武相エリアでひとを輝かせる経営者の根っこにあるもの──情熱と恩返し(保志真人さん)

考える保志真人さん


──新しいお店でも、やはりお客様をすごく大事にされたのですか。

何軒かの居酒屋を始めたのですが、どこも2等立地、3等立地でした。だから、来てくれたお客様にリピートしてもらわないといけない。

それもあって、お客様に喜んでもらうことを大切にしていましたね。それが自然とサービスをよくすることにつながったんだと思います。

だから、「食」で勝負するという同業者たちとはだいぶちがったかもしれません。

あの頃、お客様には「美味しかった」より「楽しかったと言われることが多かったと思います。お客様の誕生日に、スタッフとダンスをして祝ったこともあります。

その前日は夜中まで振り付けの練習をしていて、僕はスタッフに怒鳴っていました。「そこの動きがちがう!」と。

いまから考えると、なにをやっているのかという感じですよね(笑)。

ほかにも、自分たちで屋台を作ってお店のなかに入れてしまったり、「愛の小部屋」というピンク色に塗られたカップル用のスペースを店内に作ったりしました。

サプライズも含めて、アイデアを出し合って、お客様に「楽しんでいただく」ことをすごく大事にしていました。我々はエンターテイメント的なんでしょうね。


──仕事のなかで一番大事にされていることはなんですか。

ひと言で言うなら「情熱」です。気持ちを入れてやるということですね。

お店ってかんたんにダメになるんですよ。生き物みたいなところがあって、すぐに雰囲気が悪くなる。うちの系列店舗でも「いいお店」と「わるいお店」の状態はすぐに変わります。

そこに手を入れるのは、植物に水をやるのに似ていて、水をやらなくてもダメだけど、やりすぎてもダメです。そのなかで、平均的によい状態を保つことを目指しています。


──保志さんは、武相エリアのライフスタイルを「グッドライフ(GOOD LIFE)」と名づけています。都心の「アーバンライフ」や湘南・鎌倉の「スローライフ」と並ぶような街のあり方を提案されていますね。「グッドライフ」とは、「自由」と「寛容さ」のあるこの土地で「自分らしく」生きることでしょうか。

そうですね。

住む人が無理をしたり、お金のためにやりたくないことをしたり、という風であってほしくないなと。そうじゃなくて、本心でやりたいことができる街だといいなと思ったんです。

うちの古参のメンバー(創業期から仕事をしている仲間)に司法試験の浪人をしていた男がいて、彼は尊敬する先生からこう言われたんですよ。「東大を出て花屋になるのはかえって難しい」と。

ものの喩えですが、学歴やキャリアがあると選択肢が多すぎて、かえって好きなことに挑戦できなくなってしまうという意味でしょう。

彼は、周りからも「おまえ、なんで焼き鳥屋なの?」と何度も言われていました。「給料いいの?」「いや」「休みが多いの?」「いや」って(笑)。

でも、自分の「心が動くこと」をするのが一番ハッピーじゃないかと思います。

この武相エリアはもともと、自分らしく生きているひとが多いという印象があります。

オタク文化もあれば、ロックをやっているひともいる。そこに、グッドライフという「旗」をしっかり立てることで、街のひとたちが自分のやっていることに誇りをもてるようになったらうれしい。

「武相と言えば『自由』や『自分らしく』だよな」というように。

たとえば、鎌倉に住んでいる、湘南に住んでいるというとなんとなくイメージが湧くじゃないですか。

吉祥寺や下北沢も。同じように、町田や武相というときに「ああ、あのひとは自分らしく生きているひとか」と思われるようになったらいいなと。まだその象徴が足りていないと思います。