Web3と呼ばれる技術の一つであるDID/VCを使うと、身分や資格の証明をデジタルで安全に管理することができます。
取材日:2024年9月27日
この記事は株式会社Receptの共同創業者 中瀬将健氏に取材してまとめたものです。
株式会社Receptはデータ管理の新しいスタンダードを作るために、DID/VCを活用してデジタル学生証など、デジタル証明書の発行にかかわるシステムを提供しています。
今回は、DID/VCの技術が自律分散型のシステムを作り、デジタル社会における個人情報の保護を以前より高められる点について紹介します。
Web3とは
Web3(ウェブスリー)は新しい技術や仕組みです。これまでのインターネットの普及で便利になった部分もあれば、不便になった部分もありますが、その不便なところを解決するのがWeb3です。
Web1では情報を発信する側がホームページを作り、ユーザーはそれを見るのみでした。Web2ではSNSが登場し、ユーザーも発信できるようになりました。しかし、デメリットもあります。
- データがコピー&ペーストできてしまうため、情報の持ち主にとってメリットがなくなる。セキュリティの危険もある。
- 情報の透明性がなく、信頼性がわかりづらい。フェイクニュースやAIが生成したコンテンツかどうか、判断できない。
- プラットフォーマーが個人情報を含め、全体を管理できてしまう。
Web3では、ブロックチェーンを使ったり、分散型の仕組みを作ることでこれらの問題を解決しようとします。弊社が扱う DID/VCの技術もWeb3の一つです。
DID/VCとは
DID/VCは、その人しか持っていないデータを管理する新しいやり方です。それにより、アイデンティティの証明(身分証明)ができます。
身分証明書には、たとえば運転免許証やマイナンバーカードがあります。しかし、これらをインターネット上で証明書として使おうとする時、データをコピーされる危険があります。また、これまでのデジタル証明書は、受け取った側が発行元に問い合わせる必要がありました。
DID…分散された識別子。Decentralized Identity
VC…検証可能な資格証明書。Verifiable Credential
学生証のデジタル化
弊社では、今「教育機関が発行する学生証をデジタル化する」事業を進めています。DID/VCの技術を使い、スマートフォンのアプリと教育機関に納品するシステムを開発しています。
毎年、一人ひとりに学生証を出すのは事務方の負担や費用がかかっており、デジタル証明書を使うことでこれを軽減できます。日本で学生証をDID/VCで発行するためのサービスを提供するのは弊社が初めてです。
DID/VCを使うと、プライバシー保護の機能も高められます。たとえば、映画館などで学割を受けるために学生証を提示する場面でも、物理的な学生証を出すと、顔写真・住所・大学名・氏名などカードにある情報をすべて渡すことになってしまいます。学生側もすべての情報を出したくないでしょうし、事業者側も個人情報の保護・管理が大変です。しかし、DID/VCのアプリでは渡すデータを選べるので、「学生である」という証明だけを渡すことができます。
こうしたデジタル証明書は学生証にかぎらず、民間資格の証明などにも使えます。また、いくつものデジタル証明書を一つのアプリで管理できます。
まとめ
このように物理的なカードの発行がなくて済み、個人情報を自分でこまやかに管理できる点はエシカル(倫理的)であり、社会を安定させるという意味でサステナブル(持続可能)であると言えます。
中瀬将健(なかせ しょうけん)
1998年生。三重県出身。横浜国立大学 海洋系学科卒。新卒でシンプレクス・ホールディングス株式会社に入社しフルスタックエンジニアとしてSaaS間の統合プロジェクトに従事。同社を退職後Receptを創業・代表就任。
語り:中瀬将健
取材・文:木村洋平