「エシカル」「サステナブル」「SDGs」は、どれも環境や社会への配慮を表す言葉で、経済も含めた対策を考えるものです。では、どこがどうちがうのかを解説します。
最近、耳にすることが増えた「エシカル」「サステナブル(サスティナブル)」「SDGs」、3つとも聞いたことはあっても「説明してください」「ちがいはなんですか?」と言われたら、戸惑うひとも多いのではないでしょうか。
おおまかに言うと、
「エシカル」は生活者の目線で、「生き方」や「ライフスタイル」を考えるもの。
「サステナブル」は世界の全体で、誰もが人間らしく生活できる「設計」や「仕組み」を考えるもの。
「SDGs」はサステナブルな世界を達成するための一時的な目標です。
以下、ひとつひとつ丁寧に見ていきましょう。
1.エシカルとは──What’s “Ethical”?
まず、エシカルは「生活者」の目線を大切にします。そして、私たちの一人ひとりがどんなライフスタイルで、どのような生き方を目指すかを考えます。
エシカルはもともと「エシカル消費」という言葉を起点に広がりました。これは環境や社会に配慮した製品を購入する運動を指します。ここが生活者目線の始まりです。
もっとも、いまでは「エシカルな企業」といった言い方もされますし、#エシカル就活(リンクはInstagramのハッシュタグ) といった言葉もあり、広がっています。
筆者が見るかぎり、2020年12月時点の日本では、エシカルは漠然と「いいことをしている」「環境にやさしい」「社会貢献」を指しています。善意や良心を感じさせる言葉です。はっきり、これという定義は定まっておらず、意味は進化しています。
こちらの記事も参考にご覧ください。
2.サステナブルとは──What’s “Sustainable”?
次に、「サステナブル(サスティナブル)」です。
冒頭では「世界の全体で、誰もが人間らしく生活できる「設計」や「仕組み」を考えるもの」と書きました。例を挙げて考えてみましょう。
「途上国の貧困」を考えてみましょう。これは「サステナブル」の観点から、解決すべき課題といえます。そこで政府、企業、投資家といった多くの主体(「ステークホルダー」(利害関係者)とも呼びます)が連携して、たとえば、途上国に雇用を生み出します。また、途上国で生産するひとびとの生活が守られるように配慮します。こうして、多面的に解決が図られます。
──では、
「なぜ、そもそも途上国の貧困を、みんなで解決しようとするの?」
と疑問が浮かぶかもしれません。「それは、ビル・ゲイツのような慈善活動家がすればよいのではないのですか?」と。しかし、そうではなく、他人まかせにすると「先進国」も困ったことになります。
その背景には、いまや「世界の全部がつながっている」という事実があります。原材料の生産、それが運ばれる工場、商品の流通、販売、広報や資金調達まで含めると、世界中の国と地域が結びついています。そのどこかでトラブルが起こると、網の目の全体に悪い影響が出ます。
いち早くそのことに気づいた、機関投資家(巨額のお金を動かす、年金基金など)、多国籍企業、先進諸国の政府は、とくにこの10年ほどの間に「サステナブル」を重視する方向に大きく舵を切りました。
このように「サステナブル」は、世界を見渡す大局的な視野を持ちます。また、目先の利益に走らない長期的な視点も持っています。それによって、人間の生活や地球環境を末永くよい状態に保とうとする、そういう思想や運動が「サステナビリティ」です。
*「サステナブル」(サスティナブル)は形容詞なので、名詞としては「サステナビリティ」(Sustainability)といいます。日本語に訳すと「持続可能性」ですが、人類と地球の持続可能性を考えるため、扱う範囲はとても広くなります。単なる「環境を保護する活動」ではない点は、押さえる必要があります。
くわしくは下の記事や『ESG思考』(講談社+α新書)という本がおすすめです。
2.5 「エシカル」と「サステナブル」は同じ意味でも使われる
エシカルとサステナブルは、「けっこう印象がちがう」と思った方もいるかもしれませんが、同じ意味で使われる場合もあります。
たとえば、「エシカルファッション」と「サステナブルファッション」は同じ意味で使われます。あるいは、ある事業について「サステナブルですね」と言うのと「エシカルですね」と言うのはほぼ同じ意味でありえます。
もうひとつ、「サステナブルなライフスタイル」(=エシカルなライフスタイル)という言葉もずいぶん見かけるようになりました。2020年、雑誌ではELLE JAPON(エル・ジャポン)やPEN、Hanakoといった雑誌が「エシカル」「サステナブル」「SDGs」の特集を組み、ふだんの記事にもこれらの視点を取り入れました。
* ちなみに、本サイト「エシカルSTORY」では、「エシカル」と「サステナブル」をほぼ同じ意味で用いていることが多いです。サイト名は、個人の「倫理」(=エシカル)により焦点を当てて、エシカルSTORYとしています。
3.SDGs──What’s “Sustainable Development Goals”?
SDGs(エス・ディー・ジーズ)は「サステナブル・ディベロプメント・ゴールズ」(持続可能な発展の目標)の略です。これはざっくり言うと、「2030年の地球のあり方を描いた目標」です。
SDGsは、2015年に国連で採択されました。「これこれこういう社会、経済、環境を目指しましょう」という具体的な目標の集まりです。よく見かける17のカラフルなラベルは、カテゴリを表しており、その下にブレイクダウンした個別目標(ターゲット)が169列挙されています。
SDGsの大きな特徴は「包括的であること」、つまり、「環境問題」や「途上国の開発」「ジェンダーの平等」といった課題をひとつの全体像にまとめたことです。これは画期的でした。
さらに、ラベルのデザインもそうですが、一般に「親しみやすく、伝わりやすく、わかりやすい」打ち出し方を狙っていることもポイントでしょう。
くわしく知りたい方は、『SDGs』(中公新書)がおすすめです。視野が広く、細やかな目配りが利いています。
以上で、エシカル、サステナブル、SDGsのちがいの紹介を終えます。
最後に──日本と世界のずれ
最後に、世界と日本の認識のずれについて触れておきます。この1,2年、日本ではSDGsの認知度が高まっています。「グーグルトレンド」で時系列の検索数を見てみましょう。
過去5年間で「エシカル」(青)や「サステナブル」(赤)といった単語よりも「SDGs」(黄)が、圧倒的に多くグーグルで検索されています。とくに2019年頃から検索数がぐっと伸びています。
一方、世界全体ではどうでしょうか。
このグラフは「英語」かつ「すべての国」で見ています。すると、「ethical(エシカル)」(青)「Sustainable(サステナブル)」(赤)の検索数が多いことがわかります。それらに比べれば「SDGs」(黄)の検索数は少ないです。
実は、世界ではとりわけリーマンショック(2008)以降、「サステナビリティ」がメガトレンドになっており、欧米を中心に研究と実践が進んできました。日本はサステナビリティの後進国だったのですが、やっと「そろそろ本気にならないとまずい」という気運が高まっています。
その際、取っ掛かりになったのが「SDGs」です。しかし、SDGsばかりに注目してしまうと、サステナビリティの全体像や歴史を見失ってしまうかもしれません。歴史的な経緯も含め「サステナビリティとはなにか?」を真剣に考え、学ぶ時期に差しかかっているのでしょう。
今後も、「エシカルSTORY」では、サステナビリティやSDGsに関する情報も発信していきたいと思います。
文:木村洋平
<おすすめの参考図書>
『ESG思考 激変資本主義1990-2020、経営者も投資家もここまで変わった』夫馬賢治, 講談社+α新書, 2020
『データでわかる2030年 地球のすがた』夫馬賢治, 日経プレミアシリーズ, 2020
『SDGs(持続可能な開発目標)』蟹江憲史, 中公新書, 2020
『はじめてのエシカル 人、自然、未来にやさしい暮らしかた』末吉里花, 山川出版社, 2016
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