冒険遊び場をつくる〜理念と学び合いの27年〜(岡本恵子さん)

子どもたちが屋外で遊べる「冒険遊び場」を運営してきた岡本さんは、活動の理念を大事にしてきました。そして、子どもたちや活動から学んだことが自分の子育てと人生を豊かにしてくれたと語ります。

岡本さん
岡本さん

取材日:2024年8月22日

「冒険遊び場」は子どもたちが屋外でのびのびと遊べる場所を作る活動です。岡本恵子さんは、東京・町田市で冒険遊び場をつくる活動にかかわって27年が経ちます。今は「せりがや冒険遊び場(せりぼう)」の運営にたずさわっています。どんな思いをもって取り組んできたのか、なぜ長く続けられたのかを伺いました。

せりがや冒険遊び場の風景旗がかけられ受付がある広々している
せりがや冒険遊び場


理念を大切にして活動を続ける

──岡本さんはどんな思いをもって、この活動を長く続けてきたのでしょうか。

岡本恵子さん:「私は自分たちの活動の理念(ビジョン)をこんな風にまとめています。

“私たちは、子どもが安心して自由に遊び育ち、世代を越えて交流できる地域を、みんなで作りたいと願っています。”

私は冒険遊び場をつくる活動を27年続けてきましたが、中心にある思いはこう表現できます。

せりがや冒険遊び場の理念私たちは子どもが安心して自由に遊び育ち世代を越えて交流できる地域をみんなで作りたいと願っています
せりがや冒険遊び場の理念

* ここで紹介しているのは、「NPO法人日本冒険遊び場づくり協会」公式の見解ではありません。あくまで岡本さんやいっしょに活動する「せりがや冒険遊び場(せりぼう)」のメンバーが共有している理念です。

冒険遊び場のよいところは自然のなかで、火、水、木、土にふれながら、思いっきり遊べること。ケガや失敗もふくめていろんな体験をできることが大事だと考えています。ですから、ルールや制限をなるべく少なくしています。泥だらけになって笑って遊ぶ子どもたちを見ると、私たち運営側もうれしくなります。

幼児の穴掘り
穴掘り

冒険遊び場は屋外にあります。屋内の環境は一定に保てますが、屋外はちがいます。自然は思い通りにならない。暑い日もある、雨の日もある。木の根につまずいて転ぶかもしれないし、虫も出ます。でも、そういう場所で「出会って、遊んで、仲間になる」体験ができたら、子どもにとってかけがえのない財産になると思います。

ハンモックで遊ぶ小さな子供たち
ハンモックで遊ぶ

せりぼうでは、体ぜんぶを動かす外遊びだけでなく、絵を描いたりものを作ったりもします。よく手を動かし、表現をします。「表現は人を救う!」と私はいつも思っています。

子どもたちが作った木工作品
木工作品

今はいろんな子がいますし、多様性の時代でもあります。

“学校に行っている、行っていない、障がいがある、ない、国籍、性別、年齢に関係なく「僕らが僕らになれること、私が私でいられること」そんな場所を目指して、ここには寄り添う自然と人がいると伝えたい。”

そういう思いがあって、活動仲間やボランティアで来てくれる学生や大人のみなさんと遊び場をつくり続けてきました。世代を超えた人とのつながりも大事ですよね。

高校生ボランティアが竹を運ぶ
高校生ボランティア

また、親同士の交流も生まれてきました。そこで、「乳幼児親子のまったりスペース」(にじいろ・ひろば。屋外型子育て広場)をつくる活動もはじめました。今は「孤育て」(こそだて:孤独な子育て)という言葉もあるくらい、親のつながりや親が話せる場所が求められています。

にじいろひろば屋外の子育て広場
にじいろひろば

これから、下の世代にこの活動を受け渡していく時には、理念(ビジョン)をしっかり伝えたいです。


子どもたちとの学び合いに支えられて

──27年続けてこられたのは理念を大事にしてきたからでしょうか。

“私たちは、子どもが安心して自由に遊び育ち、世代を越えて交流できる地域を、みんなで作りたいと願っています。”

せりがや冒険遊び場(せりぼう)の理念


岡本さん:それもあります。理念があったから、ボランティアかボランティアに近い待遇でも時間や労力をかけてこられました。ただ、理念がすべてではないです。

こういう活動をしていると、「自分は子どもたちのためにやっている!」と思い込みそうになることがあります。でも、「自分のため」という面もあったよね、と気づきます。私はこの活動を始める前、ひとりの親として、自分の理想を子どもに押しつけるような育て方をしていた時期がありました。それはよくなかったと思っています。

しかし、冒険遊び場の活動にかかわり、子どもたちが楽しそうに遊んでいるのを見て「こういう楽しさって大事だ!」と知りました。「子どもらしい」や「ありのまま」と言われるようなことです。そうやって何年もかけて、自分のなかにあった子育てのこだわりが溶けていったと思います。自分も楽になったし、自分の子どもたちも楽しそうに変わっていけた。それは自分の人生にとってとてもよかったことです。

せりぼうポスト意見箱になっている
意見箱になっているポスト

子育ては一人ではできない、と感じます。いろいろな人とのかかわりがあって、やっとできることです。そういう意味で、子どもたちや活動の仲間との学び合いが私の人生を豊かにしてくれたと思っています。冒険遊び場へのかかわりを通じて、「みんなが “自分が自分でいい” と思えるようになるといい」と強く感じています。

私は「冒険遊び場」という場所やそこにある道具そのものより、そういう根っこのところを一番大切にしていきたいと思っています。

子どもの遊びのための本棚
屋外にある本棚
どんぐりなど作品のオーナメント
作品のオーナメント


せりがや冒険遊び場(せりぼう):https://seribou.jimdofree.com/


おまけ 詩「どんぐりの平和」

今回、取材にこたえていただいたお礼に岡本さんとせりぼうのみなさまに詩を贈りました。みなさんよろこんでくださり、岡本さんから掲載のご希望をいただいたのでここに載せます。


詩「どんぐりの平和」

いい匂いがする。秋の香りだ
土と竹と杉の木が生えている
人が踊っている
もうすぐお祭りがあるから
練習中

学生さんたちは布やペンで
なにかを作っているようだ
小さな子は
木製の汽車を押している
スタッフは弁当をスズメバチに食べられて
虫取り網をもってきた

ハンモックに揺られて
そよかぜのせせらぎ
竹やぶは生きている

木々の葉は入浴している、午後の日に
スコップとバケツと蚊取り線香
バケツはうちにも欲しい

秋の空気は少し甘い
どんぐりの平和



取材・文・詩・写真:木村洋平
写真提供:NPO法人子ども広場あそべこどもたち