エシカルな投資信託を事業にするコモンズ投信の馬越さんに、これまでの経歴と大切だと考えていることを伺います。
取材日:2022年5月19日
馬越裕子(うまごえ ゆうこ)さんは現在、コモンズ投信で「社会とのかかわり(ソーシャル・エンゲージメント)」を担当しています。
コモンズ投信はエシカルな投資信託を手がけるほか、社会起業家フォーラムやこどもトラストセミナーを開催しています。
これらのイベントやセミナーで最前線に立つ馬越さんは、これまでどんな経歴を辿ってきたのでしょうか。そして、馬越さんが大切だと考えていることとは。(前編はこちら)
──インタビュアー(木村):馬越さんはどんな経歴をたどられたのでしょうか。
新卒で就職したのはテレビ業界でした。環境問題を扱う仕事が多く、世界を飛び回りました。
ただ、現場仕事がハードな状況に育児も重なり、いったん仕事を離れようと決意しました。
その後、専業主婦をしながら自然豊かな幼稚園で子育てをしました。この時期の縁がのちにコモンズ投信を創業する渋澤健につながり、今の仕事に至っています。
──テレビ業界は長かったのですか。
約10年、勤めました。リオサミットの後でしたので、環境をテーマに多くの資金が番組制作に使われている時代でした。ドキュメンタリー制作志望であった私は、新人の時から偶然にも、環境番組を担当することになります。
番組制作を通して様々な環境問題に出会いましたが、その時、結局は「ひとの活動=経済」が原因で環境問題も起きている、ということに直面しました。
*リオサミットは、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた国際会議(「国連環境開発会議」)。気候変動も大きなテーマとなり、今日のサステナビリティの原点の一つとなっている。
解説記事:「国連環境開発会議(地球サミット)」(Sustainable Japanより)
──その後、専業主婦として子育てをされたのですね。
専業主婦は3年間でした。子供たちの発育についてはっきりした哲学のある幼稚園に子供を通わせました。子供たちの主体性を最大限尊重し育てる教育に、親である私も鍛えられました(笑)。
そこでのママ友たちとの出会いも、仕事ばかりしていた私に、暮らしを豊かにする気づきを多く与えてくれる貴重なものでした。今でもあの時代は、私にとって最高のキャリアの一つだと思っています。
この頃のママ友の縁が後にコモンズ投信を立ち上げた渋澤健(現会長)とつながり、創業当初はコールセンターのアルバイトとして関わりました。その後、社会起業家支援の広報に移り、今に至ります。
──人生で転機となった出来事はあるでしょうか。
高校生の時、ブラジルのサンパウロに留学したことです。ドイツ系やポルトガル系、イタリア系、日系の家庭に数ヶ月ごとにホームステイをし、現地校に通いました。
貧富の格差が大きい社会ですから、日本とは異なるその状況に最初はショックを受け、そのことを受け入れることは簡単なことではありませんでした。それこそ、私の中の価値観がぐらぐらと一回ひっくり返るような経験でした。しかし、1年暮らしていくと、文化も自然も多様で豊かなその国に最後はすっかり魅了されていました。
同時に、家族間友人同士に起きること、起きる感情には、地球の反対側でも普遍的なものがあることも経験的に理解することができました。
帰国後、私はこの地球の反対側で見てきたことを「みんなに伝えたい!!」と思いました。しかし、Jリーグなども始まる前のことで、ブラジルは日本にとって感覚的にもとても「遠い国」だったようです。周りの人には興味を持ってもらえませんでした(笑)。
この頃から、「人に伝える」ことが自分のミッションだと考えてきました。
誰でも、新しい言葉や風景が入ってくる時、足踏みして進めないでいたところからふっと前に進めたという経験があるのではないでしょうか。「心の風通しがよくなる」という感覚です。
そういう「新しい風を吹かせられたら」という思いで、テレビ業界に行きました。今の仕事も同じ思いでしています。
──今後の展望や今、お持ちのヴィジョンについて伺えますか。
「優しい風がふっと入っていくお手伝い」をして行きたいですね。形にはこだわらずに。
私は、ギスギスしているのが嫌いなのです(笑)。
でも、昨今は、身構えてしまう人も多い印象があります。それが反射的になのか、緊張からなのかはわかりませんが…もっと「ふわっと」していてもよいのじゃないかなと(笑)。
ディスカッション(議論)でも、どこかに優しさが残る方が好きですね。体裁の話ではなく、奥底に優しさが感じられるような。
本来、「私たちは、もっと人が人の中で育てられていく場を大事にしていかなければいけない」と思うのですが、世の中で優しさや思いやりの優先順位が下がっているかもしれない、とも感じます。
少しでも、「優しい風が吹き込む」ような瞬間や場を作って行きたいと思います。
前編はこちらです。
取材/写真/文:木村洋平
画像提供:馬越裕子
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