特に2010年代から、資本主義の中で自然環境を守る動きが急速に広がっています。政府、企業、環境団体、金融機関が協力してサステナビリティを進めているためです。
* この記事で紹介するのは、ひとつのものの見方です *
今、資本主義の大きな動きと世界中の「環境を守る」動きが重なりつつあります。これまではむしろ「資本主義の活動が環境を破壊する」という見方が主流でしたが、それが変化しています。
数字で見ると、世界のサステナビリティに向けた投資(=ESG投資)は増え、ESG投資の額は2022年に世界全体で30.3兆ドル(約4,500兆円)、世界全体の投資額に占める比率は24.4%になりました。
参考:【金融】世界のESG投資統計「GSIR 2022」ESG投資比率25%。定義変更で時系列比較不可能に – Sustainable Japan
この記事では、サステナビリティが盛んになったこの10年〜30年ほどの流れをおおまかに見ていきます。
資本主義と「環境を守る」がつながる
資本主義は今、「環境を守る」方向に舵(かじ)を切ろうと必死です。
もともと「環境問題」がよく取り上げられるようになったのは、特に20世紀の半ば頃からです。「農薬が生態系をこわす」「海のプラスチック汚染」、公害、放射能など多くの例があげられます。これらに環境団体や環境活動家が反対しますが、すると政府や大きな企業と対立することもよくありました。
しかし、1992年の地球サミット(国連の会議)で「持続可能性(サステナビリティ)」という言葉が注目されます。2006年には国連がPRI(責任投資原則)を公表し、これがESG投資の基準になっていきます。そして、2010年代以後は世界の資本主義が目に見えてサステナビリティに向かって変わっていきました。
サステナビリティが進んだきっかけのひとつは、2008年に起こったリーマン・ショックでした。この時、「世界を金融危機と不況がおそったのは、資本主義が強欲(ごうよく)な株主と企業によって動かされるからだ」と批判する声が高まりました。これはもっともなことで、株主や企業の一部は姿勢をあらため始めます。
同じ頃、気候変動に対する危機感もいよいよ高まっていました。2010年代の前半には、たとえば環境NGOがアップル(iPhoneやMacで有名)と対話して、アップルはサステナビリティを経営方針に組み込むようになりました。そういう風に、環境団体は政府や大きな企業と「対立する」存在であるよりも、かえって有益な助言をしたり、研究成果を提供したりしていっしょに行動するようになっていったのです。
こうして政府、企業、環境団体、学者や研究者らが協力し合って、環境を守る動きやサステナビリティを強めていきました。
環境を守るために企業や組織が動いている
このように世界でサステナビリティが進むと、資本主義の中にいる企業がみずから気候変動(地球温暖化)に対応するようになります。エネルギー源を石油・石炭から再生エネルギーに移すようになり、省エネも進めました。森林の保全・育成も手がけます。こうした事業の変化により、多くの企業がCO2(温室効果ガス)を減らすように努めています。自然環境の持続性・安定性がなければ事業ができませんし、世界のトレンドや新しいルール、基準を無視すれば企業として生き残れなくなるからです。
気候変動にかぎらず、自然環境の全体を守るための変化も多くあります。農業では化学肥料を減らし、有機農業が増えました。世界の有機農業の面積は、2007年から2022年までに3倍以上になっています。
参考:令和5年度 食料・農業・農村白書(令和6年5月31日公表)141ページ
漁業・水産業でもサステナビリティは世界的に呼びかけられ、実践されています。国際的に過剰漁獲(魚のとりすぎ)を禁止し、海の環境や生態系を保つためのルールと仕組みが作られています。日本でも持続可能性を意識して2018年に漁業法が改正されました。
日本では2006年に小売のイオンがアジアで初めて、MSC認証(持続可能な水産物の認証)のついた天然魚を発売しています。また、2024年に10回目を迎える東京サステナブルシーフード・サミットは漁業・水産業に関わるさまざまな企業や組織が集まって情報や意見を交換できる場所です。
このように自然環境を守るために、資本主義の枠組みの中で政府や企業が協力して行動しています。
参考:これだけは知っておきたい改正漁業法のポイント – シーフードレガシー
金融機関がサステナビリティを引っ張る
金融機関や投資家もサステナビリティを大切に考え始めました。投資は、世の中を動かす大きな力です。投資家の意向を聞きながら、企業も事業を進めるからです。
「投資家」の中でも特に大きいのは機関投資家です。機関投資家とは個人投資家ではなく、組織として預かった大きなお金を運用する組織のことです。具体的には年金基金、保険会社、運用会社などです。
これらの金融機関は、年金や保険を支払っているお客さま(国民、市民)からお金を預かっています。ですから社会的な役割として安定した運用が求められます。そのため、預かった年金や保険をお客さまに返す時まで長期的に考えた投資をします。
したがって、機関投資家の投資はESG投資になりやすいのです。冒頭のところで「ESG投資の額は2022年に世界全体で30.3兆ドル(約4,500兆円)、世界全体の投資額に占める比率は24.4%」と紹介しました。これは機関投資家の行動によるところが大きいです。
こういう機関投資家が、投資を通じて世界のサステナビリティを引っ張っています。投資先の企業と対話し、気候変動対策や環境の保護・回復をするように説得し、そういう方向に事業を変化させれば、優先的に投資をするといった対応をします。
日本全体のESG投資額もこの10年で大きく伸びました。2014年には0.9兆円だったのが2018年に200兆円を超え、2023年には537兆円になっています。日本の機関投資家の中でも、私たちの年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は巨大な額を動かし、ESG投資に積極的であり、業績がよいことで知られています。
まとめ
今回は、地球規模の話になりました。企業、環境団体、金融機関は「環境を守ろう」とする動きを進めています。これもサステナビリティの一面です。この30年や直近の10年で世界の資本主義が急速に変化し、環境や社会にプラスであろうとする動きが高まったことに目を向けるのは大切だと思われます。
参考
どうして気候がおかしくなっているの?(地球温暖化と気候変動)- エシカルSTORY
『ESG思考 激変資本主義1990-2020、経営者も投資家もここまで変わった』夫馬賢治 講談社 2020
『ネイチャー資本主義 環境問題を克服する資本主義の到来』夫馬賢治 PHP新書 2022
『ESGとTNFD時代のイチから分かる生物多様性・ネイチャーポジティブ経営』藤田香 日経BP 2023
文:木村洋平