ガーナに暮らす「おせっかい起業家」のにやにやがとまらない!(田口愛さん)

チョコレートを作る田口愛さん

──トレーサビリティが確立されれば、農家さんもやる気が出ますね。


はい。

ところが、そういう風にして、よい出荷をする農家さんに入るお金が増えればよいのか、というとそうでもありません。今、私がやろうとしているのは、「社会主義のところに資本主義を入れるようなこと」です。それによって問題も起こってくると思います。

私はフェアなトレードを目指しており、もちろん中間搾取などはしません。けれど、きちんと還元すると農家さんの報酬にはおそらく6倍ほどの開きが生まれます。稼げる人と稼げない人と。今まであったエコシステムが崩れ、格差が生まれます。今ある「貧しいけれど手を取り合って」がなくなるかもしれません。

だから、私は起業で生まれた利益の多くを現地の「教育と医療」に投資しようと考えています。ガーナには「学校に行けない子供」「働かなくてはいけない子供」がいます。また「マラリアで亡くなってしまうひと」もいます。私はいつも将来が不安でした。ガーナのひとたちといっしょにいるとき、「この笑顔の瞬間がずっと続いてほしい」と思うのに、次にガーナを訪れたときにはマラリアで亡くなってその人はいない、ということがあります。目の前にいても「この人も死んでしまうかも」と思うのです。


──教育と医療は、開発支援の基本にあるものですよね。

でも、「支援の仕方」については思うところがあります。たとえば日本で募金を集め、発展途上国に新しい学校を建てるプロジェクトがあるとします。その企画者は懸命に日本と発展途上国を往復します。それもすばらしい支援だと思いますが、もしその人がいなくなってしまったら、プロジェクトは終わってしまいます。

私は自分がいなくなっても回るシステムを作りたいです。現地のひとに「田口愛はいなくなったけれど、もういなくてもいいよね」と言われるような支援が目標です。そして、「お金でないところの幸せを大切にしたい」という思いもあります。グラミン銀行をご存知ですか?


──マイクロファイナンスですよね。田口さんはバングラデシュにも行かれているとwebで知りました。ただ、バングラデシュとガーナがどうつながるのか不思議でした。

* マイクロファイナンスとは、貧困層に小さな額を貸す金融サービス。バングラデシュでは、社会的な支援のためにグラミン銀行が設立され、マイクロファイナンスの成功例として知られる。

私もガーナでマイクロファイナンスを試みていたんです。「100円ずつ返してね」というような。それで、ノーベル平和賞も受賞したグラミン銀行で働いてみようと思い立ちました。ちょうど1年前、2018年の11月にバングラデシュに行きました。グラミン銀行で働いている人はみんな、自分の仕事を誇りに思っています。私もいい取り組みだなと思いました。

けれど、休日に村のほうへ行ってみると、笑顔がないんです。朝から晩まで働いているようでした。マイクロファイナンスが入ることで、社会が資本主義になります。「前のほうがよかった」という声も聞きました。それで、ムハンマド・ユヌスさんにそのことを伝えました。彼はグラミン銀行の創設者で、ノーベル平和賞を受賞していますが、話す機会が何度かありました。

すると、彼も「お金を貸せば幸せになると思っていたが、必ずしもそうはならなかった」と言っていました。

ガーナは物々交換でも日常生活が成り立つ国です。もっとも病気になったときなどのために、最低限の貯蓄は必要だと思いますが。どういう状態がよいのかは自分とも対話し、ガーナの村のひととも対話しながらこれから探っていきます。