パールの持つエシカルな輝き──伊勢志摩からの便り

パール(真珠)はエシカルなジュエリーです。この記事の筆者は三重県に住んでいますが、三重には「MIKIMOTO」という世界に誇るジュエリーブランドもあります。今回は三重という地域の魅力も交えて、パールの歴史や持続可能な養殖の方法を紹介します。

アコヤ貝のパール真珠ヤシマ真珠より
アコヤ貝のパール真珠


パールというとどのようなイメージを持たれるでしょうか?筆者は、冠婚葬祭の場に使う高級ジュエリーで、非日常的なものというイメージがありました。しかし、パールは日常使いもできるジュエリーです。最近では「メンズパール」という言葉も聞きます。スーツやカジュアルに合わせるパールは、男性を引き立てます。

また、ひとくちに「パール」と言っても、アコヤパール、淡水パールなど様々な種類がありますが、今日はアコヤ貝が作り出す「アコヤパール」をエシカルという視点からお話ししたいと思います。


パール(真珠)の歴史

まずは、パールそのものの歴史からはじめましょう。世界史をふりかえると、パールは何よりもジュエリーとして愛されてきました。その美しさで、古代エジプト文明の頃から多くの人を魅了し、「最古の宝石」とも呼ばれています。

パールはジュエリーとして愛されてきた


しかし、日本では真珠の用途ははじめ、ジュエリーではなく薬でした。これは意外に思われるかもしれません。実は江戸時代、真珠は「漢方薬」として用いられていたのです。昔の中国の書物に、真珠を粉にして漢方薬として使えば心を静める、肌に潤いを与えるという効果が書かれていたそうです。真珠がお薬だったなんて驚きですよね。


輸出用のパールが日本で乱獲される

その後、明治時代に入り、欧米との貿易が本格化した時、パールは海外でジュエリーとして需要が高かったため、日本でも輸出するためにアコヤ貝の乱獲が各地で起きました。この乱獲が激しかったのは、養殖技術がなかったからです。

アコヤ貝パールをとるために乱獲される
アコヤ貝


というのも、天然のアコヤパールというのは、偶然、アコヤ貝の中に異物が入り込み、それが「核」となり真珠層が形成されてできますが、異物が入りこむということはめったに起こりません。ふつうアコヤパールは直径4ミリ以上でジュエリーとして使用されますが、これは天然のアコヤ貝で探せば、1万個に1〜2個くらいの割合でしか見つからない、非常に希少なものなのです。


三重県の伊勢志摩でパールの養殖がはじまる

アコヤ貝の生息地であった三重県の伊勢志摩の海でも乱獲が起こりました。伊勢志摩のアコヤ貝は絶滅寸前にまでなりました。そんな状況の中、三重県に発祥した企業 MIKIMOTO の創業者 御木本幸吉氏がなんとかアコヤ貝を守りたいという想いから養殖技術の研究を始め、1907年(明治40年)、養殖技術を確立しました。

その養殖技術は、簡単に言うと、アコヤ貝に人工的に「核」を入れ、その核の周りを覆う真珠層を成長させていくというものです。「核」を人為的にアコヤ貝に入れるか、たまたま入るか、その違いが養殖か天然かの違いというわけです。

アコヤ貝に人工的に核を入れる作業をしている
アコヤ貝に人工的に核を入れる作業


人工的に核を入れたアコヤ貝は、海中で自然に増えた植物プランクトンを食べ育っていき、パールが形成されます。この点、養殖であっても特別に餌をあげたり、手を加えたりはしません。ただ自然にアコヤ貝の中でパールが育っていくことに寄り添い、見守り続けていくというのがパールの養殖なのです。

また、アコヤ貝に関しても、養殖に適した貝を親とし、水槽の中で貝の赤ちゃんの貝を作り育て、養殖に用いるため、天然のアコヤ貝資源を搾取することがありません。この養殖技術は確立された明治時代当時からほとんど変わることなく、現代まで受け継がれています。こうした「自然」に寄り添い、天然の状態に近い形で養殖されるパールはとても「エシカルなジュエリー」と考えられます。

HARIOとコラボレーションしたヤシマ真珠の商品


パールとほかのジュエリーとの比較

一般にジュエリーの多くは天然の鉱物です。それは何千年、何万年という長い時間をかけ地球の内部で作られてきたものです。ですから、採掘すればするほど資源は減る一方となります。つまり、単純に考えれば、持続可能とは言いづらい、枯渇してしまう資源に頼っています。

その点、パールは養殖により持続可能に生産できますし、天然資源を減らし続けることはありません。自然にやさしい、環境にやさしいジュエリーといえるでしょう。


さらなる持続可能な養殖への挑戦

そして、現在、パールを取り出した後のアコヤ貝の有効活用の研究も始まりました。これまで、貝殻や貝肉部分などは活用方法がなく、多くは海に廃棄されてきましたが、それらを堆肥として利用するための研究です。これが実現することで、パールの養殖はより持続可能(サステナブル)な産業になるため、期待が寄せられています。

伊勢志摩の英虞湾リアス式海岸として有名
伊勢志摩の英虞湾リアス式海岸として有名


まとめ

パール(真珠)は今、サステナブルでありつつジェンダーレスなジュエリーといえます。100年以上前、世界に先駆けて真珠養殖を成功させた三重県のMIKIMOTOに始まり、現代も社会の課題に応え続けています。

フォーマルにもカジュアルにもその人の持つ美しさを高めてくれるアイテムとして、ぜひ冠婚葬祭で身に着けるだけでなく、パールを日常に取り入れて、エシカルなファッションアイテムとして楽しんでみてはいかがでしょうか?


文:安原智子、山本麻加
写真提供:有限会社ヤシマ真珠


* 参考:ミキモト真珠島ホームページ 真珠島の歴史
* 協力:ヤシマ真珠(ヤシマ真珠 | 伊勢の真珠デザイン・販売)


ライタープロフィール

安原智子
NPO法人Mブリッジエシカル推進チーム統括マネージャー。2012年に三重県でエシカル推進を行うチームを発足。現在、食品ロス削減に向けた商品開発、オンラインのエシカル講座開設と実施、三重のエシカル商品レビュー会の実施、エシカルに関する講師を行っている。また、これまでに観光ガイドブック・地域情報誌などのライティングと編集を手掛ける。


山本麻加
NPO法人Mブリッジエシカル推進チーム。三重県出身、現在も三重県在住。2020年よりエシカルな事業に関わり、三重県内のエシカルな企業と主婦を橋渡しする事業「オンラインエシカルレビュー会」のナビゲーターを務める。

山本さん左と安原さん右

NPO法人Mブリッジ:三重県松阪市を拠点に地域活性化に取り組む。その中で、地域性というローカルな視点 × エシカルを行っていのがエシカル推進チーム。三重県人の心に根付いている神様や自然、他者など、自分以外のあらゆる存在から頂いた恩恵に感謝する “おかげさま・いただきます・ごちそうさま” の心 = エシカルと考え、地域に根付くエシカルを伝え広げたいと活動を行っている。

NPO法人Mブリッジのホームページ:Miethical – ミエシカル


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