エシカルなカルチャーを紹介する連載が始まります。第1回目は、日々のプラスチック依存から脱出するための『プラスチック・フリー生活』の提案です。
エシカルSTORYでは、環境に配慮したライフスタイルの実践を大切にしています。
けれども、本を読むことやアートを見ること、音楽を聴くことなど、「文化」を通して考えていくことも同じくらい大切だと考えています。
エシカルという言葉は、直訳すれば「倫理的な」ですが、少しくだけた言い方をするなら、「お互いがつながっている、どこかで影響しあっていると気づき、調和を求めること」とも言えるかもしれません。
そんな「調和=ハーモニー」を感じさせる本や映画などをエシカルに通じるカルチャーとして紹介していきます。
第1回目は、日々のプラスチック依存から脱出するためのガイドブック『プラスチック・フリー生活』をもとにプラスチックフリーについて考えてみたいと思います。
*『プラスチック・フリー生活 今すぐできる小さな革命』シャンタル・プラモンドン、ジェイ・シンハ著, 服部雄一郎訳, NHK出版, 2019
プラスチックの問題とは?
エコバックを持ち歩く生活にも慣れ、カフェでは紙製のストローが出てくることも珍しくなくなりましたね。では、どうして今、プラスチックを使わないようにしようという流れになっているのでしょうか?
きっと第1に思いつくのはゴミ問題でしょう。プラスチックには、溶かしてリサイクルできるものと一度作ったらリサイクルできないものがあり、できないタイプのプラごみは今や溜まりに溜まっています。
第2は、海に流れ着いたプラスチックの袋や破片を、まちがって鳥や魚が飲み込んでしまうこと。生態系を乱すことです。
そして意外に知られていない第3の理由が人体への悪影響。これが今回の本のテーマです。
シャンタルとジェイがプラスチック・フリー生活を始めたきっかけ
本書の著者は、カナダに暮らすシャンタルとジェイ。かねてから環境と健康との関わりに興味があったカップルです。
『プラスチック・フリー生活』は、息子ジョディの健康のためにガラスの哺乳瓶を探してみたところ、どれもプラスチック製で見つからない!と苦労したところから始まります。
2人はその後、プラスチック・フリーの生活用品を扱ったオンラインストア、ライフ・ウィザウト・プラスチック「Life Without Plastic」を始めます。サイトで真っ先に扱ったのは、もちろんガラスの哺乳瓶だったようです。
ではなぜ、ガラスは良くて、プラスチックはダメなのでしょうか?
本書では、プラスチックの構造に始まり、行き過ぎたプラスチック依存の代替品の提案まで、簡単かつ丁寧に説明してくれます。
プラスチックの元となる「ポリマー」とは?
プラスチックとは、ひとことでいえば石油由来でできた合成樹脂(ポリマー)のことです。
しかし、ポリマーそれだけでは、製品としての価値は生まれません。そこで、着色剤、芳香剤、可塑剤、安定剤、発泡剤、抗菌剤などの「添加剤」を加えて、色、材質、紫外線カット、抗菌作用など、さまざまな機能を持ったプラスチック製品を作られています。
ここで問題になるのは、こうして生まれたプラスチックの構造が、分子的にとても不安定なことです。
プラスチックの仕組みをトマトパスタに例えると?
これを説明するのにいい例えがあります。ポリマーを「パスタ」、加えた添加剤を「パスタソース」に見立てる、というものです。
ジャンタルとジェイも「トマトパスタ」として説明しています。
「さて、パスタとソースは、混ぜても一体にはならない。単にぬめぬめと―――まるで泥の中のヘビのように―――絡み合うだけ。可塑剤はまさにこんな具合に不安定で、時とともに必ず漏れ出してくる。とくに摩耗や熱、さらにレモンやトマトソースなどの酸に晒されると危ない。そう、トマトソース!この比喩はとびきり暗示的なのだ。(p.39 )」
そして、容器を洗う時に感じる、ちょっとした不快感からもわかることは……。
「チキンヌードルスープを電子レンジで温めると、プラスチック容器に残った汚れが、洗っても完全に落ちないのがいつもすごく不思議だった。これは、油っぽいスープが容器の一部に入り込んだからで、裏を返せば、もちろん容器の方もスープを飲む私たちの体の一部に入り込んでいたわけだ。(p.39)」
こうして、削れたり溶け出したりして身体に入るプラスチックの添加剤(パスタソース)が、人体へ悪影響を及ぼすわけです。
彼らが一番の気がかりとしているのは、ポリエチレン、ボリ塩化ビニール、ポリカーボネートなどに使われているフタル酸エステルやBPAです。これらは内分泌を攪乱する物質とされています。
つまり、代謝や生殖などに作用を及ぼす恐れのある添加剤なのです。
これらは人間のホルモンに構造がとても似ているため、体のはたらきに誤作動をおこす恐れがあるといわれています。
地球の生態系だけでなく人体の生態系も狂わせてしまうのですね。
プラスチック・フリーを始めるには?
プラスチックは「手軽さ」「スピード」の象徴といえます。買って捨てる、買って捨てる……このスピード感は中毒的でもあり、さらに「使い捨て」を加速させます。
本書はこうした消費をやめ、プラスチックの代替品へ切り替える提案を、シーンごとに分けて紹介しています。ここで少し、プラスチック・フリーのライフスタイルを提案してみます。
①お料理……調理器具・カトラリーを木製・竹製・ステンレスに変える。ストックをプラスチック容器ではなくガラスのジャーに入れる。陶器やガラスの食器を使う。
②バスタイム……量り売りを利用する。石鹸やシャンプー、スキンケア用品を手作りする(プラスチック容器で作らずに、ガラス製の入れ物で)
③インテリア……カーペットやカーテンを合成繊維のものから天然繊維100%のものにする。
④庭仕事……ガーデニング用品を木製や金属製にする(ジョウロをブリキにする)、古紙から作られたパルプモールドの植木鉢を使う。
普段の生活において、身の回りにあるものをプラスチック製でなく、木製・竹製・ステンレス製に代えてみることで、プラスチック・フリーを始めることができます。
また物を買うときは、「量り売り」(はかりうり)のものを選ぶのもよいでしょう。プラスチック容器に入っていないものを選ぶことで、プラスチックフリーが実現できます。
布に関しては、合成繊維で作られているものではなく、天然繊維の素材100%を選ぶことが大切です。
そしてシャンタルとジェイが声を大にして言っていることは、
「コンポスト!コンポスト!とにかくコンポスト!(p.240)」
自然のなかの循環を意識して生活することは、プラスチック・フリー生活につながります。コンポストはゴミを土に返すことで地球の循環につながる取り組みといえるでしょう。
こうして見ると、「簡単そう!それ、知ってる!」といった印象を受けるかもしれません。あとは、思い切って取り組んでみれば、大きな前進です。
一歩ずつ、一個ずつから
最後に、ここに書いてあることを一度に全部やろうと頑張らないこともお伝えしたいです。というのも、今の時代にプラスチックを完全に絶って生きていくことは不可能だと思われるからです。
シャンタルとジェイもそこは織り込み済みで、持続可能な両立のライフスタイルを勧めています。
プラスチック・フリー生活への第一歩。本書を手元に置いて、ガイドブックとして使ってみませんか?
文/写真:越水玲衣
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