気候変動、どうなる? どうする?

「気候変動でなにが起きているのか?」「どんな対応が求められているのか?」を日本気候変動イニシアティブの共同代表 セルジオ加藤さんに聞きました。

セルジオ加藤さん 日本気候変動イニシアチブ

取材日: 2025年3月10日

この記事では、「気候変動でなにが起きているのか?」「どんな対応が求められているのか?」をまとめています。
日本気候変動イニシアティブの共同代表 セルジオ加藤さんに聞きました。


* 本記事は、この記事からの抜粋です。


気候変動に対策をしないとどうなる?

──「気候変動」は近年、日本でも取り上げられますが、なにがどう大変なのか、よく知られていないように思えます。

セルジオ加藤さん:はい。「地球の気温が少し上がって、今より1℃か2℃暑くなる」「海面が上昇すると、遠くの島がいくつか沈むかもしれない」という程度の軽い印象を持たれることもあります。しかし、状況はもっとずっと危機的です。


異常気象→自然災害が起こる

──加藤様は「気候危機」とおっしゃいます。その「危機」を具体的にまとめてお話しいただけないでしょうか。

まずは、直接的な被害があります。地球が温暖化すると、単に「全体の気温が0.1℃上がる」というように変化するのではなく、大気の循環や海流が乱れ、自然災害が多発します。これが「異常気象」と言われますが、実は世界中で起きており、増えています。

熱波、豪雪、山火事、台風、水害、ハリケーンなど、さまざまです。加えて、海水温の上昇や氷河や氷床が溶けることによる海面上昇は、島嶼(とうしょ)や平地を海にしていきます。


ビジネスモデルが崩れる

こうした自然災害により、今あるビジネスモデルの崩壊が起こりえます。旱魃(かんばつ)や豪雨、海岸の浸水などにより、農業や漁業が続けられなくなったり、海に近い工場が停止したり。これらにより、ビジネスモデルの転換をせまられます。

また、それらに対する損害保険が支払えなくなったりします。被害が増え、額が大きくなりすぎて、保険会社がもたなくなるからです。

こうしたことは、2025年2月のアメリカ、ロサンゼルスの山火事でも起こりました。被害が大きすぎて、保険額が引き上げられたか、保険に入れなくなりました。日本でも、2025年3月までにあった日本海側の豪雪や大船渡の山火事は、気候変動の影響と断言してよいと考えます。


再生エネルギーに転換しよう

──自然災害が増え、ビジネスモデルが保てなくなる。ほかには、どんな影響がありますか。

エネルギーの転換が必要です。世界中で、気候変動対策として「脱炭素(だつたんそ)」が進み、化石燃料(石炭、石油)から再生エネルギーへの転換が進んでいます。

以前は「結局、化石燃料の方が安い。再エネは高い、非効率」と言われましたが、技術革新(イノベーション)や実証実験が進んで、むしろ太陽光発電や風力発電の方が、安くて効率的、安定供給も可能という現状が生まれています。

このエネルギー転換に乗り遅れ、いつまでも石炭、石油に頼っていると、その方がコスト高になり、いずれ調達が難しくなると見込まれます。

再生エネルギーへの転換は、エネルギー自給率を高めて「エネルギーの安全保障」(自国を守ること)をするためにも有用です。


全産業で「脱炭素」に挑もう

──エネルギー危機が、ビジネスや生活に深く関わっているのですね。

脱炭素の動きは、エネルギーだけでなく、全産業におよんでいます。世界では「ネットゼロ」や「カーボンニュートラル」が大きなテーマです。つまり、脱炭素のことですが、ものづくりからサービス業まで、いかに「二酸化炭素などの温室効果ガス(GHG)を出さないか」という挑戦が続いています。

すると、日本の企業もこれに積極的に取り組まないと、投資を受けられなくなったり、サプライチェーンやバリューチェーンといったビジネスの網の目からはずされてしまいます。


国際競争力を維持しよう

長期的なリスクとリターンを考える機関投資家が、サステナビリティの投資をしています。世界の投資額の約1/4がすでにそうなっています。インパクト投資、ESG投資、サステナビリティ投資などと呼ばれる投資です。これを受けるために法規制やビジネス環境を変化させていくことが必要です。

また、たとえばApple社は、取引にかかわる全パートナーに「カーボンニュートラルを実現するよう」に通達を出しています。そのため、Appleと取引をするためには、サプライチェーン(素材の調達や上流の工場など)やバリューチェーン(流通、販売などを含む取引先のすべて)として、カーボンニュートラルを実現できる体制でないとなりません。

こういったことが、グローバル化したビジネスの中で求められています。変化はとても速いものです。日本の国際競争力を維持し、経済を活性化するためにも気候危機、気候変動への対策が必要とされています。


参考:Science Based Targetsイニシアティブ(SBTi)とは – WWFジャパン
日本企業SBT認定・コミットが1000社超え – WWFジャパン
電力調達ガイドブック 第8版(2025年版)自然エネルギーの電力を増やす企業・自治体向け – 自然エネルギー財団


取材/写真/文:木村洋平