エシカルとは?──エシカル消費、社会の仕組み作り、リーダーシップ

2022年の今、「エシカル」とはなにかを「エシカル消費」「サステナブルな社会の仕組み作り」「エシカルなリーダーシップ」の3つの視点から考えてみます。

緑の葉の模様

今、「エシカル」の意味が広がっています。「エシカル消費」だけでなく、たとえば「エシカル就活」もあります。また、サステナブルやSDGsといった言葉との関係も気になります。

この記事では、「エシカル」の意味を3つの視点から確認します。


1.エシカル消費

エシカル消費のはじまり

「エシカル」というカタカナ言葉は、1990年頃にイギリスで始まった「エシカル消費」に由来します。

その頃、イギリスでは「環境や社会、生産者に悪影響を与える商品は買わない。むしろ、よい影響のある商品を買おう」という動きがありました。たとえば、オーガニックの食料品やフェアトレードの衣料や雑貨を優先的に選ぶことです。

この倫理的な購買運動が「エシカル消費(ethical consumption)」と呼ばれ、日本に入った時、「エシカル」という単語になりました。


エシカル、サステナブル、SDGsの関係

ですから、「エシカル」の第一の意味は、エシカル消費をすることです。つまり、世界や社会の課題を考えながら、それを少しでも解決できるような買い物をする。そういう生活者目線の行動です。

それは「エシカルな買い物」ですが、そこから広がって「エシカルな商品」「エシカルなライフスタイル」といった言い方も出てきました。全体として環境や社会、地域などに配慮した暮らしを築くことです。

こうしたエシカルな生活は、めぐりめぐって地球環境や社会、地域の持続可能性を高めます。ので、言い換えれば「サステナブルな製品」「サステナブルな暮らし」となります。この点では、「エシカル≒サステナブル」(ほぼイコール)というわけです。

なお、エシカル消費は、SDGs(持続可能な発展の目標)のなかでは「12. つくる責任、つかう責任」とよく結びつけられます。この「12. つくる責任、つかう責任」は、「大量生産・大量消費・大量廃棄」の流れをやめて、環境や社会に過負荷をかけずに、作って使う生活スタイルを大事にすることです。まさにエシカル消費ですね。


2.サステナブルな社会の仕組み作り

エシカル消費と社会の仕組み

上で見たように、エシカルという言葉は、まずはエシカル消費を指しています。しかし、今では「エシカルな企業」「エシカルなコミュニティ」といった言葉も使われます。

これは、もともとエシカル消費が、「サステナブルな(持続可能な)社会」を念頭に置いていたからです。つまり、エシカル消費は、趣味や楽しみの問題ではなく、最初から社会の仕組みやあり方とつながっていました。

そういった背景があるため、日本語の「エシカル」は、「サステナブルな(持続可能な)社会の仕組み作り」にかかわる場面でも使われます。

たとえば「エシカルな企業」と言えば、サステナビリティ(持続可能性)を意識し、サステナビリティの考え方を事業の本体に組み込んだ企業のことです。


エシカル就活

近年のトレンドである「エシカル就活」は、エシカルでサステナブルな企業に就活することを指す新しい言葉です。新卒一括採用がまだまだ強い日本において、エシカル就活が広がれば、学生側も企業側も大きく変わるきっかけになります。学生の親世代の考えも、変わっていくとよいですね。

きっと学生・企業の両者にとって、SDGsが掲げる目標を達成できるような「サステナブルな社会」に向かって舵を切る動きが、これからも加速するでしょう。

*「エシカル就活」という言葉は、おそらく学生によって初めて使われました。エシカル就活は共感を得て広がりを見せ、今では、株式会社Allesgood(アレスグッド)によってリードされています。

今後は、もしかしたら「エシカルな地域」「エシカル投資」「エシカルな社会」といった表現も増えるかもしれません。その時、「エシカル」はサステナブルな社会の仕組みを作ろうとする動き全般を指すでしょう。


3.エシカルなリーダーシップ

倫理的なリーダーシップの重要性

3つめに「エシカルなリーダーシップ」について、考えてみます。

エシカルなリーダーシップとは、企業や法人はもちろん、地域コミュニティや志を同じくするひとたちを引っ張って、まとめていける力のことです。

エシカルなリーダーシップにおいては、理念やヴィジョンを明確にすること、そして異なる立場に立つひとの意見や立場を理解して、企画や行動に移していくことが鍵になります。(あとでくわしく見ます。)


GAFAから草の根まで

いろいろなレベルで考えてみましょう。たとえば、多国籍企業では21世紀に入り、倫理的なリーダーシップは大きな課題になりました。

かつては、Googleも「邪悪になるな(Don’t be evil.)」を掲げていましたし、Facebookは「世界をよりよい場所にすること(To make the world a better place.)」を企業理念として掲げていました。

このように倫理的であること(エシカル)は、大きな組織が規律を保ちながら発展するために重要です。

しかし、リーダーシップが重要なのは、巨大な企業にかぎりません。ほかにNPOや国際協力で指導的な役割を果たすことも大切です。

また、「民から官へ」(民間が主導してサステナビリティの動きが進み、政府がそれを追いかける)の流れのなかで、民間の声を反映できる政府・官僚・自治体も重要です。

さらに、地域コミュニティや草の根の市民活動、また言論の場において、広く目配りしてヴィジョンや目標を提示できる能力も「エシカルなリーダーシップ」に含まれるでしょう。


コーポレートガバナンスの重要性の高まり

このように幅の広い「エシカルなリーダーシップ」ですが、まずは影響力の大きなところとして、大企業のコーポレートガバナンス(企業統治)の重要性の高まりを見ておきます。

サステナビリティやESGの文脈において、日本ではとくに「ガバナンス(企業統治)」の重要性が説かれます。ガバナンスの重視とは、汚職や腐敗がなく、また従業員をはじめとするステークホルダー(利害関係者)にとって、公平で適切な企業のあり方を目指すことです。

つまり、自社が儲かればよしというのではなく、取引先やサプライチェーンも含めた全体の利益を常に考えていこう、ということです。

これはエシカルな(倫理的な)経営とも言えます。それが、めぐりめぐって自社の持続可能な発展につながるという認識が根底にあります。

近年は世界でも、上場企業のコーポレートガバナンス(企業統治)に対する関心が高まっています。

* 参考:ブラックロックCEOラリー・フィンクのレター2022


リーダーシップについて──国連の中満泉さんの考え

さて、ガバナンスにかぎらないリーダーシップに話を戻します。企業でなくとも、さまざまな社会課題を解決できる組織やプロジェクト、ネットワークを作るための鍵となるのが、エシカルなリーダーシップです。

エシカルなリーダーシップを語るのにも、いろいろな視点があると思いますが、ここでは国連で要職を務めてきた中満泉さんが述べたリーダーシップ論をまとめてみます。

* 出典:BuzzFeed Japan主催イベント「私たちは2021年の日本をどう生きる?」2021年3月6日開催。国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉さんのスピーチ(14:50-15:00)より。以下の文字起こしはライターの責任による。

まず、リーダーの定義ですが、

「リーダーとは、必ずしも政府や大きな組織を指導するひとのことではありません。むしろ、社会の様々な場所(いろいろな組織、コミュニティ、グループ)で、変革のための「行動」をまとめるひとのことだと考えます。」

と述べています。

次に、

「私は、今の時代のリーダーには、4つのことが求められていると思います。

1. 不確実で混沌とした世界だからこそ、しっかりとした歴史観と知力を持ち、未来をどのような世界にしたいのかへのヴィジョンをもつこと。

2. 大変化、パラダイムシフトを恐れず、それを可能にする勇気と決断力を持つこと。これまで通りのやり方でよいはずはありません。新しい考え方をどんどん試していくこと。

3. 多様な意見、異なる考えをプラスと考え、それらに耳を傾ける自信と柔軟さを持ち、ボトムアップを可能にし、社会変革へのプラスの力にできること。これは多様な考え方から、アイデアやヴィジョンを生み出す力とも言えます。

4. 分断が問題になる今だからこそ、真に誠実さや、最も弱い立場にいるひとに心を寄せて共感する力を持ち、他人や地球、自然に対して謙虚さを持つこと。

私はとくに若い女性たちがそういうリーダーになれるのでは、と思っています。」

このように中満泉さんは述べていました。

* 参考:中満泉さんについて(国連広報センター)

筆者はこのスピーチに感銘を受けましたが、こうした考え方を「エシカルなリーダーシップ」と名づけて提示できると思います。


まとめ

このように、「エシカル」という言葉は、はじめに「エシカル消費」を指し、次に「サステナブルな社会の仕組み作り」にかかわることを意味します。そして、3つめに今後とも重要性が高い「エシカルなリーダーシップ」について考えました。

これからの時代は、フリーランス化や兼業・副業が進むなかで、プロジェクト単位の案件や、離合集散するネットワーク、流動的なコミュニティのなかでの仕事が増えると考えられます。

ですから、草の根から国際的な要職に至るまで、私たちの一人ひとりがいつリーダーシップを発揮する機会があるかわかりません。

規模の大小にかかわらず、世界をよりよい方向へ変えられるのは、私たち自身のエシカルな生き方なのです。


文:木村洋平

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