──石田さんのピラティス講座を受講すると、赤ちゃんの動きの真似をさせられるのですよね。
はい。「よくわからない動作」だと思われるかもしれませんが(笑)、
赤ちゃんの動きは人間の原始的な動きなんです。
赤ちゃんが寝た姿勢から、腕を振り、起き上がり、はいはいをする一連の流れを真似てみると、体が調整されます。
ふだんやらない動作だからこそ入る刺激があるんですね。その刺激によって大脳皮質も活性化されます。
──大脳皮質は「体のメンテナンス」と関係しているのでしょうか。
大脳皮質は、呼吸をする、姿勢をコントロールする、痛みの感覚をもつ、体をリラックスさせるなどの働きと深くかかわります。
だから大脳皮質を活性化できていないひとは、緊張しっぱなしになりやすいんです。気張りっぱなしと言いますか。いつオフにするんですか!(笑)というひとが多くいます。
世のサラリーマンの方々を見ていても……。
オフの(休まった)状態にならないと、過呼吸になったり、痛みの感覚を抑制しづらくなったりします。
──「過呼吸」というと、苦しくなる発作が起き、紙袋を口に当てて収めるような状態でしょうか。
正確には、(そこまではいかない)「過呼吸予備軍」が多いと思います。発作は起こさないものの、という。肩が上がりやすいひと、口呼吸をしてしまうひとは要注意です。
かといって「深呼吸」をしようと意識すると、かえって吸いすぎてしまい、よくないケースもあります。
酸素と二酸化炭素は体内での適正なバランスがあります。
しかし「深呼吸」によって酸素を吸いすぎると、二酸化炭素濃度が血中で低下します。
脳に適正量の二酸化炭素がないと、本来は酸素を脳に運ぶヘモグロビンが酸素を脳まで運んで行っても脳に渡さなくなります。
だから、脳に酸素が供給されない。すぐそこまで来ているのに!です。
その結果、「浅く速い呼吸」になってしまうひとが多くいます。これは悪循環で、さらに酸素を吸ってしまうから、二酸化炭素濃度が低下してしまいます。
──自分が「過呼吸」気味になっているかどうか、自覚する方法はあるのでしょうか。
姿勢からもわかります。反り腰のひとは、呼吸のときに横隔膜を使えないので、胸式呼吸になっています。
肩が上がりますね。また、過呼吸だと肩が凝ります。一日のうちにひとが何回呼吸をしているかというと、23000回程度だそうです。
それを全部、胸式呼吸でして一回一回肩を上げていたら、肩がこわれてしまいます(笑)。
──「胸式呼吸」でないとしたら、やはり「腹式呼吸」をするべきですか。
そうですね。だけど「腹式呼吸が大事」と言葉で伝えても、なかなかできないひとが多いですよ。正しいエクササイズをする必要があります。
──「正しいエクササイズ」はやはり専門家に診てもらわないと難しいでしょうか。
自分で始められることもあります。
さきほど、18種類の動き(表)をお見せしましたが、腰や肩を痛めるひとは動きの種類が少ないです。おじいちゃん、おばあちゃんでも登山をしたり、畑を耕したりしているひとは元気で、腰を痛めづらい。
一方、20代でもオフィスワークが中心で慢性的に肩が凝っているひとをたくさん診ています。年齢は関係ないんですよ。動かすか動かさないかだから。運動は、楽しくやれる範囲でやってほしいと思います。
ウォーキングでよいのです。速く歩く必要もありません。むしろ、ゆっくり大きく動くといいですね。骨や靭帯にも刺激が入りますから。
楽しさやエンターテインメント要素もあるとよいですね。
ニンテンドースイッチの「リングフィットアドベンチャー」( 物理的なリングを使って遊ぶソフト)はすごいですよ!あれはゲームだけど、ピラティスをしているようなもの。
実際に「ピラティスリング」という運動用具がありますが、ほとんど同じです。
遊んでいて、気がついたら運動になっていたり、ピラティスができていたりします。任天堂はすごい、いいもの作るなあと思いました。
──石田さんがお勧めされる運動は、柔軟な考え方に基づいていると感じます。
運動によって脳に「よい刺激」を与えることが大切です。柔軟性をもたせる時も、肋骨を動かす、横隔膜を意識するなど、ふだん刺激を与えづらいところに注目します。
体のメンテナンスについては、もやもやとしてはっきり言えない部分はありますが、バックグラウンドでは脳についての理論を考えています。
正しい呼吸も、身につくと体や脳によい刺激が入ります。私が診たり施術したりする時には、大脳皮質や呼吸も含めて、心身の全体がよいコンディションになることを目指していきたいですね。
石田佑也さんが編集長を務めるWebサイト:Sports Connecters
文:木村洋平
写真:石田さん提供(撮影:佐藤淳)
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