開発途上国向け簡易式トイレシステムSATOを世界に広める(株式会社 LIXIL 坂田優さん)

LIXILは、開発途上国向け簡易式トイレシステム「SATO」や手洗いステーション「SATO Tap」を世界に普及させています。これにより、途上国の水と衛生をめぐる環境をよくする取り組みを推進しています。

LIXIL SATOのプロジェクトメンバー
前列左が坂田さん

取材日:2024年2月27日

株式会社 LIXIL(リクシル)は、住まいの夢を実現する製品やサービスを提供し、毎日世界で10億人以上の人びとの暮らしを支えるものづくり企業です。トイレやバス、キッチンなど水まわりの製品を長く手がけてきた歴史もあり、2012年にSATO(サト)ブランドを立ち上げました。


SATOとは? 水と衛生の課題

SATOのプロジェクトはバングラデシュにはじまり、アフリカのルワンダやケニア、さらにインドやフィリピン、インドネシアなどで衛生的なトイレと手洗い環境をととのえています。

主力の製品は、写真のような簡易トイレ「SATO」と「SATO Tap」という手洗いステーションです。SATO事業部では、これらの製品を現地に提供し、生活のなかに根づかせるためのサポートをしています。

SATO和式のトイレ

SATOの使い方

SATOのトイレは、プラスチック製の和式(洋式の製品もある)の便器と、その下についた弁でできています。排泄後、水を流すとこの弁が開き、排泄物を下に押し出したあと、弁がしまります。そのことでトイレのある空間を衛生的に保つことができます。

世界では、屋外で排泄をする状況にある人が約4.1億人、安全で衛生的なトイレを使えない状況にある人が約35億人います。こうした環境では、感染症が広まりやすい、下痢などで命を落としやすい、女性や子どもが危険な目にあいやすいといった問題が起こります。

SATOの事業はそうした問題を解決し、水と衛生についてより安全な環境をつくろうとしています。


SATO事業を8年手がける坂田さん

SATO事業に8年以上たずさわり、事業を成長させてきた坂田優(さかた すぐる)さんにお話をうかがいました。

LIXILの 坂田さんとインドの顧客
一番右が坂田さんインドにて

坂田さん「SATOには2015年からかかわっています。当時、アメリカでMBA(経営学の修士号)をとって帰ってきた私は、起業家的な仕事をしたいと思っていました。

当時、SATO事業部の前身は、10名くらいの小さなチームで、事業の立ち上げから発展をめざす段階にありました。LIXILのような大きな企業のなかで、このように小さな部署はめずらしいなと思い、ここで仕事をしたいと願い出ました。

SATOは、いまでいう「社内起業」や「社内スタートアップ」のプロジェクトだったのです。

SATOで仕事をしていて感じるのは、日本で「当たり前」と思っていることが、海外では「当たり前」でないことはよくあるということです。インドでは、野外排泄の多い地域に行きました。SATOが使えるようになると、小さな子どもが喜んでくれました。私にも小さな子どもがいたので、とてもうれしかったです。

坂田さんとインドの赤ん坊お母さん
インドにて

ケニアでは、学校のトイレをSATOに変えていくプログラムがありました。開所式のとき、いつの間にか音楽が流れ始め、みんなで踊り出す流れになったのが印象的でした。現地は、そういう文化なのです。

もうひとつ、SATOにかかわって気づいたのは、日本でよいと言われる製品を送ることがよい支援になるわけではない、ということです。日本では機能が豊かな何十万円するトイレもあります。でも、それを持っていくことがかならずしも喜ばれるわけではありません。SATOは簡易なトイレですが、これを日常的に使えるようにサポートすることの方が役に立てる場合が多くあります。」


SATOをソーシャルビジネスとして経営する

SATO事業の支援は、簡易トイレの製品を現地に送れば、それで済むわけではありません。たとえば、屋外排泄が日常的で、トイレに慣れていない地域ではSATOがあっても使われません。そういう習慣がないからです。

SATO事業部では、製品開発のみならず、現地のメーカーやNGOと連携し、現地に生産・販売体制をつくり、人材育成にもとりくんでいます。Make(作る)、Sell(売る)、Use(使う)というサイクルを回しつづけることで、現地に事業や雇用を生みだし、継続的な衛生環境の改善ができるようにしています。

この全体が地域にうまくなじめば、SATO事業部が介入しつづけなくても、トイレを使う習慣が根づいていきます。そのためには、現地のさまざまなトラブルにこまやかに対応し、現地の困りごとを見つけていく総合的な知見がいります。水や衛生の専門家の力も必要です。

こういった点で、歴史の長いメーカーであるLIXILのサポートが役立ちます。水・衛生をめぐる世界の課題にこまやかに対応していくために、SATO事業部はリサーチとはたらきかけを続けています。


SATO事業部 Asiaリーダー 坂田優(さかた すぐる)さん

2003年に新卒で入社し、国内既存代理店との関係の構築、製品やサービスの販売促進を経験。2016年12月、現在のSATO事業部へ異動し、様々な衛生に関わるプロジェクトに関わる業務改善、戦略の策定、施策推進に従事。2021年7より現在のアジアのリーダーとなり、アジア全体の戦略の策定、販売やプライチェーン、業務改善を他の部門と共に推進。2023年はインドネシアとフィリピンの両国でビジネスの立ち上げも実施しました。


取材・文:木村洋平
写真提供:株式会社 LIXIL

* エシカルSTORYでは「やさしい日本語」を心がけ、ひらがなを多めに使っています。