世界一顔が見えて温度感のある本屋さん(松尾翠さん)

本屋 SENSE OF WONDERを立ち上げて活動の幅を広げる松尾翠さんに、起業のきっかけと経緯、今抱いている思いを伺いました。

取材日:2021年12月12日

元フジテレビアナウンサーで、京都に移って自然のなかに暮らす松尾翠さん。本屋 SENSE OF WONDER(センス・オブ・ワンダー)を立ち上げて、本の販売、朗読、逆境の子どもたちに本を届け、夢を応援するクラウドファンディングの応援などをされています。


世界一顔が見えて温度感のある本屋さん


インタビュアー(木村):「本屋 SENSE OF WONDER」とはどのようなご活動ですか。

松尾翠さん:実際にECサイトで本を売る本屋でもあり、イベントや企画を作るプロジェクトチームでもあります。

コンセプトは「本からつながる」を大切にすることです。


──本屋としては、新刊書店よりもセレクトショップ型に近いですね。

はい。私がおすすめしたい本を渾身のレビューとともに「今月のおすすめ本」として紹介・販売しています。

SENSE OF WONDERのオンラインショップには月のはじめ10日間ほどに、10冊~15冊ほどの本が並びます。その期間で受注し、注文数が確定した後、私たちが発注をかけます。

それから届くので時間がかかるんです。その「ゆっくりと本が届く」プロセスも、楽しんでいただけたらと思っています。なんでも速いのがよい、という世の中で、本を待つ時間も大切に考えているからです。

「蔵書票」もご購入いただくことができます。蔵書票には私から一言、メッセージを入れます。私は「言葉」も好きなので、そのときにピンとくる「言葉」を添えて、お届けしています

また、作家さんに一冊一冊サインをお願いしたこともあります。

想いのこもった、あたたかい本をお届けしたいです。

「世界一顔が見えて温度感のある本屋さん」になりたいといつも思っています。


新しいスタートを自分に許す

──どのようにして、SENSE OF WONDERの活動に至ったのですか。

私は生まれも育ちも首都圏でした。フジテレビで働いていましたから、就職してからも都内です。その後、結婚を機に京都に土地を変える決意をしました。

それでフジテレビを退職し、京都に移りました。環境が大きく変わり、自然が身近な場所で、ゆっくりと流れる時間を味わいました。

京都に来て初めにびっくりしたのは夜が暗いこと。東京近郊とまったくちがって、真っ暗でした。

緑のなかで呼吸し、雨や花をじっくりと感じる日々が始まりました。私にとって、幼少期以来のことです。


──自然に触れる時間を持つことは大切ですよね。

本当にそうです。

それから9年が経ち、3人の子供を授かりました。1,3,7歳の子供を育てています。

子育てを通しても、そして大人である自分も、いつも「世界の不思議に目をみはる感覚」(センス・オブ・ワンダー)を大切に味わいたいと思っています。

そして本の世界にも、本を書いた人、編集した人、読み手、想いの数だけSENSE OF WONDER(センス・オブ・ワンダー)があふれていますよね。

私はもともと本が好きで、本のパワーを信じています。そんな素敵で、大好きで、パワフルな本を皆様に届けられること、想いを共有できることがすごく幸せです。

「本を通して世界と出会う」「本を通して自分と出会う」そんな場所を創りたいと、2021年の初めにスタートさせたのが「本屋 SENSE OF WONDER」でした。


声で伝える、本の世界に入る

──本を売るほかに、読み聞かせのお仕事もされていますね。

現在はポプラ社の「のびのび読みアンバサダー」に就任させてもらっていて、イベント等で朗読する場面もあります。

もともと京都に来てから、自主的に朗読イベントを始めていました。場所を借りて、45分くらいの間、100人の子供を相手に本を読む、というような形です。

ほかの主催団体に呼ばれて朗読することもありました。


──自主的に主催をしていたのですね。どういうところに朗読の魅力がありますか。

一つは声を出すことでしょうか。私は「声は楽器だ」と思うのです。音楽のように、愛を伝えることができる。セラピーにもなりますね。

もう一つ、本を開けば、いつでもどの時代や場所にも飛んでいけるのも大きな魅力です。子供たちといっしょに、絵本の世界に入っていけますね。


「ソマリアに図書館を建てる」プロジェクト

──「ソマリアに図書館を建てる」クラウドファンディングを動かしていらっしゃいますね。かかわったきっかけはなんでしたか。

「1冊の本から新たな夢や希望のきっかけを!ソマリアの刑務所に 「夢の図書館」を!」

このプロジェクトを企画したWORLD DREAM SCHOOL学長の高橋歩さんから、「最近、面白いやつに会った」と紹介されたのが永井陽右さんでした。

永井さんはNPO法人アクセプト・インターナショナルの代表です。彼は大学生の頃から10年間、「比類なき人類の悲劇」と言われながらも世界中から取り残されたソマリアに関わり続け、元戦闘員の脱過激化・社会復帰をサポートされています。

今回、アクセプト・インターナショナルの活動拠点のひとつ、モガディシュの刑務所内にいる若者達への学びの機会を考えると共に、本を置くことの必要性が話に上がりました。

「学びたい」「本を読みたい」という声が実際に若者たちの間から出ているという事実も、このプロジェクトスタートの大きな後押しとなっています。

Wi-Fi環境のない場所だからこそ、本から得られる世界はますます有益だと思います。

私は本屋として、その希望を持つ人々に本を届けたい、彼らの夢を応援したいと考えました。それが今回のクラウドファンディングに関わったきっかけです。

逆境にある子供・若者たちにも、外にある広い世界や美しい世界のことを伝えられたらと願っています。このプロジェクトが、彼ら・彼女らの人生が好転するきっかけになるかもしれません。


子供の心と平和な世界

──SENSE OF WONDERが思い描く未来はどんなものでしょうか。

私たちはみんな、「子供の心」や「ピュアハート」を持っていると思うのですが、それは社会のなかで大人としてやっていこうとすると、抑えなきゃならない場面も多いです。

精神的に武装するじゃないけれど……抑えますね。でも、これからは「そういう心の武器や鎧を解除していけたらいいよね」という方向へ踏み出すひとが増えるように思っています。

私にとっては、毎日がスタートで毎日がゴール。日々、心のふれあいがあります。仲間と、家族と、お客様と。だから、「未来」というより、一日一日をそうして生きていくことが本屋 SENSE OF WONDERのあり方でしょうか。

これからも本を通して、言葉を通して、世界に向かって役に立てる力を自分のなかに育んでいきたいと思っている。そういう、いわば筋力をつけていきたい。それが世界平和につながる力だと思います。


取材/文:木村洋平
写真提供:SENSE OF WONDER


松尾翠さんおすすめの5冊

『そりゃあもういい日だったよ』荒井良二、小学館、2016
『世界は贈与でできている』近内悠太、NewsPicksパブリッシング、2020
『子供の本で平和をつくるーイエラ・レップマンのめざしたことー』キャシー・スティンソン作、マリー・ラフランス絵、さくまゆみこ訳、小学館、2021
『僕らはソマリアギャングと夢を語る』永井陽右、英治出版、2016
『結婚のずっと前』坂之上洋子 文、野寺治孝 写真、二見書房、2011


松尾翠さんが支援するクラウドファンディング

「1冊の本から新たな夢や希望のきっかけを!ソマリアの刑務所に 「夢の図書館」を!」


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