2021年に発効した「核兵器禁止条約」は「核兵器不拡散条約」とちがい、世界から核兵器をなくすことを目指しています。今のところ実効性は弱いものの、国際世論をつくり圧力としてはたらいています。
夏は、原爆が投下された日(1945年の8月6日に広島、8月9日に長崎)が2日あります。そのため、「核兵器禁止条約」がよく話題になります。これは2021年に発効した(国際的な法律として有効になった)新しい条約です。それまでにも「核兵器不拡散条約」(NPT)がありました。では、この2つはどうちがうのでしょうか?
核兵器禁止条約のよいところ
核兵器禁止条約は、核兵器を全面的に禁止し、今世界にある分をなくす(廃絶する)ための条約です。この条約に批准(ひじゅん)し、国際法として受け入れた国は、核兵器を使えないのはもちろん、作れず、持てず、ほかの国に配備してもいけないし、今持っている核兵器があれば、それをなくすまで破棄するよう努める必要があります。
ですから、もし世界のすべての国と地域が「核兵器禁止条約」に参加すれば、核兵器はひとつも使えなくなります。そうすれば、あとは今ある核兵器をだんだんになくす道筋になり、いずれは核兵器のない未来が実現するでしょう。
核兵器禁止条約は、核兵器に関するもっとも全体的な取り組みで、核兵器のない未来を目指している点で画期的といえます。
核兵器禁止条約の限界
核兵器禁止条約は、このように徹底した条約なのですが、かえって弱いところもあります。それは核保有国(核兵器を持っている国)が参加していないということです。核保有国には、早くから保有していたアメリカ、フランス、イギリス、中国、ロシアのほか、インド、パキスタン、北朝鮮が保有を公表しており、ほかにも核保有の疑いのある国があります。こうした国々は、「核兵器禁止条約」を国際法として受け入れていません。ですから、今、核を持っている国は核兵器禁止条約の制限を受けずに、核を使ったり開発したりできます。これが核兵器禁止条約の今の限界です。
なぜそうなってしまうのでしょうか? それには、そもそも「国際法」や「条約」とはなにかを考える必要があります。国際社会は、基本的に「国」を単位として成り立っています。そして、国際的に法律として通用する約束は「条約」として生まれます。そして、その条約を受け入れた(=条約に批准・加入した)「国」がその国際法にしたがいます。ですから、条約に参加しない国は、どんな約束事が世界に生まれてもそれを守らなくてよいのです。
「なにかおかしくない?」と思うかもしれません。国内の法律と比べるとそう感じられます。国内の法律は、たとえば国会で議論され、法律として認められれば、自動的に国民全員が守ることになります。しかし、国際社会ではそうではありません。国際社会では、「国」(=国家、国民国家)の独立性をすごく大事にしています。ですから、国がその条約を受け入れていないのに、無理やり守らせる、ということはできません。
もしかしたら「無理にでも守らせたほうがよいのでは?」と思うかもしれませんが、それができると、今度は国際法を利用して、他国を勝手に支配することが起こりえます。これを「内政干渉」(国内の政治に外国が関わり、支配権を持つこと)といいます。これはこれで、認めてしまうと混乱や戦争が起きやすくなります。少なくとも今のところ、国の独立性を大切にするために、その国が参加していない条約を押しつけることはできません。
核兵器禁止条約がつくれる国際世論の圧力
このような背景があるため、ある意味「理想的」で「徹底的」な核兵器禁止条約には、参加しない国が多くあります。なにより核保有国が参加していませんし、核保有国と軍事的な結びつき(守ってもらうなど)がある国も参加したがりません。日本も参加していません。
こちらに批准した国の一覧があります。
批准しているのは、アフリカ、南アメリカ、東南アジアの国が多いとわかります。一方、核保有国であるアメリカ、フランス、イギリス、中国、ロシアなどは批准していません。また、日本のほか、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、カナダ、韓国、オーストラリアなどの国がやはり批准していません。
もともと核兵器禁止条約は、「第三世界」や「発展途上国」といわれてきた国々がかなりの外交努力をして作り上げた側面があります。ついに条約は、ニューヨークの国連本部で採択されました(2017年)。そこまで、条約の文章を練り上げ、いくつかの言語に翻訳して、外交的に採択まで持ち込んだ努力は並大抵(なみたいてい)ではなかったと思います。しかし核保有国が参加しないかぎり、「核兵器は一発も世界から減らない」という側面もまた現実としてあります。
このように核兵器禁止条約は、すぐに世界から核兵器をなくせる力を持っているわけではなく、むしろこれからも外交努力を通じて、国際社会で「核兵器を禁止しよう」という圧力をかけていくためのきっかけ、支点になっています。たとえ核を持っていない国であっても、「私の国は核兵器禁止条約に署名・批准します」という国が増えていけば、核兵器を抑える国際世論が高まります。もちろん、核保有国が批准すれば、核兵器を使えなくなりますし、すでにある分を減らすための措置がおこなわれていきます。
核不拡散禁止条約(NPT)の実効性
一方、「核不拡散禁止条約」(NPT)は1970年に発効しており、2021年の時点で191の国と地域が受け入れている条約です。この条約の締約国には核を持つアメリカ、フランス、イギリス、中国、ロシアも含まれています。この条約は、1970年の時点で核兵器を持っていた5ヶ国(アメリカ、フランス、イギリス、中国、ロシア)の外に核兵器が広がらないように定めた国際法です。
条約は、核兵器をその5ヶ国のほかに持たせない、作らせないだけでなく、その5ヶ国に核軍縮(核兵器を減らすこと)をするように定め、また、原子力については平和利用(発電など)はしてよいが、兵器への転用をしないように定めています。
このように「核不拡散禁止条約」は名前の通り、核兵器の「不拡散」(=5ヶ国の外に広がらないように)を定めた条約です。この点を見ると、「核兵器禁止条約」よりもずっと制限の弱い条約ですが、世界中のほとんどの国と地域が参加している点で、実効性があるといえます。
まとめ
「核兵器禁止条約」は、世界から核兵器をなくすことを目指した新しい条約です。それは国際世論をつくり、核保有国に圧力を与えています。しかし、禁止や制限が徹底的であるため、核保有国や核保有国と軍事的な結びつきのある国が参加せず、実効性が弱くなっています。一方、核兵器が広がらないように定めた「核不拡散禁止条約」(NPT)には世界のほとんどの国と地域が参加しています。どちらの条約にも一長一短があります。
なにを選ぶとしても、私たちは確かに世論をつくり続けています。
参考:核兵器禁止条約とは – ピースアクションとは?(日本生活協同組合連合会)
核兵器禁止条約の署名国・批准国一覧(広島市)
NPTとはどんな条約ですか?(長崎大学核兵器廃絶研究センター)
文:木村洋平