地域にみんなの居場所をつくる(「みなさんの居場所 ぼくはぼく」松並朱さん)

「みなさんの居場所 ぼくはぼく」はだれでも来ることのできるお店であり、コミュニティスペースです。創業メンバーで日々キッチンに立つあけさんと「ぼくはぼく」を愛するみなさんに取材しました。

あけさん
あけさん

東京・町田で地域の居場所づくりをする松並朱(まつなみ あけ)さんに取材しました。あけさんは「みなさんの居場所 ぼくはぼく」を立ち上げて経営するメンバーの一人で、いつもキッチンで料理をしています。


「みなさんの居場所」ってなに?

「みなさんの居場所 ぼくはぼく」は、だれでも来られるバリアフリーのお店であり、コミュニティスペースです。週5日、午前から夜まで開いており、あたたかいごはんを食べることができます。いってみれば地域の食堂、カフェ、飲み屋を合わせたような場所です。

「ぼくはぼく」は、来るひとみんなに開かれています。となりのひとと話がはじまることもあれば、イベントに参加して知り合いができることもあります。ギターやウクレレ、電子ピアノを使ったコンサートや練習会場にもなります。そのほか、地域の仲間があつまる勉強会やワークショップ、交流会も開かれています。

あけさんは、ふだんキッチンで料理をしています。カウンター席のお客さんと話したり、イベントを開きたいひとの相談に乗ったりもします。さらに売上の管理もして、経営の全体を手がけています。あけさんの息子さんであるのぶたかさんが店長であり、笑顔でお客さんをむかえてくれます。お客さんからは「のぶくん」と呼ばれ、親しまれています。

一番右が店長ののぶたかさん

あけさんの思い

「ぼくはぼく」は、2021年7月に市内の団地にあるカフェを間借りするかたちではじまりました。その後、2023年10月に独立して今の場所にオープンしました。

──あけさんはどのような思いで「ぼくはぼく」を立ち上げ、運営してこられたのでしょうか。

あけさん「この数年間はいろいろなことが重なって、頭の中がぐるぐるしていました。やまゆり園の事件はとてもショックでした。また、出生前診断(しゅっせいまえしんだん)がひろがることで、障がいをもって生まれてくる子への差別や偏見(へんけん)が深まらないかという不安もあります。そんななかで私は退職し、息子のぶたかは高校を卒業しましたが、卒業後はさびしそうにしていました。

* やまゆり事件:2016年に神奈川県の「津久井やまゆり園」で起きた事件。元職員が障がい者の命や尊厳を否定する考えを表明し、施設の利用者や職員を多数、殺傷した。

* 出生前診断:赤ちゃんがおなかにいる時に妊婦さんが受けることのできる診断。エコーや染色体の検査をすることで、胎児が先天性の疾患(の一部)を発症しやすいかどうか知ることができる。近年、NIPTという新しいタイプの検査(母体の血液を取り、そこに含まれるDNAから遺伝子を解読して染色体の異常を調べる)が普及している。こうした診断で「障がいをもった子供が生まれてくる可能性がある」という結果が出た時に、中絶を選ぶ親御さんもいる。その点、命の選別をする優生思想(健康で能力が高いとみなされる人の命を、そうでない人の命よりも大事にする考え方。また社会的な基準や制度)が浸透する危険がある。


のぶたかは知的なハンディを持っていますし、私自身は介護(かいご)の分野で長く仕事をしてきました。そういう経験から、この世の中でハンディのある方々が「隔離(かくり)」されていることがよくわかります。

外の社会から切りはなされた暮らしは、なにかがおかしいと感じます。たしかに、社会保障や福祉事業がありますから、その暮らしは一見、ととのって見えます。ハンディのあるひととないひとをわけてしまえば、お互いに摩擦(まさつ)なく過ごせるように見えます。けれど、私は「やっぱりなにかおかしい」とずっと感じてきました。

「じゃあ、自分になにができるのかな?」と長いこと考えてきました。

「ハンディのある方ない方、シニアさん、認知症(にんちしょう)のある方ない方、ママ・パパ・お子さん、ケアラーのみなさん、シングルさん、LGBTの方……どなたでも、とにかく生きづらさがちょっとでもある方々はどうぞ」という場所を作りたくなりました。

自分から専門家に相談して、専門の機関や病院、施設に行くのは「いまはまだちょっと……どうなのかな」と感じる方。「〇〇センターというような場所は敷居が高く感じる」と思ったりする方々が来られる場所。「ちょっと話したいな」「ちょっと聞いて」「ちょっと誰かに会いたい」なんて思う人が「じゃあ、いってみよう」と思えるフンイキのお店を作りたい。

それで「みなさんの居場所 ぼくはぼく」となまえをつけて、ここをひらきました。

みなさんどうぞ、あそびにいらしてください♡」

ちなみに、お店のなまえ「ぼくはぼく」は、のぶたかさんが「将来、なにになりたい?」と聞かれたときに「ぼくはぼくだよ」とこたえたことに由来するそうです。


「ぼくはぼく」をおとずれる みなさんの声

「ぼくはぼく」にいらっしゃる方々の声を集めてみました。

「第二のおうちに帰る感覚で行かせてもらっています。自分の部屋で歌を歌っているように自由に歌えるし、仕事スペースとしても使わせていただいています。ぼくにとって、たのしく安心できる場所です。」(うまけん・シンガーソングライター)

地域で歌うシンガーソングライターのうまけんさん(左)

「ぼくはぼくは、いやし空間で第二の家のよう。
今ではいろんな方とつながれる場所となっている。
そこは、ぼくとだれかの物語がはじまる場所。
今日はだれに会えるだろうか?
そう思い、ぼくはまたとびらをあける」(toddy)

「その日は、なにかを食べにいったのではなかった。仕事に煮つまり、だれかに会いたくなった。そんなわたしをいっぱいの笑顔で待っていてくれるお店。お客さんがお客さんをむかえてくれるようなお店。にぎやか、あかるい、たのしい、やさしい…なんて言葉で説明するのをあきらめた。まずは行ってみてください!」(YASUYUKI)

「「ただいま~♪」と言ってしまいそうな、実家みたいなところ。世代は同じあけさんだけど、「お母さーん♪ 今日の夕飯なーにー?」って感じ(笑)。ホント家族のようなあたたかさ。あけさん、のぶたかさん、そして、あつまる方々のすべてがいやしで、ほっこりと居心地よい空間。ずっと会いたかったあのうまけんさんに会えたのもこの場所でした。

ぼくはぼくの前の店舗てんぽにて

リニューアルオープンした「みなさんの居場所 ぼくはぼく」。むすめも待ちのぞんでいた場所へ来られました。むすめは全介助(ぜんかいじょ)の脳性麻痺(のうせいまひ)で車椅子。たずねたときは入り口までおむかえに来ていただき、スロープもすべて介助してくださり、トイレの介助までお手伝いしていただきました。

* 全介助:食事、移動、入浴など日常生活の全体にサポートが必要であること

あけさんは本当にコンパッション(共感と慈愛)にあふれている!
共生社会(きょうせいしゃかい)への想いがいつもブレてないの。
これからもよろしくお願いします!」(YUKIKO)


あつい思いをもちながら、まわりの人たちと協力して日々、場をつくりつづけるあけさん。「ぼくはぼく」は今日もおだやかににぎわっています。


みなさんの居場所 ぼくはぼく
東京都町田市木曽東1-24-14 1階 (リンクはGoogle Mapが開きます)
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おねがい:「ぼくはぼく」では今、1. フリーのWi-fiを入れること 2. ホームページをつくることを検討しています。「支援、応援できます」という方はInstagramのメッセージで、あけさんにご連絡をいただけますとさいわいです。


* この記事(きじ)は日本語がとくいでない方にも読みやすいよう、できるだけ「やさしい日本語」で書きました。


取材・文・写真:木村洋平
協力・写真提供:「ぼくはぼく」に集まるみなさん