エシカルは「ソーシャルインパクト」が少ないの?

生活者の「日々のエシカル」は、どれだけのソーシャルインパクト(社会的な影響力)を持つのでしょうか。それは大きな組織の活動に比べればずいぶん少ないのでしょうか。

水がはねる


年間2億本のストローと50本のストロー

ひとつのアクションや事業が「どれだけ社会を変えられるか」を「ソーシャルインパクト」といいます。

たとえば、スターバックス社は2020年から森林に優しい紙(FSC認証紙)でできたストローを導入し、プラスチックストローの全廃を掲げました。この時、国内で「年間約2億本」のプラスチックストローを削減できると発表しています。

2億本という数字はぱっとイメージが掴みづらいものの、とにかく「大きなソーシャルインパクトがある」といえるでしょう。さらに、ニュースの大きさとしても「今、エシカルやサステナブルが重視されている」という印象を広められます。

他方で、筆者がたとえば「日々のエシカル」として、マイストローを持ち歩くようにしたらどうでしょうか。仮に、年に50軒のカフェやレストランでプラスチックストローを使わずに済んだとして、ソーシャルインパクトは年間50本です。スタバに比べれば、微々たるものです。

では、エシカルはソーシャルインパクトが少ないのでしょうか。


エシカルはソーシャルインパクトが少ないの?

これと同じような考え方はエシカルをめぐっていたるところにあります。

すると、「一生活者のエシカルは、大企業のエシカルに比べて、微力ではないか」という疑問がわきます。

もっと言えば、「それなら、自分が生活でなにを工夫するか、というエシカルを考えるより、仕事や社会活動を通じて大企業や官庁を動かす方が、ずっと効率がよいのではないか?」と考えたくもなります。

実際、エシカルなビジネスパーソンや社会起業家でそう発言するひともいます。

やはりエシカルはソーシャルインパクトが少ないのでしょうか。

筆者は、必ずしもそうでないという理由をふたつ考えます。


双方向のエシカル

ひとつは、生活者・消費者側の動きが、大企業にとっても重要であることです。

スターバックス社の続きでいうと、2021年にスタバは「リユーザブルストロー」(何度も使えるシリコン製のストロー)を開発し、売り出しました。

こちらのプレスリリース(https://www.starbucks.co.jp/press_release/pr2021-3927.php)を読むと、タイトルには「“MYストロー”生活始めてみませんか」という言葉もあります。

こういう動きが出てきたのは、以前から草の根でマイストローを使ったり、非プラスチック製のストローを作ったりする動きがあったからです。また、今後は「リユーザブルストロー」のような商品に対して潜在顧客が見込めると、スターバックス社が考えたからでしょう。

私たちのエシカル消費やエシカルな生活が、スタバのような巨大企業の活動も下支えしているのです。


いつも「自分ごと」である強み

もうひとつの理由は、エシカルは常に「自分ごと」であるという強みです。

エシカルやサステナブルの社会浸透について話がされる時、しばしば「どうやって多くの人に”自分ごと”として、これらの問題を考えてもらうか?」という質問が出ます。つまり、どうやったら「自分にも関係がある」と思ってもらえるか、ということです。

しかし、この問いは筆者には少し不思議に感じられます。というのも、エシカルは常に「自分ごと」でしかありえないからです。エシカルとは「倫理的」という意味ですが、それは「自分がどう生きるか」を考えることなので、内発的・自発的でしかありえません。(そう言い切れないシーンもあるとは思いますが。)

だから、長続きするし、身の回りのひとにも論理より実感を通して伝わります。「誰かが仕掛けや仕組みを作って、上から与える」という方式を取らないところに「日々のエシカル」のよさはあります。

時間をかけてボトムアップで社会を変える力をエシカルは持っています。


まとめ

エシカルであることの気持ちよさ、楽しさ、面白さを味わうことが、結局は社会の根底から大きくものごとを動かしていくことにつながります。それがエシカルのよいところではないでしょうか。


文:木村洋平


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