発達に障がいをもつ学童の療育活動と、知的障がいをもつ利用者を主な対象としたデイケアを行っているTさんにお話を伺いました。
取材日:2020年4月22日
Tさん(73歳 女性)は発達に障がいをもつ学童の療育活動と、知的障がいをもつ利用者を主な対象としたデイケアを行う福祉施設で働いています。デイケア事業のほか、併設のパン屋では就労支援事業も展開しています。
Tさんは80年代にこの施設のもととなる福祉事業を立ち上げた方であり、90年代に事業拡大に努めた元施設長です。いまでも現場の職員たちに頼られ、現役で活躍されています。
今回のインタビューではそんな福祉施設で働くTさんにお話を伺いました(緊急事態宣言の影響により、電話での取材を行っております)。
障がい者福祉施設のコロナ危機の対応について
──木村(インタビュアー):コロナウイルス感染症が流行っていますが、施設の状況はどうでしょうか。
Tさん:友人がアルコール液を届けてくれたんですよ。
──いま、貴重ですね。価格が高騰していますよね。
そうでしょ。こういう時になると、究極、いのちをどうするか、考えちゃうよね。
「いのちをつなぐ」ということを考える。うちはデイケアを開けているけど、(ふだん通所する利用者)21人のうち、いま通所している人数は10人切っているかな。
──利用者は徐々に減っていますか。
緊急事態宣言で3人減って、それから一週間ごとに本人に「どうしますか?」と聞いてまた減るという感じ。今日は8,9人だね。同じ自治体で、系列の施設を全館閉鎖した事業所もある。みんな、それぞれに考えての対応よね。
──行政からの支援はあるのですか。
経済的な手当が出ます。
もともと通所の人数による実績払いで、いまも1日2回の定時連絡と検温の記録があれば、通所していなくても出席と同じ扱い。ずっとこの事業を継続しているからね、国から基本的な給付金は同じように出続けます。
正確には「生活介護給付費」だね。もっとも付加の給付は出ないので減収にはなると思う。
──学童の方はどうですか。
療育活動と呼んでいるけれど、あちらは閉所しています。
もともと60人くらい通っていて(毎日全員が通所しているわけではない)発達障がいをもつ子の塾みたいなものだね。
マンツーマンで勉強を見ています。こちらは早くから親御さんと相談して、休業を決めました。安全をとりました。スタッフのお給料も大丈夫。
親御さんと連絡を取り続ければ、出席と同じ扱いになり、国から給付が出るから。
──よかったです。
あとは厚労省からマスクが少し来たね。
うちはマスク着用を義務化して、スタッフには検温も必ずさせている。
間引き出勤で、公共交通機関を使うひとは時差出勤しています。
私も表にはできるだけ出ないし、接触も減らしているね。
──利用者さんがいらっしゃるかどうかは、ご家庭によってちがいますか。
「こわい」から行かせないという親御さんもいるし、「いつも通りよろしく」という方もいるね。みんなそれぞれ。
「歳を取るのは楽しいよ!女性っていうのもね」
Tさん:10万円(国からの給付金)もらえたら、ミニシアターを支援したい。家でも映画を観るけれど、家にあるのはほとんど観ちゃった。
──ストリーミングサービスを使って観たらよいのではないですか。
そうだね。登録しようかな……。
私は高校卒業して働きはじめて、何の目的もなく働いて何の目的もなく生きていて、20歳の頃、「歳をとるのはやだー。30以後はもう生きていたくない」と思っていた。
夢もなかったね。27でよせばいいのに(笑)結婚しちゃって、子供を産んで──明確にほしいと思っていなかったけれどね。
でも最近になって、いのちを紡いで、つないでいくことの大切さを実感するね。
ほら、芥川賞とった高齢の方の、『おらおらでひとりいぐも』(若竹千佐子, 河出書房新社, 2017)ってあるじゃない? あの本の通り。
私は最近、孫ができました。息子も結婚して7年くらい産まれなかったから、私も孫を持つとは予想していなかったけれど。産まれてみたら、むちゃむちゃ可愛いね、孫(笑)。
これで、いい加減に生きてきたのも許される気がする。免罪符をもらったというかね。
あのひとたち(息子さん夫婦)の人生はあのひとたちのものだから、「孫がほしい」とか「孫の顔を見せてくれ」なんて言ったことも考えたこともなかった。
でも、孫ができたのは本当にうれしいね。
──ご自分の出産の時には「命はすごい」というように思わなかったのですか。
自分が産むのはえらいとはぜんぜん思わなかったけど、ひと(息子さんの奥様)が産んだ時は「えらいなー」と思った。いくつになってもしびれるような思いがある。
わくわく、胸がきゅんきゅんするみたいなね。歳とるのも捨てたもんじゃないと思う。
素敵な「老人力」もついたしね。「都合よく忘れる力」というね(笑)。
──赤瀬川原平さん(の著書『老人力』)ですか。
そう。むかし読んだ時は「なに言っちゃってんの、このおじさん」と思ったけど、若かったから(笑)。
人間は変わる。人間は楽しむために産まれてきたんじゃないかと思う。女性で歳をとるのも楽しいことあるよ、と若い人には伝えたい。
お化粧も若い時と、いまでは意味がちがうんだよ。
若い時は誰かに見せたくて、異性とか友人とか、お化粧する。でも、いまは自分がきちんとしていたいからだね。自分自身が汚いとイヤ。まあ、お化粧してもきれいじゃないけど、きちんとだけしていたい。
女を捨てちゃダメ。この歳になると容姿をどうこう言われることはないし、周りからも「お化粧なんてしなくていい」と言われる。でも、敵は自分。甘えちゃえば甘えられるけど。
そうそう、エシカルSTORYの資料をもらったけど、
私なりの「エシカル(倫理)」というと「自分自身を好きになれ。自分自身を誤魔化すな、甘えさせるな」かな。コロナで大変になっちゃったけど、追い詰められると考えるよね。自分の生き方も。
ポジティブに言えば、試されるいい機会というか。
──Tさんは若々しいですよね。
気持ちの持ち方だよ。
遊びに行くのもいいよね。友達と美味しいもの食べたり、いまはできないけれど。
公園で離れて(ソーシャルディスタンスを保って)無駄話するような時間も貴重だよね。
人生には「生きらされる」時期があるよね。
「子供に」(生きらされる)とか。「私がいなかったらこの子は生きられない」と疲れた時に思ったもの。
いまはわりと自分の思う通りに生きられる。自分の時間を自由に楽しく使えるよ。
──お仕事がお忙しいのではないですか。
仕事も週2くらいにしてもらおうかな。
銀行さんが来る日だから出勤しなきゃといったことはあるけど、自分で予定組んで働けるからね。楽しいよ。
文・写真:木村洋平
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