季節や時間で複数の仕事をするマルチワークは、雇用を安定させ働き手の選択肢を増やす新しい働き方です。
マルチワークとは?
現在、時代の変化や価値観の多様化に合わせ、テレワークや在宅勤務、副業や兼業など、働くスタイルも多様化しています。
そんななか、より自分らしく働く方法はないか模索している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これからご説明する「マルチワーク」は、そんな方に向けて参考になるかもしれません。
マルチワークは地方での新しい働き方
マルチワークとは「季節や時間ごとに、農業やサービス業など複数の仕事に従事する働き方」を指します。
たとえば、農業をしながら別の仕事も同時に行う「半農半X」もマルチワークの一つです。
いま、人口減少に悩む地域と、地域で複数の仕事を試したいワーカー、双方のニーズがマッチした結果、制度としてのマルチワークが地方で導入されはじめています。
地方で広がるマルチワークの導入
2020年、「地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業の推進に関する法律」が施行されました。
これを機に、人口の急減に直面する地域で、働き手を求める事業者が集まり、協同組合の形でマルチワークの導入が始まっています。
マルチワーカーは組合*に所属する正職員として、年間を通じていくつかの事業所へ派遣され働くことができます。加盟する事業所は、農業などの一次産業から、ホテルなどのサービス業まで、地域に応じてさまざまな業種があります。
*組合とは共同事業を目的とした、法人資格のない団体です。
<導入地域・自治体例>
・えらぶ島づくり事業協同組合(鹿児島県 沖永良部島)
鹿児島県の離島、沖永良部島の組合です。働く先には、南の島の温かい気候を活かした花卉栽培などの農業、観光・宿泊業などがあります。
・海士町副業協同組合(島根県 海士町)
隠岐諸島のひとつ、中ノ島の海士町で展開する組合。定置網漁などの漁業や、ユネスコ世界ジオパーク認定の自然環境を活かした観光業などが働く先としてあります。
・おぐにマルチワーク事業協同組合(山形県 小国町)
山形県の山間地域にある小国町の組合です。豊かな山の恵みを背景に、半導体部品メーカーや酒屋、水稲栽培をはじめとする農業などの働く先があります。お試し滞在のゲストハウスや空き家入居の補助なども用意されています。
マルチワークによる地域とワーカーのメリット
マルチワークが地方で導入されている背景には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
それは、マルチワークの導入で、年間を通じて安定した雇用が可能になることです。
地方で比重が大きい農業や観光業などは、繁忙期とそれ以外の仕事量に差があるため、安定した雇用の創出が難しい場合が多くあります。
しかし、繁忙期の異なる他業種と組み合わせれば、年間である程度一定量の仕事を確保することができるのです。
このように安定した雇用を生み出せば、UターンやIターンなど移住希望者の定着につながり、地域の存続にもつながります。
一方でマルチワーカーの視点で見ると、別のメリットもあります。それは、特定の地域内ではありますが、組合の正職員として各事業所へ派遣されるなかで、幅広いキャリアを積んだり、興味のある複数の仕事への挑戦が可能になることです。
地域に魅力を感じている方にとっては、さまざまな視点で地域を見ることができるため、新しい発見があるかもしれません。また、多様な仕事を通じて、自分の可能性を模索することもできるでしょう。
ただ、過疎地域の生活環境の不便さや、地域や各事業者による受け入れ体制の違いへの懸念、まだ始まったばかりの制度であることなど、いくつかのデメリットも考慮する必要があるでしょう。
まとめ:生きる選択肢を増やすマルチワーク
働き手不足に悩む人口減少地域の需要から生まれたマルチワーク。地域の担い手不足の解消、移住者の定着といった地域にとってのメリットが大きいだけではありません。ワーカーにとっても、多様な仕事経験ができるという魅力があります。
それは、自分らしく働きたい方や、今後の人生の選択肢を広げることにつながるかもしれません。
実際にこのような働き方をしなくても、「こんな働き方も可能なんだ」と知るだけで、自分の可能性が一つ広がるのではないでしょうか。
多様な働き方、生き方ができる今、自分らしい生き方の一つの指針になれば幸いです。
* 参考:総務省HP 特定地域作り事業協同組合制度
文:有馬里実
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