【イベントレポート】イケア、産官学連携で「家での平等」をつくる「Life at Home 2050」を本格始動

イケアは「家での暮らし」をテーマに未来を構想する「Life at Home2050」プロジェクトを始めました。そのために他社やスウェーデン大使館、有識者とともに家から始まる「平等と多様性の受け入れ」について話し合うシンポジウムを開催しました。

イベントの登壇者
登壇した方々

取材日:2024年8月1

イケアは、北欧の家具メーカーとして日本では有名です。

イケアは「より快適な毎日を、より多くの方々に」をビジョンとするスウェーデン発祥のホームファニッシングカンパニーであり、その日本法人イケア・ジャパン株式会社は、イケア・ジャパンが 2010 年に制定した8月1日の「やっぱり家の日」を記念して、今年、産官学の協働で、2050 年に向けた未来の家での平等について考える取り組み「Life at Home 2050」を始動することを発表しました。

「Life at Home 2050」において大切にされていることの一つが「平等、多様性、多様性の受け入れ」(Equality(平等)、Diversity(多様性)、Inclusion(多様性の受け入れ、包摂))です。イケアは、これらがまず家から始まることが大事だと考えています。

こうした趣旨(しゅし)でイケアは産官学の連携を呼びかけ、今回のイベントを主催しました。以下、レポートします。


代表取締役社長 兼 CSO ペトラ・ファーレ氏の話

はじめに登壇したのは、イケア・ジャパンの代表取締役社長 兼 Chief Sustainability Officer(サステナビリティのトップ)であるペトラ・ファーレ氏です。

ペトラファーレ氏

“イケアはビジョンとして「より快適な毎日を、より多くの方々に」をかかげています。それにもとづいて2010年に8月1日を「やっぱり家の日」と制定し、家の大切さや、家で過ごす快適さを再認識してもらうことを目指しました。14年目となる今年の「やっぱり家の日」は「家での平等」について考え・取り組むシンポジウムを開催し、「Life at Home 2050」を本格始動することを発表します。

家から始まって職場や社会へと平等で多様なコミュニティは広がっていくでしょう。そのために2050年の未来を見すえて、「Life at Home 2050」の取り組みを始めます。この取り組みでは、イケア・ジャパン一社ではなく、他の企業や行政、有識者・大学と連携して幅広くアイデアを集め、協力していきます。

よりよい未来は作れます。そのためには、「刷新して改善する」姿勢が大切です。これはイケアが大切にする価値観の一つでもあります。スウェーデンの先人たちも一つ一つ、ことを進めて平等や多様性の実現に近づいてきました。平等は家庭から始まります。私たちも行動を始めましょう。”

参考:イケアのビジョンとバリュー


スウェーデンの歴史:男女平等への歩み

次に、駐日スウェーデン臨時代理大使 ヨハンナ・リンドクイスト氏がスウェーデンにおける男女平等への歩みをかんたんな歴史としてまとめました。

ヨハンナリンドクイスト氏

“スウェーデンは現在、世界でもEU(欧州連合)でも「最も男女の平等が進んでいる国」になっています。その歩みを振り返ると、1970年代から経済的な平等を目指して税制が改革された、公的保育が充実して女性が働きやすくなった、また、だんだんと男性が育休を取りやすくなっていったという歴史があります。今も女性の方が家事をする時間は長いですが、ジェンダーギャップは少なくなってきています。

さらに、ジェンダー平等の取り組みは、女性だけでなく男性にもメリットがあります。働く人がワークライフバランスをとれるように制度を変えたことで、今まではフルタイム労働をしてきた男性が、もっと家事や育児、介護などに関わりたい場合、それを後押ししてもらえます。そのことで、男性もキャリアの自由度や選択肢が増えてきました。今後も、国レベルで改善の努力は続くでしょう。”


パネルディスカッション

後半のパネルディスカッションは、主に東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授 治部 れんげ氏、株式会社 Laere 共同代表 大本 綾氏、イケア・ジャパン株式会社 Country People & Culture Manager 朝山 玉枝氏の3人で進められました。さらに花王株式会社 ESG 部門 マネージャー 菊地原 優子氏、パナソニック コネクト株式会社 人事総務本部 DEI 推進室 シニアマネージャー 油田 さなえ氏、イケア・ジャパン株式会社 IKEA港北 マーケットマネジャー 菅野 秀紀氏がコメントを寄せました。

その中で、いろいろな話題が取り上げられました。

・「家の中での平等」がなぜ大事かというと、それは親から子どもに受け継がれるから。子どもは親を見ているので、親が育休をとれるといったことが未来の家庭のあり方につながっていく。

・G7やG20などの経済先進国でみると、家事育児負担の割合は「女性:男性」の比でおおよそ 2:1 になっている。一方、日本だと5.5 : 1になっている。日本の家事育児負担の差は大きい。

・国連やEUでよく知られている 家の中の平等のために大事な3Rについて。
 「無償ケア労働」に、

  •  Recognition 気づく
  •  Reduction:減らす
  •  Redistribution:再分配する

ことを忘れない。

また、このシンポジウムの前におこなわれていたワークショップの結果が、グラフィックレコーディングとして紹介されました。

パネルディスカッションの様子とグラレコ

このグラフィックレコーディングの中で、「家」についての考え方は一つでなくてよい、固定観念をはずそうと提案されています。

最後に記念撮影があってシンポジウムは終わりました。


まとめ

男女のジェンダーギャップ(政治・経済・社会の中での不平等)は、世界的な課題です。ジェンダー平等が進むスウェーデンでも、まだ女性が不利な場面や制度があります。一方の日本は、ジェンダー平等が先進国で最下位です。

* ジェンダーギャップ指数(内閣府のページ) 118位 / 146ヶ国(2024年6月12日 発表)

今回、イケア・ジャパンが提案する「家での平等」から始め、職場や地域などのコミュニティ、社会全体のジェンダー平等に広げようという姿勢は地に足がついていると感じました。また、産官学の連携を進めるため、イケア・ジャパンが率先して話し合いと行動のプラットフォームを作っていくやり方もとても前向きです。


エシカルSTORYからのフィードバック

エシカルSTORYロゴ
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イベントに参加したメディアとして、エシカルSTORYからのフィードバックです。気になった点は、今回のシンポジウム全体を通して「家の中」について話す時、「夫婦」ないし「夫婦+子ども」の勤労世帯(同居しており、全員が健康であり、共働きをしている)を前提に話が進んでいたと受け取れる点です。

実際には「家庭」「家族」「家」のあり方はさまざまです。たとえば、2020年の国勢調査によると世帯構成で一番多いのは「単身世帯」です。また、今は高齢世帯が増えており、勤労していないケースもあるでしょう。ほかにも結婚していても別居している、ひとり親世帯、子どもが不登校やなんらかの障害を抱えている等、多様なあり方が考えられます。

今後、Life at Home 2050のかかげる「平等、多様性、多様性の受け入れ」にもとづいて、多様な「家」のあり方を社会全体で受け入れられる(インクルージョン)ように、エシカルSTORYもいっしょに考え、行動していきたいと思います。


取材・写真・文:木村洋平
写真提供:イケア・ジャパン株式会社