ジェンダー平等推進国のアイスランドの運命の一日を振り返る映画『女性の休日』について対談し、感想をシェアして、アイスランドの事例を日本のジェンダー平等にどう生かすのかについて考えてみました。

アイスランドの「女性の休日」から50周年を祝う映画
ジェンダーギャップ指数ランキングで16年連続1位に輝くなど、ジェンダー平等の推進国として知られるアイスランド。(ヨーロッパの北にある島国)。
ドキュメンタリー映画『女性の休日』は、ジェンダー平等で世界一のアイスランドで、1975年に始まったムーブメントを紹介する映画です。その日、アイスランドの女性の9割が家事や仕事を一斉に休みました。50年前のその「女性の休日」と名付けられた運動から、アイスランドのジェンダー平等はどんどん推進され、今では世界一と評価されるようになりました。
ドキュメンタリー映画『女性の休日』は、アイスランド旅行中に偶然「女性の休日」のことを知った、アメリカ人のパメラ・ポーガン監督により、映画化された作品です。
今回は、ライターのkagari(筆者)が聞き手となり、エシカルSTORY代表・編集長の木村洋平さんと対談しました。映画の感想のシェアや日本のジェンダー平等について話したことをお届けします。
作品の感想

© 2024 Other Noises and Krumma Films.
──日本では2025年10月に公開され、多くの人々の共感を呼び話題となっている『女性の休日』ですが、作品を観た感想を教えてください。
関係者の証言や当時の映像資料を中心に、「女性の休日」運動の構想・計画から当日までの様子を紹介する内容になっていますね。途中で、何度もアニメーションが差し込まれる構成がよいと思いました。
僕は、どんなテーマであっても、ドキュメンタリー映画を観るときは「キツイ内容もしっかり受け止めないと」と身構えてしまう部分があるのですが……実写・ルポルタージュの映画の中で、たびたびアニメーションが組み込まれることで、観客が柔らかく受け止められる効果を生んでいますよね。やさしい配慮だと感じました。
オンラインで感想や批評を見ると、特に女性の共感を呼び、話題になっている本作『女性の休日』ですが、僕が実際に映画館(渋谷 イメージフォーラム)に足を運んでみると、男性の観客も多くいてうれしく思いました。
また、上映後は映画館の中が満足感と柔らかい雰囲気に包まれていたような印象を受けました。2人、3人で見に来ていて、和やかに笑って会話している人たちもいました。
そういうリアルな感覚を得られたので、映画館で見てよかったと思うし、みんなの雰囲気に僕も安心感を覚えました。ありがたいことです。
アイスランドのジェンダー平等の歴史から見えること

© 2024 Other Noises and Krumma Films.
──アイスランドがジェンダー平等に向け歩みだした50年前当時は、「女性の休日」ムーブメントでは、ジェンダーについて「男女」の枠でのみ語られていました。しかし、今はLGBTQや外国人女性なども含めマイノリティ(少数者)の権利向上を訴える動きにアップデートされているそうです。
なるほど。そうなんですね。広く人権や多様性(ダイバーシティ)、寛容の大切さの話ですね。
僕はジェンダー平等について考える時、ポイントが2つあると思っています。相対指標と絶対指標の2つです。まず、日本のジェンダーギャップ指数は、148カ国中世界で118位です。この順位は少なくとも約20年くらい、変わっていません。(日本のジェンダー・ギャップ指数の推移 内閣府資料)。G7やいわゆる先進国で「最下位」と言われ続けています。日本はジェンダーの不平等がとても大きい国です。これは世界の中で見た相対的な位置づけです。
次に、賃金格差や議会における女性比率などの絶対的な数値です。たとえば、日本の企業における女性の管理職の比率は、日本の中で「〇〇%」という話です。これは「相対的(ほかと比べて)」ではなく、絶対的な数値として低いので、この数値を上げていくことが大事だと考えられます。この数字は「他の国の状況がどうこう」とは関係なく、出てきます。(日本の女性の管理職比率は13%程度(課長相当職以上)。(2023年調査 厚生労働省)。
ちなみに、統計や調査ではなく、僕の個人的な感覚でお話ししますと……僕自身がフリーランスや起業家として、国内でいろいろな組織や人と関わってきた経験から言えば、優秀な働き手はどの分野でも女性の方が多いと感じています。フルタイムの正規職でも、フルタイムの非正規でも、それ以外の雇用形態でも、女性の方が優秀だったり、創造的な発想を自分から提案していたりしました。また、女性の方がチームや社内外で、人間関係の調整役がうまく、活き活きと働いている印象が強いです。勤め(サラリーマン)やパート、フリーランスについてはおおまかにそうでした。一方、創業オーナー(創業者として社長になる)として優秀、またはすでに成功した人の多くは男性でした。これは個人の経験から言っています。僕が関わってきた業種や地域に偏りはあるでしょうし、僕の感じ方、考え方が反映されています。
なににしても、男女の賃金格差がはっきりとあり、女性の方が非正規雇用の割合がずっと高く、したがって女性の賃金・待遇・雇用の安定性が低いのが、日本の現状です。今だけでなく、これまでも長くそういう傾向が続いてきました。賃金の格差は、国際的に比べてみても大きなものです。(男女賃金格差 内閣府, 就業をめぐる状況 内閣府)
こういう状況を理解して、データにもとづく知識をシェア(共有)して、みんなの意見や感想を集めていけるとよいのでしょう。
(kagari)──私自身、30代になって、会社で後輩ができたり、管理職になったりするなど、責任ある立場になる友人が増えてきたタイミングです。そういう時期なので、「女性として働く中で感じているもやもや」についての話題が、「ジェンダー平等」というテーマへの関心の度合いに関わらず、圧倒的に増えたなと感じています。
日本で「女性活躍」が叫ばれて約10年となりますが、前進もしている一方で転職活動時に「子どもを作る予定があるか」を質問されたり、いわゆる「子持ち様」という言葉の問題(子供を持つことが高いステータスとして評価され、ねたみや嫌がらせの原因になること)による分断、もともとは専業主婦がいてこそ可能だったサラリーマンの働き方である、長時間労働を前提とした社内の風土が残っているなど、さまざまな課題が残っています。周りの知人・友人からは、残念ながら時代の流れと逆行した話をまだまだ多く耳にします。
上に挙げたような、男女平等への意識が低い企業は、パワハラ、セクハラがあっても処罰されないなどの問題を抱えていることも多く、一時的に鬱状態になったり退職に追い込まれた友人も何人もいます。
女性の働きやすさを追求することは、結果的にすべての人の働きやすさにつながるはずなのですが……
ジェンダー平等から、マイノリティを包括した平等へと世界の国々が舵を切る中で、日本においてはまだまだ基本的な女性の権利向上を訴え続けていく必要があると思います。
(木村) そうですね。僕はフリーランスや起業家として、一つの会社や一つの組織に限定されることなく、いろんな組織や人とお話しする機会、仕事をする機会を持ってきました。その中で、女性が働きやすい組織は、男性も働きやすく、若い人や障がいを持った人、不器用さや能力のアンバランスがあったりする人も、働きやすい組織なのではないかと感じています。たとえば、活気があって、会話や笑顔が見られ、性別や年齢がちがっても、人として対等にコミュニケーションができる組織はいいですね。
大きな話をしてもよければ、僕は一番重要なのは、当たり前ですが「経営」だと思います。「経営(マネジメント)」という言葉の意味はとても広いですが、P.ドラッカーの『エッセンシャル版 マネジメント 基本と原則』や『エグゼクティブの条件』などの本は、経営の基本がよくまとめられた最高の古典だと僕は考えています。こういった基本を押さえた経営がされていれば、女性も働きやすい企業や組織になるのではないでしょうか。
単純に、合理的に考えて、多様な人が働きやすくなり、よく考えて働いた人が報われ、挑戦する人が称賛される方がよいです。そうすれば、組織や会社として利益や成果を上げる、という意味でも効率がよくなるだろうからです。これが経営の原理原則を重んじることです。
また、これは僕の考えですが、ジェンダー平等とも関連して「よい経営とはなにか?」を4つ挙げてみます。
1. 組織やチームの、目的や目標をはっきりさせること。
2. その達成に役立つ、作業やスケジュール、規律、ルールが言語化されて明示されること。(この点は社内のビジョン、ミッションやルールにも当てはまりますし、外部から仕事にたずさわる場合には、交わす契約書の内容に当たります。)この時、それをめぐる情報公開に透明性があること。
3. 企業風土や企業文化、雰囲気がよいこと。
4. 経営者や上司が大きな枠を作り、守らせる。一方でマイクロマネジメント(細かい指示や取り決めなどにこだわる)はなるべくしないこと。
こういった点が重要だろうと思います。
女性の不利の是正をはじめ、多様性や寛容を尊び、組織の風通しをよくして、新しい挑戦や新しい才能を認めることを積極的におこなうことがカギでしょう。そのために、しくみやルールを刷新し、変革し続けるのです。
もう一つ、明らかにネガティブなことは禁止し、違反した人を処分することも大事です。松下幸之助さんの『道をひらく』では、「信賞必罰(しんしょうひつばつ)」という言葉が紹介されていました。これも経営の基本だと思います。
僕は20歳前後で上の世代の女性からパワハラを経験しましたし、それとは別に2000年の前後に、学内でセクハラが露見して裁かれた男性教官を見たりもしてきました。2件とも、1年以上にわたる関係性があり、嫌がらせや犯罪に当たる行為がくり返され、人間としてまちがっていました。そういうことをする本人も周りの人たちも、それがわからなければ、まともな社会は作れません。きちんと国家の法治や組織の賞罰があってほしいです。これは当たり前のことです。エシカルの土台であり、サステナビリティの根幹です。社会で言えば、警察や司法、市民の自治ですね。これが保たれるためには、声をあげられること、意見や思いを伝えられること、公平なしくみとルール、透明性があることなどが重要です。それはあらゆる経営と民主主義の基本に通じているはずです。
話を戻しますが、アイスランドの歴史を見ると、1975年に初めての「女性の休日」運動が実行された後、単発的なアクションにとどまらず、継続的に人々が声をあげ続けたことがわかりました。その結果が今のアイスランドの姿へとつながっているのですね。
一度で理想の結果を目指すのではなく、ねばり強く、継続的に声をあげ時代の流れにそってアップデートを続けることの重要さを、この作品や映画パンフレットから学びました。これは、今の日本の私たちの行動のヒントになりますよね。
──実は、力強く、ポジティブにまとまっている作品だからこそエンパワーメントされる人がいる一方で、「日本とは現状がかけ離れ過ぎているから、アイスランドの状態を目指すことはハードルが高すぎる」と感じあきらめてしまう人もいるのではと感じていました。
特に後者のような人たちにこそ、「女性の休日」から現在までに至るアイスランドの歩みをぜひ知って欲しいですね。
国際女性デーを「日本版女性の休日の日」へ!

© 2024 Other Noises and Krumma Films.
──ところで、日本でも作品の広がりとともに『日本版女性の休日』を企画する動きが出てきているようです。
これは「女性の休日 PROJECT」と題した取り組みで、サイト上では「#わたしが一日休んだら」をつけて映画の感想や日々感じるもやもやをSNSシェアすることを呼びかけたり、全国各地で開催予定の感想シェア会などイベント情報が掲載されています。
現状は作品を観ることを前提としたアクションの呼びかけが中心ですが、来年3月8日の国際女性デーに合わせ何かムーブメントを起こしたいと言った構想も進んでいるそうです。
日本でも「女性の休日」が当たり前となる日は近いかも知れません!
映画『女性の休日』概要
10月25日(土)より、シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー
監督:パメラ・ホーガン
出演:ヴィグディス・フィンボガドッティル、グズルン・エルレンズドッティル、アウグスタ・ソルケルスドッティル 他
エンドクレジットソング:ビョーク
2024年/アイスランド・アメリカ/アイスランド語・英語/71分/原題:The Day Iceland Stood Still
後援:アイスランド大使館
提供・配給:kinologue
公式サイト:kinologue.com/wdayoff
編集後記 kagariより
『女性の休日』は、シスターフッド(女性たちの連帯)の柔らかな革命のモデルのひとつです。男性を敵とみなすのではなく、一丸となり同じゴールに向かうことを促している女性たちの姿が印象的でした。
今回の対談の中では、上の対話のほか、ジェンダー平等にまつわるさまざまなもやもやのシェアを実施しました。
「まだまだ日本企業では週40時間×長期フルタイム前提が前提の雇用の在り方で、体力のない我々にとってはツライ」、「育休や時短にともなう復帰問題やフォローにあたる周囲の負担や無報酬の現状について」など、想像以上にさまざまなトピックが飛び出しました。
女性だけではなく男性の生きづらさへの解消にもつながる「もやもや」のシェア。
これは、ふだんの生活の中ではジェンダーについて話題に出すことが難しいと感じる人も、はじめの一歩としておすすめです。
参考: 日本社会も動かす?『女性の休日』が上映されるまで 山内マリコ対談 朝日新聞
50年前、アイスランドの女性たちが立ち上がった1日。映画『女性の休日』からジェンダー平等を考える【Steenz Breaking News】 | Steenz(スティーンズ)
(小学館運営の10代向けwebメディア「Steenz」内の、多様性時代を生き抜くティーンが知っておきたい、明日の話題にしたくなるソーシャルグッドなニュースコンテンツ【Steenz Breaking News】より)
プロフィール
kagari(エシカルライター)
エシカル・コンシェルジュ/ツーリストシップ検定修了者。学生時代に100本以上のドキュメンタリー映画を通し世界各国の社会問題を学び、事務職を経て2020年に独立。ソーシャルグッドを軸に社会派の映画レビューやサステナブルツーリズムの体験レポート、企業の事例紹介などを執筆する。
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