツオマーケットの商品
カツオマーケットで売るお弁当は自社製

今回、2回目の緊急事態宣言では、1回目の時によく来てくださったお客様がまた来てくださいます。弊社のカフェやレストランが好きだと言って応援してくださる方がいらっしゃり、街の方の温かさを感じます。


──岸田さんはBONITO(ボニート)というレストランで仕事をされながら、シフトを組んでカツオマーケットにも出ているのですよね。店舗およびマーケットでは、どのような対策を打っていますか。

まず、衛生面の対策は早期から徹底しています。スタッフやテーブルなどのシビアな消毒、またお客様にはレストラン入り口での検温・消毒をお願いしています。このことはインスタグラムや店内の掲示でもきちんとお伝えするようにしています。

レストランとしては、メニューを手書きで出すようにしました。これは、このお店をもっと日常的に身近に感じてほしくて、ふらっと立ち寄れるようなふだん使いできるお店にしたかったからです。特別な日に行くだけでなく、週に1度や毎日でも、お越しいただけてほっとできるようにと。そして、頻繁にいらしても飽きがこないよう、新しいメニューを考えメニューをよく変えています。


──「ふだん使い」できるレストラン、または食堂というコンセプトなのですね。

はい。去年の緊急事態宣言で、お客様があまりいらっしゃらなくなった時、「お客様が来てくださるのは当たり前のことではない」と痛感しました。

そこで、「常連さん」がたくさん作れるような、いつ訪れても気持ち良いお店地域の方々に愛されるお店でないと、これは生き残れないぞ、と考えました。

カツオマーケットの様子
カツオマーケットの品揃えは臨機応変さまざまな商品がある


──カツオマーケットでも、近所の方々を大切にされているのですね。

ただ商品を売るだけでなく、コミュニケーションを大切にと心がけています。たとえば、手書きのメッセージ付きのお菓子をおまけとしてお渡ししてみたり、近所の方々との何気ない会話もすごく大切にしています。

こういうことが、コロナ前より喜ばれていると感じるんです。日本人は「お店のひと」と一線を引く、という方が多いように思うけれど、今はよく「今日もありがとう!」と声をかけていただきます。お客様とお話しする機会も増えました。一日に3回、お買い物に来てくださるおばあさまもいたんですよ!


──いつもこのマーケットは、にぎわいや楽しさを感じます。

BONITOでも、弊社全体もそうですが、どのスタッフも「元気で、優しく、明るい」ことを大切にしています。そこが受け入れられているのだとしたら、うれしいですね。

カツオマーケットでケーキを手渡すスタッフさん


──岸田さんは、どうしてキープ・ウィルダイニングで働くことになったのですか。

私は四国の出身で、二十歳の頃に上京して、スタイリストの仕事をしていました。だけど、友人がいない、職場のコミュニケーションはない、おまけに忙しくて、コンビニで買って孤食していました。

泣きながらごはんを食べることもたくさんありました、とにかく寂しかったんです。

そんな時、キープ・ウィルダイニングの求人を見つけて、まず写真のひとが輝いていましたね。それで「この仲間に入りたい」と思って23歳の時に入社しました。

カツオマーケットの前に立つ岸田さん
カツオマーケットの前に立つ岸田侑子さん


鳥肌が立つほどいい時間があるんですよ。弊社では「そこまでやる?」というくらい、おもてなしを楽しんでいます。誕生日の方に写真を撮って手渡したり、渡し損ねたら駅まで走って追いかけたり。(笑)

大人の遊びってごはんをいっしょに食べることだと思うんです。
特に今、人と人がリラックスしてコミュニケーションが取れる、繋がりあえる場所が本当に必要だと思っています。
大切なひとと飲食しに来るお客様をもっと楽しませ、喜ばせてさしあげたい。

そういう思いで、今も現場に立っています。



3.カフェ事業部統括料理長の小森二郎(こもり じろう)さん/ゴーストレストランとはなにか

小森二郎さん
小森二郎さん


■ 小森さんはカフェ事業の統括料理長であり、今回、コロナ下で「ゴーストレストラン」である「Eisho`s BURGER(エイショウズ・バーガー)」の立ち上げにかかわりました。


──今日はまずゴーストレストランの試みについて、伺えますか。

小森さん:ゴーストレストランは、コロナ下で勢いのついた事業形態です。お客様がいらっしゃる店舗は持たず、Web上にお店を作ります。Webや電話で予約を受け付けてデリバリーでお届けします。


──なるほど。デリバリーのみのレストランなのですね。

そうです。たとえば、このお店(カフェレストラン 44(ダブルフォー)アパートメント)であれば、名物メニューのひとつにハンバーガーがあります。もちろん、44アパートメント自体はハンバーガー屋ではないのですが、ゴーストレストランとしては「Eisho`s BURGER(エイショウズ・バーガー)」店名で展開しています。キッチンは既存店舗と共有です。

エイショウズバーガー
エイショウズバーガーのケース

ゴーストレストランのメリットとしては、自店舗のブランドにこだわらず、新しいブランドを展開できることが挙げられます。新しいコンセプトを立てて、並行してお店を開くことができます。

お客様も、お店の味をご自宅で楽しめますし、足を運ぶ必要なくオンラインで注文できれば、気楽さもあるかと思います。そういうサービスをご提供したいですね。


──「エイショウズ・バーガー」はどういったコンセプト、背景があって生まれたのでしょうか。

44アパートメントのシェフである英祥(えいしょう)が、昔オーストラリアに移住し、生活していました。向こうの食文化に触れて、トラックで販売するようなストリートフードに精通しているんです。その海外の食文化を日本でも感じてもらいたい!という意気込みで、今回、彼が自分のお店を持つことになりました。

キッチンは共有ですが、別のお店であり、農業で言えば「二毛作」のようなイメージです。今は食のスタイルも変わってきて、外食の代わりに自宅で贅沢したい、というニーズも強いと思います。

ストリートフード
ストリートフードのエッセンスが込められたバーガー


──キープ・ウィルダイニングさんでは、デリバリーを自社でするという方針がありますね。Uber Eatsなどのプラットフォームではなく自社にこだわる理由はなんでしょうか。

弊社ではもともと、料理の美味しさと接客などのサービスを分けないで考えています。つまり、料理が美味しいのは大前提ですが、お客様にリラックスして楽しんでいただけるように、スタッフは気を配ります。その会話、接客の笑顔、お店の空気感といったすべてを揃えたいのです。

それで、デリバリーも「モノ」が届けばよいとは考えず、スタッフが玄関前まで伺って気持ちよくお届けしたい、そこまでが「うちの仕事だ」と考えました。

その時、ダイレクトに反応をもらえることも重要です。そこでの会話から、お客様のご希望やニーズに気づくこともあるからです。

小森二郎さん語る


──飲食業界における、ゴーストレストランやデリバリーの感覚が伝わって来ました。ありがとうございます。ところで、小森さんはどういう経歴で、貴社で働いていらっしゃるのでしょうか。

弊社に入ったのは30歳前後ですね。それまでも飲食にたずさわっていました。なんというか、僕はディティール(細部)にこだわってしまうところがあり、全部自分が納得して自信が持てるものしかお客様には出せない、というような気持ちがありました。それで修行期間も長かったです。

ある時、副社長の保志智洋さんから声をかけられて、弊社に入ったのですが、そこで感じたのは、「ひとを大事にする」というトップの方針でした。

経営者が、業績や数字だけでなく、ひとを見ている。教育に力を入れている。こちらも勉強になりますし、言いたいことも率直に言えて、その環境のなかで成長を実感できました。

名物フレンチトースト
カフェレストラン44アパートメントの名物フレンチトーストルバーブのジャム


──経営の理念が行き渡っているのでしょうか。

はい、ブレないですね。「お客様の幸せ」を大切にするという経営理念がしっかり全社員に伝わっている感じは今もします。アルバイトも、正社員と見分けがつかないくらい同じ方向を向いている、と感じますから。

結局、「なんのためにこの会社で、この職業で、今この接客をしているのか?」がはっきりしていないと、僕ら現場も全力になれない部分が出てくるでしょう。

その経営理念、方針の共有がないと、仮に目先ばかりよい結果が出ても、組織やチームとしてまとまらないと思います。目的があれば、ひとは頑張れますよね。

小森二郎さん笑顔
44アパートメントの屋上席にて

編集後記:今回は、飲食の現場で働く3名の方にお話を伺いました。どの方も、目がきらきらして話す表情に誇りや喜びがありました。働く一人ひとりが大切にされる職場で、はっきり共有された経営理念のもと、裁量や創意工夫の余地がある、そういうところにコロナ禍と戦うヒントもあると感じます。



文/写真:木村洋平
写真提供/協力:株式会社キープ・ウィルダイニング



社長と副社長が経営理念を語った【前編】も併せてご覧ください。


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