AFRICLのすべて──凛とした笑顔をつくるお洋服(沖田紘子さん)

アフリカの伝統生地を洋服に仕立てるブランド「AFRICL」(アフリクル)を起業し、展開する沖田紘子さんを取材しました。

笑顔の沖田紘子さん

取材日:2021年8月23日


沖田紘子(おきた ひろこ)さんは2020年、西アフリカ、ベナン共和国の伝統生地を使ったブランド「AFRICL」を起業しました。その原点にある思い、子供時代から学生時代にかけてのエピソードを伺います。


──インタビュアー(木村):AFRICLのご活動をかんたんにご紹介ください。


沖田紘子さん:AFRICLは「伝統生地を纏(まと)う、大人のアフリカ服ブランド」です。

今、AFRICLは「とっておかない、とっておき」「一生モノ、のお洋服」「Made in AFRICA, Made in Japan」をモノづくりのPhilosophyとして、ベナンの職人さんが染めた生地を買いつけ、日本で生活をするうえで心地よいことを目指し、日本で縫製をおこなってお洋服に仕立てています。

お洋服には、ベナンの職人さんが作る「バティック」と呼ばれる生地を使っています。

* バティックは東南アジア、インドネシアあたりが起源とも言われる染色法で染められた布。日本の「ろうけつ染め」のように、蝋を生地につけ、そこが染め残しになるように染料を入れる技術をバティックと言う。こうした染色法は世界各地にあるが、ベナンのバティックは、おおらかで明るく華やかな色合いが特徴的である。

AFRICLでは、永くときめく一着を纏い続けることが、纏う人にも、創る人にも、地球にとってもしあわせなこと、という考えに基づいて、シンプルな形、サイズアウトしにくい工夫を凝らしたプロダクトをつくっています。

現在は「はんぶんこのシャツ」「まいにちのスカート」をメインに提供させていただいています。

AFRICLのプロダクトを纏った方が、頑張れたり、背筋が伸びなくてもいい、かかとが地面についた今の自分のまま、微笑んでくれたらいいなあ、と思います。

今の自分のまま、自分が好きなものをまとう。そうして、愛着のあるお洋服と自分のペースで、ゆっくりと生きていく。

そういう世界観を大切にしています。


──AFRICLのコンセプトは「凛と生きるすべての人に笑顔のきっかけを」ですね。ここにはどんな思いや出会いが込められているのでしょうか。まず、「凛と生きる」から伺ってもよいですか。

「凛とした」という言葉は、「凛々しく引き締まっている」「力強い」様子を表しますが、私たちは「しなやかさ」のイメージでこの言葉を使っています。

がむしゃらな堅さのない、時にうまくいかないことや頑張れない自分にもOKを出す柔らかさも素敵、そんな気持ちを込めています。


──ご自身の経験が反映されているのですか。

足元にショット バティックの服

そうですね。

私はとくに高校生の頃まで「頑張る」ことが生きることのように考えてきました。

中学に入る頃から「強い自分」を明確に目指して、40℃の熱があっても誰にも気づかれずに体育も部活も終えて帰ってきたり(けっして褒められたことではないですが……)相当ストイックで、相当強がりだったんです。

同じ頃ですが、友人が自殺で亡くなった、という経験をしました。

小学生くらいから、環境問題や社会課題には関心があり、貧困や紛争等により大切な人を突然失う環境が世界に存在することは理解していましたが、

突然の友人との別れをきっかけに、その辛さがやるせなさが私の中でリアルなものとなり、こんな辛い想いがたまたま生まれた環境によって隣り合わせになるなんて許せない!

と「生まれた場所による不平等を解決する」ことが自分の人生の役割、夢と思うようになりました。

そういうなかで私は、その夢を実現するためにも、ますます努力をすること、あきらめないこと、強くあることが正義だと思い込むようになりました。

学校の先生にも友達にも「紘子はすごい」と言ってもらえました。

けれど、部活の大会でも大学受験でも、自分が本当に想いを込めて努力した機会で、ほしかった結果は一度も手に入れられませんでした。

前向きに努力をし続けること、強くあることが正しいと信じていたけれど、この生き方は正しくないのか、本当に目指した結果を一度も手にできない人生になるのか、そんなことを悩みながらも、

「生まれた場所による不平等を解決する」という夢に近づこうと、アジアや南米を旅し、西アフリカのベナン共和国というところに行った時、現地の人たちが笑いながら、”Mais C’est la vie.”(メ・セラヴィ)と言う場面に出会いました。

私は実は、けっして最初から彼らと仲良くはなく、ベナンの人が時間を守らないといったことで喧嘩もよくしていたのですが(笑)、そういう時も “Mais C’est la vie.” と言われました。

これは「ま、それも人生だよ」(英語で言うと “But it’s the life.”)という意味のフランス語で、「思い通りに行かないこともあるよ。人生そういうもんだよね~」というニュアンスです。

そんな風に “Mais C’est la vie.” と首をすくめて笑っている彼ら・彼女らからは、肩の力の抜けた、無理のない強さを感じました。

その生き方を見ているうちに、「ああ、こういう強さが本当に人生を通して続けられるものなのかもしれないな。しなやかで素敵だな」ととても惹かれました。

私自身がずっと「頑張って」きたわけですが、日本人は「みんな頑張りすぎだ」と感じることが多いです。

もちろん、頑張りたくて頑張る時はあってもよいのですが……使命感や責任感にすり減ってしまうと、「今」や「自分」を大切にできなくなると思います。

だから、ベナンのひとのように、「良いときもうまくいかない時もそれを人生」と受け止めて笑う、そういうあり方でいたいと思い、それをAFRICLでは「凛と生きる」という言葉で表現しています。