直感&行動力からアップサイクルの花器が生まれる──エシカルな女優の挑戦(太田彩乃さん)

女優の太田彩乃さんは、エシカル、サステナブル、環境に関心を寄せています。これまでもいろいろなことに挑戦されて来ましたが、いまは「アルミの端材をアップサイクルした花器を作る」プロジェクトを立ち上げようとしています。

太田彩乃さん

取材日:2020年10月18日


今回、エシカルSTORYはふたりのインタビュアー(別本、木村)で太田彩乃さんを取材しました。


──インタビュアー 木村:エシカルに興味を持たれたきっかけはなんでしょうか。

太田彩乃さん:劇場や楽屋に届くお祝いのお花です。期間の短い公演ではいただいたお花が綺麗な状態のまま廃棄されてしまうんです。

最近、イベントなどで1日だけ使った綺麗な花が廃棄されたり、市場に出せる基準に満たないで廃棄されたりしてしまう生花のことを「ロスフラワー」と呼ばれている事を知り、公演で頂くお花のロスフラワーが減ったらいいなと思いました。私自身は千秋楽の日に元気なお花は持ち帰って、家に飾ったりドライフラワーにしたりして楽しんでいます。

それからSNSなどでも世界の環境問題やエシカルな情報などをリアルタイムに目にすることが増えて自然と意識するようになりました。


──木村:そういう関心を共有できる仲間が周りにいらっしゃいますか。

最近、少しずつ話せる機会も増えてきましたが、まだまだ「意識高い系なんだね」と言われてしまうことはあります。エコボトルやエコストローを使っていると「えらいね〜」「おしゃれだよね」と、ちょっと敬遠されてしまうニュアンスはあるかもしれません。まだ生活に取り入れている方は多くはないですが、もっと身近なこととして、当たり前になっていくといいなと思います。

「自分がなにかひとつ、小さなことをしても変わらないよね」と思わないで、やってみたら、いろんな事がつながっていくと思うんです。


──木村:エシカルを生活に取り入れるのは、小さなことの積み重ねですよね。

おふたりとこうやって話していても、エシカルな行動をしているひとは沢山いるし、自分がやっている小さなこともまちがっていないって思えます。

環境に配慮というのも、最初から完璧なんて求めなくていいと思います。まずは「これくらいでいっかー」って。それぞれのひとが楽しみながら、出来ることが見つかるといいですよね。


──インタビュアー 別本:エシカルなことをやりたいひとは多いと思いますが、そういうひとが集まれると、じゃあアクションをしてみよう!となると感じます。

やっぱりひとと会うのは大事ですよね。今はコロナ禍でなかなか大変なこともありますが、いろんなひとと会って話をしているとリアルな情報交換も出来るし、いろんなアイディアが生まれてきます。

実はいま、端材や廃材をアップサイクル(付加価値をつけたリサイクル)する事に興味があるんです。「アップサイクルした花器が作れないかなぁ」っと思って。


──別本:どうして花器を作ろうと思われたのですか。

もともとアーティフィシャル・フラワー(造花)のレッスンを受けていたのですが、アーティフィシャルフラワーは生花とちがって綺麗な状態を長く保てるので、使い方によっては廃棄も少なくて済みます。そういった面では環境にも優しいのかなと思うし、アーティフィシャルフラワーのなかには、サステナブルフラワーと呼ばれる、ペットボトルの廃材を利用して作られたお花もあるんですよ。

そういうアーティフィシャルフラワーを飾るサステナブルなオリジナルの花器があったらいいな、と思ったのがきっかけで工場を探しました。


──木村:その工場はどのようにして知ったのですか。

まず端材や廃材をアップサイクルした花器ってどんなものがあるんだろうと思い調べていると、相和シボリ工業さんが「Re-shibo(リシボ)」というアルミ廃材を利用した花器を作っている事を知り、直接電話をして、その後すぐに実物を拝見させていただきに工場に伺いました。

さらには「絞り」という職人さんの技術も実際に体験させていただけることになったのですが、実際に体験するとやはりその技術の難しさは想像以上でした。そして、工場のみなさんの想いや「Re-shibo」が誕生するまでのプロセスをお聞きして、私もいっしょにものづくりがしたいと思ったんです。

私がデザインしたアーティフィシャルフラワーのブーケと花器をセットにしたものを作り、売ることで、誰かがサステナブルに興味を持つきっかけになればいいなと。

そこからは話がどんどん進んでいき、皆さんといろんなアイディアを出し合いながらオリジナルの花器を作らせていただいているのですが、こんな私に力を貸してくださることに本当に感謝しています。


──別本:行動力がすごいですね。アルミの廃材はたくさん出るのですか。

ものにもよるそうですが、一気に何十枚もでることもあるそうで、工場の方も「とっておくねー」と言ってくれています。

端材や廃材が形を変えて誰かの手に届くのかと思うとワクワクしますよね。素材の良さも活かしたいので、たとえば、お子さんのいる家庭だったら、「花育(はないく)」じゃないけれど、アルミの花器にチョークで絵を書いて遊ぶとか。「お母さん、ありがとう」なんてメッセージが書けたら贈り物にもなっていいのかなと思います。


──別本:私もほしくなります。花を家に飾りたいけれど、枯れてしまうし、花瓶も持っていません。アーティフィシャルフラワーと花器のセットで買えたら、すぐに飾れますね。母の日のプレゼントに花を送ることもありますが、枯れなくてエシカルなところはすごくよいと思います。

生花もアーティフィシャルフラワーもそれぞれのメリット、デメリットは必ずあると思うので、選択肢が増えるのはよいことだと思います。選べる自由は大事ですよね。

実際に私もSDGsやエシカルなことを知っていくうちに、日々の生活の中で選ぶ選択肢も増えました。今まで気にしていなかったことも、少し気にしてみたらこっちの方が環境にも良いし、私には心地の良い選択だなって気づくことができました。


──木村:太田さんがエシカルな行動をする時、どんなことに気をつけますか。

エシカルやサステナブルは扱う範囲が広いし、掘り下げると根っこも深い。だから、問題をあまり大きく考えると「一個人にはムリだから、企業ベースでやりましょう」って言われちゃうこともあると思うんです。

なので私は、できることを楽しむことが一番大切だと思います。自分が知る、行動に移すことが楽しくないと続けられない。そして、続かないと意味がない。日常のなかで「これって面白いな」が増えていくといいと思います。

外に向けてエシカルなことを発信する時には、いわゆる「SNS映え」ではなく、発信する人間の本質を見てもらえるような発信の仕方を心がけたいなと思っています。堅苦しく捉えるのではなく、それを楽しんでいるかどうかが伝わると嬉しいです。


──別本:今回、太田さんのインスタを見てコンタクトしましたが、快く取材をOKしてもらえてうれしかったです。

よかったー(笑)。SNSにきっかけをもらうとか、そこから始まる出会いってありますよね。


──木村:もっと最初に伺えばよかった気もするのですが、太田さんにはいろんな特技や経歴がありますよね。タップダンスを始められたのはいつですか。

ミュージカル『アニー』を子供の頃に見て、私も舞台に立ちたいと思ったのがきっかけです。『アニー』にはタップダンスを踊るシーンがあって、オーディションを受けるためにタップダンスのレッスンを始めました。何回目かのチャレンジで10歳の時にオーディションに合格し『アニー』に出演させていただいたのが私の初舞台です。

大人になってからも『アニー』に出演させていただく事になり、子供たちと一緒にタップダンスを踊るシーンもあったのでまたレッスンを再開したり、水谷豊さん監督の映画『TAP THE LAST SHOW』のオーディションに受かり、メインキャストのタップダンサーの役をいただいたので、さらに特訓して撮影に挑みました。


──木村:日本舞踊はどうして始められたのですか。

日本人として和の作品に出たいと思っていたので始めました。着物の着こなしを含めて、所作を学んでいるのといないのとでは、絶対に差が出てしまうし、1日2日で身につくものではないので、できるときに習っておきたいなと思って。

日本舞踊もやはり奥が深くて、首を振るのも3年かかると言われます。いつも自分の踊りを映像で見返すとがっかりするのですが(笑)、お稽古で先生に会うと気持ちがしゃきっとします。帯の位置、姿勢ひとつとっても、芸者を演じるのか、娘を演じるのかで変わります。そういう踊り方を学べるのはとても面白いです。


──木村:「エシカル」という言葉には「文化」を学ぶことも含まれると私たちは考えています。そこには伝統や歴史が息づいていて、文化を継承することは未来にとっても大切だと感じます。

役者にとっては、準備の期間や待っている時間も仕事のうち。スポットライトが当たっている時だけでなく、「ふだん何をしているか。学んでいるか」も大切だと先輩方から教わりました。踊りも知識もどんな些細なことでも、知っているということが強みになります。


──別本:「知っていることが強み」という言葉は励みになります。いろいろなことに挑戦してみようと思っても、おっくうになったり、深まらない悩みってありますよね。でも、なにかのきっかけがあった時に、自分の知っていることで、一歩先へ行けるとよいなと思います。

「役者なら役者のことだけ考えろ」と言われることもありますが。ただ、私はそうじゃなくてもいいと思います。お花のこともそうですが、接点がないと思っていたことがつながる場面もありますし、ひととしての豊かさや人間の厚みにしていけたらいいなと思います。

「こうじゃなきゃいけない」と思う必要はない。自分で自分を縛りすぎるとつらくなる気がします。


──木村:最後に、エシカルについてコメントをお願いしてもよいですか。

ストーリーのあるモノは大事ですね。ひとの思いが乗っているモノを選ぶこと。エシカル消費も、作り手や売り手、みんなの思いがあるから、自分が買ったひとつのものを大事にしようと思えます。自分が「どこにピンと来たのか」、その直感力と感覚を大切にしたいです。

私自身もものづくりが好きですし、作品を作る1つのピースになってエンタメを届ける役者の仕事も、お花のことも、作るからには「作る責任」というのがあると思うで、真剣に頑張りたいと思います。


──別本・木村:アルミの「絞り」は体験してみたいです。よかったら、次回は工場見学を取材させてください。

ぜひ、いっしょに体験に行きましょう!


太田さんのエシカルは、「〇〇が危機だから、義務として始めなければならない」ではなく、楽しいことを追求しているうちにエシカルになっていく、というスタイルでした。エネルギッシュで笑顔にあふれた話しぶりからは持ち前の直感力がうかがえました。次回は、工場来訪編をお届けする予定です。


取材:別本悠果、木村洋平
文:木村洋平
写真提供:太田彩乃


太田彩乃 プロフィール

女優の太田彩乃さんのプロフィール写真

女優。1994年ミュージカル『アニー』で舞台デビュー。子役から現在まで数々の演劇作品に出演。近年では舞台、映画、テレビドラマとジャンルを問わず活動の場を広げている。