まちだ自然エネルギー協議会は、自然エネルギー(再エネ)を自分ごととして考える場をつくります。その場作りを通して、ボトムアップのまちづくりに貢献することを目指しています。
取材日:2024年6月5日
今、「自然エネルギー」(再生可能エネルギー)が注目されています。太陽光パネルを使ったり、風車で発電したりする方法です。こうした新しい発電を使うことは地域の自治ともかかわります。
東京 町田市で「自然エネルギー×地域」のお仕事をされている「まちだ自然エネルギー協議会」の入澤滋(いりさわ しげる)さんにお話をうかがいました。
自然エネルギーとは?
──自然エネルギーとはどういうものですか。
入澤さん:大きく5つあります。太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマスですね。
「自然エネルギー」は自然界にあるエネルギーのことで、「再生可能エネルギー」(再エネ)ともいいます。太陽光や水力などは、半永久的に使える力です。消費する一方である化石燃料(石炭、石油など)や原子力エネルギーとくらべて、これらを「自然エネルギー」と呼んでいます。
たしかに化石燃料も「太古の昔の植物」でできているという意味では「自然」のエネルギーですが、ふつう自然エネルギーとは呼びません。太古の昔から蓄積されたCO2(二酸化炭素)を大気中に出して、あと戻りできない気候変動の原因になるからです。また、原子力は放射性廃棄物にふくまれる放射性物質が人体や生命に悪い影響があり、今の科学では地下に埋設して時間が経つのを待つしか処分法がありません。無害化するのに10万年かかるともいわれており、「自然」でも「再生可能」でもありません。
システムエンジニアに訪れた転機
──入澤さんが、まちだ自然エネルギー協議会を共同代表として立ち上げられたきっかけはなんですか。
きっかけは、2011年の東日本大震災でした。福島第一原発の事故も重なり、2万人以上が生まれた土地をはなれざるをえませんでした。首都圏でも計画停電がありました。それまで、原発は「明るい未来のエネルギー」といった言い方で宣伝されていましたが、リスクがとても大きいことがわかりました。
* 2024年2月1日時点で、震災と原発事故による福島県内外への避難者は26277人。うち、20279人が県外に避難しています。(福島民報のサイトより)
私は、当時システムエンジニアとして働いていました。その日までエネルギーを意識しないで生きてきたどころか、仕事上、電気を使うのが当たり前でした。そういう生活を見直そうと思ったとき、「トランジション・タウンまちださがみ」の存在を知り、参加しました。
トランジション・タウンは、イギリスにはじまった運動で「市民の力を合わせて、持続可能なまちを作ろう」という集まりです。そこで今の仲間と出会い、まちだ自然エネルギー協議会を設立しました。
参考:NPO法人 トランジション・ジャパン(トランジション・タウンを広げる組織)
コンセントの向こう側
──入澤さんが自然エネルギーを広めるとき、大切なポイントとして伝えていることはなんですか。
「コンセントの向こう側」を考えようと伝えることを大切にしています。これは「コンセントの向こう側にある世界まで想像できますか」という問いかけです。コンセントの向こう側には送電線があり、変電所や発電所があります。
私たちは電力会社と契約して電気を使いますが、はたして自分は「どの発電所の電力を使う」ことを契約しているでしょうか。電気は、物理的な意味では送電線のなかで混ざりますが、契約上はどこかの発電所の電気を使います。
たとえば、東京電力管内では、自然エネルギーが約2割あります(電力ベースで計算)。
2016年4月1日以降、電気の小売業への参入は全面自由化されました。そのため、私たちはどの電力会社の、どのように発電された電気を使うのか選べるようになりました。
自然エネルギー協議会ではそうした背景の話もしながら、「コンセントの向こう側」に想像力を広げてみましょうと呼びかけています。
小規模分散型の発電は防災・減災に役立つ
──自然エネルギーの電力について考えることは、料金プランなどでわかるメリットのほかに、どんなメリットがあるでしょうか。
防災や減災の役に立ちます。
たとえば、まちだ自然エネルギー協議会では、おりたためる太陽光パネルと蓄電器を使った「ベランダ発電のワークショップ」を開くことがあります。これも自然エネルギーのひとつです。停電が起こっても、ベランダ発電ができればスマホやラジオ、懐中電灯を充電できます。
また、市役所でのイベントで「自転車発電」の展示をしたこともあります。自分で自転車をこぐとわかるのですが、白熱電球をつけるのには時間がかかります。しかし、LEDのライトはすぐにつきます。部屋の照明をLEDにしたり、災害時のためにLEDランタン、LEDライトを用意するのは効率がよいとわかります。
それから、町田に「市民発電所」を作っています。2017年から2018年にかけて、まちだ自然エネルギー協議会の有志メンバーで株式会社を作り、私募債を募って「生活クラブ館まちだ」の屋上に太陽光パネルの発電設備を作りました。その電力はFIT(フィット:固定価格買取制度)を使って、東京電力パワーグリッドを介して生活クラブエナジーに売っています。
ここで発電された電気は、停電や災害などにより送電線が使えなくなったとき、非常用に切り替わり、生活クラブ館内で使えるようになります。これは柔軟で、レジリエント(対応力が強い)な仕組みであり、「エネルギー自治」といえます。
このように自然エネルギーは「小規模分散型」のよさがあり、防災・減災に役立ちます。その点が、火力や原子力の大きなプラントから広域に送電する仕組みとはちがいます。
* 2018年9月6日に大きな地震(北海道胆振東部)があったとき、北海道の全域で「ブラックアウト」と呼ばれる停電が起こりました。これは苫東厚真火力発電所が大きなプラントであったため、地震の影響でその発電が止まったとき、電力の需給バランスがくずれ、送電網の全体に不具合が生じたからです。このブラックアウトは「小規模分散型」ではなく、大規模集中型の仕組みであったために起こったといえます。
ボトムアップによるまちづくり
──入澤さんのお仕事は、地域や市民の活動とつながっているのですね。
私は町田生まれ、町田育ちで郷土愛があります。子どもの頃に見ていた山並みを見ると、ほっとするんですよね。
エネルギーの話も、気候変動のように世界規模の話になると、あいまいなイメージで考えてしまいがちです。だからこそ、みんなで「自分ごと」として考えるにはどうしたらよいかを工夫しています。それが「市民発電所」や「エネルギー自治」につながりました。
今やりたいのは、町田で「気候市民会議」を立ち上げること。気候市民会議は2020年の札幌以来、日本各地で開かれています。市民が気候変動について話し合い、提言をする集まりです。
これまで日本では、市町村の行政がトップダウンに啓発をしたり、プランを作って発表したりすることが多いですが、自然エネルギーや地域づくり・まちづくりの観点から、ボトムアップに切り替えていきたいと思っています。市民の草の根の活動が、まちづくりにじかにつながっていくという形です。
──入澤さんのお仕事はやりがいがあるだけでなく、楽しそうです。
ひととかかわるのは楽しいです。町田は歴史的に「クロスポイント(十字路)」だといわれます。幕末には八王子方面と横浜をむすぶ「絹の道」(シルクロード)が通り、鎌倉時代以降、大事な交通網であった鎌倉街道と町田でクロス(交差)しています。
今は、小田急線とJRが交差していますが、町田はひとが交わる場所なのです。
協議会の中も、開催するイベントや勉強会も、ひとが集まる楽しい場所にしたいといつも思っています。おしゃべりもあれば、公共的な話題もあり、わいわい議論することもできる。私はそういう場が好きなのです。
まちだ自然エネルギー協議会は、講演や啓発をするイベント屋さんであるよりも、エネルギーやまちづくりを自分ごととして考えられる開かれたプラットフォームであろうとしています。
取材・写真・文:木村洋平
参考記事