今「エシカル消費」は中学校・高校の教科書に載っています。エシカル協会はエシカルが広がるために教育が一番大事だと考えています。
取材日:2024年10月7日
今、教育の現場から「エシカル消費」が広がっています。エシカル協会はエシカル・コンシェルジュ講座、講演活動、行政への働きかけなどを通して、草の根の活動から「エシカル消費」を広めています。代表の末吉里花さんにお話をうかがいました。(以下、末吉さんの語り。)
中学校・高校の教科書に「エシカル消費」が載った
末吉さん:私たちエシカル協会は2015年に法人化していますが、「エシカル消費」をめぐる状況はその頃から大きく前進しています。
一番の変化は教育が変わったことです。2021年から中学校の教科書、2022年から高校の教科書に「エシカル消費」が掲載されるようになりました。それまでも家庭科の教科書には「グリーンコンシューマー」(「緑の消費者」の意味)という言葉が載っており、「環境に配慮した買い物」が大事だと説明されていました。
今は環境だけでなく、人権や生物多様性に配慮した「エシカル消費」の大切さが中学校・高校で教えられています。とくに義務教育に入ったことの意義は大きいでしょう。中学校の学習指導要領の前文にも、生徒たちが「持続可能な社会の創り手となることができるようにする」と明記されています。
「エシカル消費」をあつかう教科も増えました。国語、社会公民、英語など教科を横断してエシカル消費が取り上げられています。
ただ、学校によってエシカル消費をよく知っている先生がいるかどうかで、授業での扱い方が変わってしまう現状もあります。教科書に載れば十分ということはなく、生きた実践として伝えられるかが鍵(かぎ)だと思っています。
教員の方々の時間に限りがあるので、地域の企業や団体と連携をしたり、専門知識を持つ人材に伴走してもらいながら、子どもも先生も共にエシカル消費の実践を学ぶ機会を創出できないかと考えています。
スウェーデンの視察
エシカル協会では、サステナビリティ先進国であるスウェーデンの視察を何度かしています。スウェーデンではエシカルな商品の選択肢が非常に多く、暮らしにおけるサステナブルな取り組みが先進的なので、「なぜ、こんなにも進んでいるのですか」と聞くと「教育が第一だと考えている」と答えが返ってきます。
* 写真:スーパーの壁一面にエシカルな認証マークが掲示してある。「私たちはお客様が賢く持続可能な選択を簡単に行えるようにします」のメッセージ付き。企業も消費者の教育者になれる、という好事例。
スウェーデンの子どもたちは、幼稚園・小学校から環境教育やシチズンシップ(市民として誇りを持ち、どう社会に参画するか)について学びます。社会人になってからも新しく学ぶ機会があります。
日本はようやくスタートラインに立ったところだと感じます。エシカル消費は、全体として子どもたちの方が大人たちより理解している状況です。大人はスピード感を持って、できるかぎりのことをしなければなりません。
エシカル・コンシェルジュ講座には中高生や大学生もいて、学校の枠を越えてコミュニティを作るといった動きを見せています。エシカル消費が点だけでなく、線になり、面になり、若い世代だけでなく世代を超えて広がるとよいです。上の世代は若い世代の声に耳を傾けていくことが大事だと思います。
仕組みを変える
最近、「エシカル」や「エシカル消費」の説明の仕方を少し変えました。
これまで、エシカルを「おもいやり」や「足るを知る」といった日本が大切にしてきた精神と親和性が高いと伝えてきました。それは外来語である「エシカル」を日本に根づかせたいという思いもあったからですが、それだけだとエシカルな社会づくりを個人の精神面や技量に頼ってしまうことになり、進む方向もスピードもバラバラになってしまいます。
たとえば、ゴミの分別を世界で一番真面目にやってきたのは日本人で、特に「主婦」と言われている人たちが貢献してきました。しかし、今後高齢者、外国人、独身の人たちが増えていき、生活者の姿が変わっていく中で、今までのように個人に任せていくには限界があります。
いかに生活者が簡単に循環の輪の中に参加できる仕組み(しくみ)を作るか、を考える必要があります。これはゴミの分別だけでなく、他のテーマにおいても同じで、生活者が迷うことなく「正しい」ことを実践できる仕組みが社会の中に作られていかないと、大きな変革は生まれないと思っています。
行政への働きかけ
エシカル協会として行政への働きかけも続けています。私は環境省、農水省、消費者庁、経産省などの委員を務めており、消費者・生活者視点で政策策定の議論に加わっています。
現在、経産省と環境省で話し合われている主なテーマは循環経済や脱炭素です。岸田元首相がサーキュラー・エコノミー(循環経済)を国家戦略として位置付けたこともあり、首相官邸に呼んでいただき、有識者の立場から二度ほど提言をしたことがあります。
まとめ
エシカル協会は来年で10周年です。ここまでわき目もふらずに走り続けてきたと感じますが、ここからはいろいろな人たちと連携しながら、さらに輪を広げていきたいと思います。
“1人の100歩より100人の1歩が世界を変える。” ──エシカル協会ホームページより
参考記事
エシカルな若者、文化、未来を思い、語ること(末吉里花さん)– エシカルSTORY 2020年6月
今回はこの時以来、4年ぶりの取材でした。
取材・構成:木村洋平
文・画像提供:一般社団法人エシカル協会