「エシカルな企業」「サステナブルな事業」「ESG経営/ESG投資」といった言葉をよく見かけるようになりました。これらのキーワードを、「なんだかピンと来ない…」ひとにもわかりやすく解説します。
日本で急にトレンドになった「SDGs」や「ESG」
この1,2年、日本では「SDGs」という言葉が急速に普及しました。さらに、SDGsに似た言葉として「エシカル」「サステナブル」「ESG」といった言葉もトレンドになっています。関連して「CSR」も見かけます。
「サステナブル」というワードの検索数はこの1年(2020年6月〜2021年5月)で約3倍になっています。「ESG」は3〜4倍に増えています。
このトレンドを追いかけて、これらの言葉が提起している問題をストーリーで紹介してみます。
SDGsやサステナブルとはなにか? それは本当に重要なのか?
これから、「サステナブル」「SDGs」といった言葉の背景にある考え方や問題意識を、おおまかなストーリーとして解説します。
* なお、各用語ひとつずつの解説はこちら、別の記事にまとめています。
おおまかなストーリーを押さえるポイントは、次の2つです。
1.「SDGs」や「サステナブル」が問題にしているのはどういうこと?
2.それらのキーワードは一時的なトレンドではないのか? 本当に重要なのか?
まず、かんたんに答えると、
1.これらの言葉が問題にしているのは、私たちの生活と仕事が、今後も安定的に続くためには「社会」や「環境」のあり方に全面的に配慮しないといけない、ということです。
2.そして、世界的に見ても日本を見ても、これらのキーワードはメガトレンド(大きな流れ)であり、今後も重要であり続けるでしょう。
もし、この問題提起を無視すれば、世界でも日本でも経済活動を続けられなくなるほど、これは決定的なことがらです。企業は、サステナビリティなしでは中長期的には事業が立ち行かなくなると考えられています。
なぜ、社会や環境に配慮しなければならないのか?
では、エシカル、サステナブル(サステナビリティ)、SDGs、ESG…これらのキーワードが出てきた背景を説明します。ここではキーワードの区別をあえてつけずに、まとめて説明します。
どの言葉も、問題にしているのは「今のように社会や環境に負荷をかける仕方で、経済成長を目指していると、世界の経済活動自体が止まってしまう」ということです。
なぜなら、気候変動をはじめとする「環境」の変化は、人類が生存するのも難しくなるほど地球環境を大きく変えてしまっている、ということと、グローバル化した「社会」が安定的に保たれないと、そもそも経済活動が停滞するか、大きなダメージを負うからです。
これらの「環境」や「社会」は、「地球環境や国際社会」というグローバルなレベルから、「取引先のコーヒー農園、どこどこにある森林」といったローカルなレベルまで、すべてを含んでいます。
ここから、環境と社会に分けて説明します。
環境の危機について
まず環境についてです。おおざっぱに言えば、気候変動で異常気象がよく起こるようになると、世界中のあちこちで、農場のある町や工場のある沿岸地域が、温暖化の影響で水没するかもしれません。
また、たとえば災害保険のリスクが大きくなりすぎて、世界の保険が機能しなくなるかもしれません。保険がかけられなければ、企業はリスク管理ができず、経済活動が止まります。
こういったことが環境の話です。
社会の危機について
次に社会について言えば、これまでのように、
「先進国が途上国の労働力を安く使って、途上国の社会や地域の人間関係を破壊することで、利益を上げる」
「先進国の中では、大都市(たとえば東京)が、地方(たとえば原発事故のあった福島と東北、または水俣病のあった九州など)を犠牲にして繁栄する」
というモデルは、もう通用しない、ということです。それは持続可能(=サステナブル)ではありません。
こういう資本主義のやり方は、結局、全体としての人間社会をいためつけることで成り立ち、それが作る不平等のうえで、ごく一部の人々が繁栄するモデルだからです。
したがって、この「社会」の話には「人権」の問題もかかわりますし、「格差是正」の問題もかかわります。当然、「ジェンダーギャップ」(男女格差)や「ダイバーシティ」(人種、LGBTQその他にかかわる多様性)も重要な問題になってきます。
こういったことが社会の話です。
サステナブルやSDGsは一時的なトレンドなのか?
これら、自然環境の豊かさや社会のつながりを、これ以上壊していく「繁栄」モデルはもう続かない、だから転換が必要だと世界中で声が上がっています。
ここで疑問が湧くかもしれません。
「でも、それは一部の環境保護団体や、変わった思想のひとたちが言っているのではないの? 10年20年続くメガトレンドだと言えるの? 飽きたらやめるのではないの?」
ところが、そうではありません。
言ってしまえば、20世紀の間に一番「社会と環境を破壊することで繁栄してきた」多国籍企業や機関投資家、先進国の政府が「サステナビリティ」へ転換しました。
「もうサステナブル(持続可能)でない事業などできない。誰からも支持されない」
「社会と環境への配慮は、慈善事業でも寄付でもなく、事業の中核に組み込んで経営を考えるべきだ」
と、彼らは積極的に言い始めています。
これは本当に信じてそう言っているのです。もちろん、実際には社会と環境に「100%の完璧な」配慮ができるわけではありません。細部では常にバランスを取り続ける必要があります。
しかし、根本的な方向性は「SDGs」や「サステナブル」です。というのも、それだけ地球環境や社会の不平等は、限界を迎えているからです。
サステナビリティの大きな流れ
驚かれる読者の方もいるかもしれませんが、実は世界ではもうすでに10年以上、サステナビリティ(持続可能性)が重視されてきています。他方、日本では政府・経済界・ジャーナリズムと学者たちの反応が遅すぎたので、ここ1,2年で急に「SDGsのブームが起きた」だけのように見えてしまいます。
しかし、世界では、たとえばApple社は2010年代の前半に「サステナビリティ」へ舵を切っています。スターバックス社はゼロ年代には取引先や農家さんを含めて、持続可能なシステムを作り始めていました。
これらは特殊な例ではありません。ヨーロッパに本拠を置く大企業(ネスレやユニリーバなど)も、さらに金融業界もこのメガトレンド(大きな流れ)に乗っています。
企業の後ろにいるのは、巨額なお金を動かす投資家(機関投資家)ですが、投資家もまた、リーマンショック(2008年)のあたりで懲りて、「お金をたくさん稼いで、自分たちが得をすればいい」モデルが、社会に対して破壊的にはたらき、結局は長期的な利益を見込めなくしてしまうと気づいています。
だから、今では世界の多国籍企業、巨大な機関投資家、それに北欧やEU、アメリカの政府が、相互に協力して、「持続可能な環境と社会」を目指しています。(トランプ元大統領は、サステナビリティに疎かったのですが、それは例外でした。)
* 付け加えると、世界でも中小の企業や個人投資家、ローカルな産業では、まだまだサステナビリティが浸透していないところも多くあるでしょう。日本でも大企業や海外との取引が多い企業からサステナビリティに取り掛かっています。
まとめ
このように、環境と社会に対して「持続させる」という意識のない経済活動はもう続かない、というのが世界の共通認識になってきています。
今は、そういう認識を広めること、その細部を詰めること、なにより「サステナビリティ」や「SDGs」を実際の事業や社会のシステム作りにどう反映させるか、という課題に取り組んでいる段階です。
身近な例を出せば、中小企業の経営者が「SDGsは放置しよう。目の前のことで精一杯だ」と思っていれば、その企業は10年以内に立ち行かなくなるかもしれません。外資に買収されることもありえます。その時、勤めていたひともサステナビリティに無関心であれば、転職や再就職をするのに困るでしょう。
このように、エシカル、サステナビリティ、SDGs、ESGは私たち一人ひとりの未来にかかわることですし、それは遠い未来ではないです。若い世代や子供世代の幸福に直結する話でもあります。
少し長期的な視野をもって、「じゃあ、エシカル、サステナビリティ、SDGs、ESGを学んで、自分はどうしていこうか?」と考え始めることが未来を築く一歩になると思います。
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文:木村洋平
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