日本では今、837の企業、金融機関、自治体、NPOなどが「気候変動イニシアティブ」というプラットフォームに参加して、気候変動に対して積極的に行動しています。

取材日: 2025年3月10日
日本気候変動イニシアティブは、企業、金融機関、大学、地方自治体、NGO、NPOなどの非政府アクター(民間、自治体)が協力して活動するためのプラットフォームです。2018年に設立されました。
日本気候変動イニシアティブに参加する組織は、気候変動に対して高い意識を持ち、「パリ協定」や「1.5℃目標」に賛成しています。
この記事では、気候変動イニシアティブの共同代表 セルジオ加藤さんへの取材を通して、日本でも大きな企業や有名な金融機関をふくむ多くの組織が「気候変動」に対応し、行動していることを紹介します。
* パリ協定:2015年にパリでおこなわれた会議で決められた約束・ルール。地球温暖化をおさえるため、二酸化炭素などの排出を減らすことを定めた。パリ協定では、歴史上初めて世界のすべての国、196カ国が参加して行動を始めた。(参考記事 – 全国地球温暖化防止活動推進センター)
1.5℃目標:今のように地球温暖化が進む前(産業革命が起こる前。おおよそ250年以上前)にくらべて、地球の平均気温の上昇を1.5℃以内に収める目標のこと。
運営について
──気候変動イニシアティブは、 どのようなプラットフォームですか。
セルジオ加藤さん:気候変動に対して意識を持ち、行動する企業や金融機関、自治体らの集まりです。2018年に設立され、今では837の組織が参加しています。そのうち企業が578社あります。
私たちが事務局と運営団体としてとりまとめ、情報を交換し、気候変動に対して行動を起こしている非政府アクターが多くあることの認知を広め、政策提言(アドボカシー)をしています。
事務局は、自然エネルギー財団、WWFジャパン、CDP Worldwide-Japanの3団体で作られています。
* 自然エネルギー財団:自然エネルギーを広める公益財団法人。
WWFジャパン:自然保護、環境保全にかかわる公益財団法人。
CDP Worldwide-Japan:環境や気候変動について世界中で情報開示を進める非営利団体。
──気候変動イニシアティブは、どのようなきっかけで生まれたのですか。
気候変動イニシアティブは、2018年7月6日に105の団体で設立されました。そのほとんどが企業です。気候変動に対して積極的、野心的な人が集まって決めました。有名な企業ではたとえばソニーグループさん、中小企業では鈴廣かまぼこさん、ほか地方自治体としては東京都、横浜市、川崎市、北九州市などが設立時から参加しています。
設立のきっかけは、2017年に第1次トランプ政権が立ち上がったことです。トランプ氏は就任後、パリ協定から脱退することを決めましたが、アメリカの企業や州政府、都市などの自治体、軍や大学まで、1200以上の非政府アクターが立ち上がり ”We Are Still In”という組織を作りました。この組織が気候変動対策を進め続けて、トランプ大統領に対抗したのです。
当時、これを知った私たちは ”We Are Still In”にならって「日本気候変動イニシアティブ」を立ち上げました。「日本は気候変動にかかわるスピードが遅い」と世界から言われかねない状況でした。
ちなみにアメリカ、ヨーロッパ、アジアの各国にも”We Are Still In”や「気候変動イニシアティブ」のような組織があります。それらと横の連携をとって、対話や交流する場も作っています。
参考:“We are still in” パリ協定離脱宣言に立ち向うアメリカ – サステナブル ブランド ジャパン 2017 6/23
アメリカの非国家アクターが発信 – WWFジャパン 2024 11/15
──なるほど。「気候変動イニシアティブ」は企業が中心になって設立されたのですね。
そうです。今、837の団体(2025年3月21日現在)が参加しています(参加団体 一覧)。そのうち578が企業です。名前をよく知られた企業も多くあります。また金融機関が59の参加で、メガバンクや地方銀行、世界的な保険会社やアセットマネジメント(資産の運用会社)などもふくまれます。ですから、サステナビリティ投資(ESG投資、インパクト投資)にも関わっています。また、NPO、NGOが129参加しています。
実は私たちから一切、イニシアティブへのお誘いやリクルートはしていません。「参加要件を満たせば、誰でも参加できます。いっしょにやりましょう」という姿勢でいます。毎年、いろんな方々(組織)が自主的に入ってくれています。
気候変動イニシアティブの目的

──気候変動イニシアティブはどんな目的を持っていますか。
目的として「パリ協定」の目標実現を掲げています。日本政府に野心的な方針が見られなくても、非政府アクターとして一致団結しようと呼びかけています。
日本に先駆的、積極的、野心的な企業や団体があることは、国内でも国際的にも認知されるべきです。まだまだ十分に知られていません。
たとえば、世界で気候変動対策を進める中心的なイニシアティブであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やSBTi(Science Based Targets Initiative)、RE100(Renewable Energy 100)において、日本は賛同企業の数が世界の中で1,2位とトップクラスです。そのくらい日本の中では広まって、共有されています。こういうことがもっと知られてほしい。
参考:RE100について – RE100電力
そして、定期的な活動として政策提言(アドボカシー)をしています。これは非政府アクターの声を政府に届ける意味があります。
政策提言は毎年おこなっています。たとえば、2024年には東証プライム上場企業71社をふくむ236団体の連名で、気候変動を緩和するエネルギー方針の実現を求めました。2024年12月にこの提言書を浅尾環境大臣に手渡しています。
参考:【更新:236団体が賛同】1.5度目標と整合する野心的な2035年目標を日本政府に求める
イオンモール、NTTデータグループ、花王、コーセー、サントリーホールディングス、ソニーグループ、パナソニックホールディングス、明治ホールディングス、森永乳業、LINEヤフー、楽天グループ(敬称略)などの企業もこの提言に賛同してくれました。
──どのように提言書を作っているのですか。
事務局を中心にドラフト(提言の原稿)を作ります。一部のメンバー団体が手伝ってくれることもあります。ドラフトができたら、イニシアティブの全団体に開示して、賛成の場合は署名をもらいます。「気候変動イニシアティブ」という1組織の名前で出すのではなく、賛同団体200〜400の連名で出し、環境省や経産省、大臣らに手渡すようにしています。
気候変動に対策をしないとどうなる?
──「気候変動」は近年、日本でも取り上げられますが、なにがどう大変なのか、よく知られていないように思えます。
はい。「地球の気温が少し上がる」「海面が上昇すると遠くの島がいくつか沈むかもしれない」という程度の、軽い印象を持たれることもあります。
異常気象→自然災害が起こる
──加藤様は「気候危機」とおっしゃいます。その「危機」を具体的にまとめてお話しいただけないでしょうか。
まずは、直接的な被害があります。地球が温暖化すると、単に「全体の気温が0.1℃上がる」というように変化するのではなく、大気の循環や海流が乱れ、自然災害が多発します。これが「異常気象」と言われますが、実は世界中で起きており、増えています。
熱波、豪雪、山火事、台風、水害、ハリケーンなど、さまざまです。加えて、海水温の上昇や氷河や氷床が溶けることによる海面上昇は、島嶼(とうしょ)や平地を海にしていきます。
ビジネスモデルが崩れる
こうした自然災害により、今あるビジネスモデルの崩壊が起こりえます。旱魃(かんばつ)や豪雨、海岸の浸水などにより、農業や漁業が続けられなくなったり、海に近い工場が停止したり。また、それらに対する損害保険が支払えなくなったりします。被害が増え、額が大きくなりすぎて、保険会社がもたなくなるからです。
こうしたことは、2025年2月のアメリカ、ロサンゼルスの山火事でも起こりました。被害が大きすぎて、保険額が引き上げられたか、保険に入れなくなりました。
日本でも、2025年3月までにあった日本海側の豪雪や大船渡の山火事は、気候変動の影響と断言してよいと考えます。
再生エネルギーに転換する
──自然災害が増え、ビジネスモデルが保てなくなる。ほかには、どんな影響がありますか。
エネルギーの転換が必要です。世界中で、気候変動対策として「脱炭素(だつたんそ)」が進み、化石燃料(石炭、石油)から再生エネルギーへの転換が進んでいます。

以前は「結局、化石燃料の方が安い。再エネは高い、非効率」と言われましたが、技術革新(イノベーション)や実証実験が進んで、むしろ太陽光発電や風力発電の方が、安くて効率的、安定供給も可能という現状が生まれています。
このエネルギー転換に乗り遅れ、いつまでも石炭、石油に頼っていると、その方がコスト高になり、いずれ調達が難しくなると見込まれます。
再生エネルギーへの転換は、エネルギー自給率を高めて「エネルギーの安全保障」(自国を守ること)をするためにも有用です。
全産業で「脱炭素」に挑む
──エネルギー危機が、ビジネスや生活に深く関わっているのですね。
脱炭素の動きは、エネルギーだけでなく、全産業におよんでいます。世界では「ネットゼロ」や「カーボンニュートラル」(「脱炭素」と同じ)が大きなテーマです。つまり、脱炭素のことですが、ものづくりからサービス業まで、いかに「二酸化炭素などの温室効果ガス(GHG)を出さないか」という挑戦が続いています。
すると、日本の企業もこれに積極的に取り組まないと、投資を受けられなくなったり、サプライチェーンやバリューチェーンといったビジネスの網の目からはずされてしまいます。
国際競争力を維持しよう
長期的なリスクとリターンを考える機関投資家が、サステナビリティの投資をしています。世界の投資額の約1/4がすでにそうなっています。インパクト投資、ESG投資、サステナビリティ投資などと呼ばれる投資です。これを受けるために法規制やビジネス環境を変化させていくことが必要です。
また、たとえばApple社は、取引にかかわる全パートナーに「カーボンニュートラルを実現するよう」に通達を出しています。そのため、Appleと取引をするためには、サプライチェーン(素材の調達や上流の工場など)やバリューチェーン(流通、販売などを含む取引先のすべて)として、カーボンニュートラルを実現できる体制でないとなりません。
こういったことが、グローバル化したビジネスの中で求められています。変化はとても速いものです。日本の国際競争力を維持し、経済を活性化するためにも気候危機、気候変動への対策が必要とされています。
まとめ
セルジオ加藤さんが国内外の企業や政府に対してはたらきかけているようなことを、私たちエシカルSTORYも一般向けに伝えていきたいと思います。
メディアとして、「かみくだいて、わかりやすく伝えること」「要点をしぼること」「短く何度も伝えること」が大切ではないかと考えています。
取材/写真/文:木村洋平