今月のエシカルカルチャー 映画『ザ・トゥルー・コスト ファストファッション 真の代償』

「お手頃価格」の知られざる真実。ファストファッションの弊害に迫るドキュメンタリー映画の紹介です。

第2回目は、アンドリュー・モーガン監督作品『ザ・トゥルー・コスト ファストファッション真の代償』(2015年 アメリカ)をもとにファストファッション業界の弊害について考えたいと思います。

* 映画の内容をまとめているため、2015年時点での状況を中心に書いています。


エコじゃないファストファッションの真実

近年、私たちは頻繁に、低価格のファストファッションを買い求めるようになりました。

こうした世界的なファストファッションブランドの人気ぶりは、以前のような「長く着られる服やほかの人とかぶらない服を選ぶ」といった、これまでのファッションの価値観を大きく変化させました。

1枚でも多く、1枚でも種類豊富に話題の新作を手に入れようとすればするほど、ショップは毎日にぎわうようになります。

こうしたファストファッション業界の動向に対して、「ファストファッションは家計にやさしいし、贅沢品でもない。むしろ以前よりもずっと、エコな暮らしぶりになったよ」と思う方もいるかもしれませんが……。

映画『ザ・トゥルー・コスト ファストファッション真の代償』は、そんなファストファッション業界の真実、それまであまり深く考えられてこなかったさまざまな問題に迫ったドキュメンタリーです。

ブランド側・生産工場・工場労働者・そして原料を提供する綿花農家たちにインタビューし、ファストファッションがもたらす労働や環境への弊害を知ってもらおうと製作されました。

これは衣服についての物語
私たちが着る服や
衣服を作る人々
そして衣服に与える影響の物語だ。
これは貪欲さと恐怖
そして権力と貧困の物語でもある
一方で私たちと──
多くの人の心や手が繋がっているという──
シンプルな物語でもある

『ザ・トゥルー・コスト ファストファッション真の代償』のナレーションより。以下同様


グローバル社会とは──徹底的な「外注経済」

かつて、1960年代のアメリカでは、Tシャツの90%が国内産だったそうです。

しかしそれが今や、たった3%だそうです。なぜかというと、ブランド側が低価格で提供しながらも自社の利潤を最大限にする方法として、とても低い報酬で途上国に製造を外注しているからです。

ファストファッション業界の弊害はまさにこの外注経済ともいうべき「グローバル経済」の問題がおおもとにあります。

映画では「グローバル経済」とはどんな市場か、一言でこう表現しています。

大企業が、好きな条件で
海外に労働を外注し
製品を安くして
適当に売りさばく場


グローバル経済のシステム

ではこのファッション業界のグローバル経済がどんなシステムで回って、何が問題なのかを説明したいと思います。


1. 工場に対する理不尽な価格交渉

まず、ファストファッションブランド側は、1ドルでも安く仕立ててくれる業者を探します。最低価格を提示し、工場側がそんな安値ではできないというと、すぐに他を当たるのです。

仕事が欲しい工場側は悪い条件を飲まざるを得ません。その結果、儲けの出ない工場は、労働者を劣悪な環境のもとで、暮らしていけないほどの低賃金で働かせます。


2.農薬散布による土壌汚染

とにかく低コストで大量生産したいブランド側は、大量生産向きの農業を綿花農家に負担させます。

飛行機による均一な農薬散布で、大量の化学肥料が空から撒かれ、土地がどんどん痩せ汚染されていきます。

中には、その土地の農業従事者や家族に深刻な健康被害が起こっている地域もあります。


3.ファストファッションの運命

こうして、大量生産されたファストファッションは安く消費者の手に渡ります。

安価で手に入れた服は、品質的にも粗悪なので消費者によってすぐに捨てられる運命にあります。その後、捨てられた服の一部は回収され、最後に途上国に古着として送られます。

しかしファストファッションには、古着として活用できるほどの価値は残っていません。安く作らされたうえに不用品の始末を押し付けられてしまう途上国。今、大量のゴミの山が生まれています。

風力発電


「誰も幸せにしないゲーム」に、みんなが巻き込まれている

前章の例でもおわかりのように、ファストファッションの生産システムによって多大なる利潤を受け取れるのは、ブランド側や農薬メーカーのような一部の先進国企業だけということになります。つまり、それ以外の生産の下請けに関わった人たちは誰一人得することのない「独り占めのシステム」なのです。

そして何よりも問題なのは、生産者側はおろか私たちでさえ「大量消費者」というかたちで、このシステムにしっかり組み込まれている、ということでしょう。


大量消費したい私たち。買い物すれば幸せになれる?

ミラノの投資家は、映画の中でインタビューにこう答えています。

「昔はTシャツなんて年に2回くらいしか買わなかった。しかし今は、パーティーごとに買うようになった。」

ファッションのメッカであるミラノですら、ハイブランドを大切に着るのではなく、ファストファッションに染まっているのです。彼は続けます。

「安い服は人生の慰めの源です。」

また、映画の中に、アメリカのクリスマス商戦を報道するニュース番組という設定で、キャスターが皮肉たっぷりに視聴者に購買を促すシーンがあります。実際のニュースのパロディですが、ここには大量消費のすべてが表現されていると言えるでしょう。

クリスマスの買い物が
アメリカの復活を告げる!
再び そうとも!
我々は再び ありもしない金を使って──
買いたくもないものを好きでもない人に贈るのだ
USA! USA!


こうした流れに反する取り組みも

もちろん、このような大量生産と大量消費をセットにした経済を良しとしない人たちもいます。

たとえば、アメリカのアウトドア・ブランド「パタゴニア」です。オーガニックコットンの使用や再生可能なリサイクル素材への転換などのエシカルな取り組みを行っており、知っている人も多いでしょう。

そんなパタゴニアは、消費主義に関しても、ある価値観を貫いています。

「パタゴニア」では、顧客を「消費者」と呼ばないといいます。顧客に「買って捨てる」という、大量消費をするだけの存在に、なってもらいたくないからです。

「消費活動」とは、売り手と買い手とが相互に考えていかなくてはいけない「社会的責任」だと、考えているのです。


服を縫いながら、シーマという女性が願っていること

映画では、ファストファッションの縫製工場で働きながら子育てをしている、シーマというバングラデシュ女性の生活を追い続けています。

バングラデシュでは、安く請け負った仕事で儲けが出ないため、自社工場のメンテナンスをするお金もありません。ひび割れた工場が突然倒壊し従業員に多数の死傷者が出るという事故が相次ぎ、シーマも心を痛めています。

シーマは言います。

「私たちの血で作られた服なんて、着てほしくないのです」

ドレス 指 女の子

シーマは、ファッション業界全体がより健全なものになるよう願っています。

ファストファッション業界の問題、それは「大量生産・大量消費・大量廃棄をグローバルに行う経済」の現れのひとつといえます。

これは今やどの業界にも深く根付いたシステムであり、結局はファッション業界も、このシステムに則って動いています。

「生産と消費をなるべく早く回すことで、たくさんの利益を出すこと」が至上の目的になってしまっています。


最後に──社会全体で取り組む問題に。

最後に、監督はこう付け加えています。

「なんとかする前に、まず現状の認識が必要だ」

この映画は2015年の公開ですが、現在も多くの人に影響を与え続け、エシカルやサステナビリティへの転換を促し続けています。

2015年以降、世界中でますますサステナビリティが重視される中、ファッション業界も人権、労働、環境をめぐる状況の改善に取り組んでいます。

実例としては、リサイクル可能な素材への切り替え、途上国の生産ラインに相応の賃金を払うことなどです。

まだ道は模索中ですが、今後の取り組みに注目していきたいですね。


文:越水玲衣

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